【事案の概要】
本件は、未成年者の祖母である相手方が、未成年者の母である抗告人A及び養父である抗告人Bを相手として、未成年者の監護者を相手方と定めることを求める事案である。
⑴ 母親Aと父親Iが結婚。母親Aが子を平成21年出産。母親Aは、子とともに、同年12月から母親Aの祖母方に戻る。平成22年2月母親Aと父親Iが離婚。子の親権者を母親Aとする。子の監護養育は、祖母と母親がほぼ同程度の割合で分担。
⑵ 母親Aは、平成22年頃から、B(後の未成年者の養父)と交際開始。母親Aは、子が小学校入学時頃から、祖母に子の監護養育の少なくとも7割程度の部分を委ねる状態になった。
⑶ 母親Aは、平成29年頃から、子を連れて、B方に連れて行くようになった。母親Aは、嫌がる子(女児)をBと一緒に入浴させたり、マッサージをさせたり、Bの子に対する不合理な発言等に追従。子の前で、祖母に対して大声で怒鳴り散らす。子は、精神的に不安定になり、心身症を発症し、小学校に通えなくなる。
⑷ 母親A及びBは婚姻。祖母に対し、子を引き渡すよう求めるも、祖母がこれを拒否。母親Aは、祖母・子に無断で、子を転出させて別の小学校への転校手続をし、子に代諾して養父と子を養子縁組させる。
⑸ 祖母は、平成30年2月,母親Aに対し、未成年者の監護者を祖母に指定することを求める調停を申し立てたが、同年9月に不成立となって審判手続に移行。また、祖母は、平成31年3月、B(養父)に対し、未成年者の監護者を祖母に指定することを求める審判を申し立てた。大阪家裁は,令和元年5月28日、これらの事件を併合した。
【争点】
抗告人から、監護者の指定は「子の監護に関する処分」(家事事件手続法39条、別表第2の3項)の審判事項であるが、子の監護処分の根拠条文である民法766条は、離婚に際する子の監護処分を決めるものであって、同条の趣旨から、未成年者の祖母である申立人には本件の申立権が認められないから本件申立ては不適法であるなどと主張がなされた。
【裁判所の判断】
子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護者指定の申立てをすることができるものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記認定事実及び一件記録によれば、相手方(未成年者の祖母)は、未成年者の出生後間もない時期から未成年者と同居して、母である抗告人Aとともに未成年者を監護し、未成年者が就学する頃からは同抗告人(母)よりも未成年者の監護をより多く担い、同抗告人(母)が、抗告人B(養父)と同居するために相手方(未成年者の祖母)宅を退去した後は、抗告人A(母)の依頼を受けて、未成年者を一人で監護していたことが認められるから、相手方(未成年者の祖母)は、未成年者を事実上監護する祖母として、未成年者の監護者指定を求める本件申立てをすることができるものというべきである。
【検討】
下級審裁判例では、すでに、民法766条、家事事件手続法別表第二3項の子の監護に関する処分事件につき、文理上は、協議離婚の際の規定であるにもかかわらず、別居中の父母間の面会交流に関する紛争、監護者指定、子の引渡し等でも、類推適用ないし準用して問題解決を図ることを肯定してきた。最決平12・5・1民集54巻5号1607頁は、別居中の父母の面会交流について類推適用して問題解決を図ることを認めている。
また、祖父母、叔父叔母等の第三者が子の監護者の指定を申し立てて、民法766条、家事事件手続法別表第二3項が類推適用されて、監護者に指定されたケースも多数あった。
他方で、祖父母等の申立資格を否定する裁判例もあり、仙台高裁は、766条1項および家事審判法9条1項乙類4号(家事別表第二3項)の規定の構造からして、「家庭裁判所に対して子の監護者の指定の審判の申立てをすることができる者が協議の当事者である父又は母であることはいうまでもない」とし、このような協議のできない場合に「家庭裁判所は、いわば父母に代わって子の監護者を定める」ことが同条の趣旨であるとした上で、第三者である里親らに親権者以外の監護者の指定の申立権はないとして、里親らの申立てを却下した(仙台高決平12・6・22家月54巻5号125頁)。
本件高裁判決は、規定の欠缺や条文の不存在を理由に、家庭裁判所の審判・調停から外すことなく、子の福祉に沿った弾力的かつ妥当な解釈運用を図る、これまでの下級審裁判例の考え方をさらに積み重ねるものとして妥当であると考える。