商品やサービスの販売価格を表示するにあたって、景品表示法は守るべきルールをいくつか定めています。今回は、二重価格表示について、不当表示にあたる例・不当表示にあたらない例・措置命令が出された事例などの具体例も交えながら、広告を行う上で注意するべきポイントについて解説していきます。
1 二重価格表示とは?
二重価格表示とは、景品表示法が定める有利誤認表示のひとつです。
景品表示法は、一般消費者が適正に商品選択を行うことができるよう、価格表示や広告に関して様々な規制を設けています。
これらの規制の中のひとつに有利誤認表示・二重価格表示があります。
二重価格表示は、価格の安さを強調し、一般消費者を誘引するために最もよく使われる広告の手段であるといえます。
公正取引員会が公表している価格表示ガイドラインによりますと、二重価格表示については、「事業者が自己の販売価格に当該販売価格よりも高い他の価格(「比較対照価格」といいます。)を併記して表示するもの」と定義が定められています。
そして、「その内容が適正な場合には、一般消費者の適正な商品選択と事業者間の価格競争の促進に資する面がある。」としており、二重価格表示そのものを禁止しているわけではありません。
つまり、二重価格表示であってもその内容が適正であれば不当表示には当たらないのであり、内容が適正といえるかどうかが重要なのです。
価格表示ガイドラインは、下記のような二重価格表示については、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあるとしています。
① 同一ではない商品の価格を比較対象価格に用いて表示を行う場合
② 比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
①について
中古品について、中古品であることを明確に表示せず、「新品の半額」と表示する場合、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示となるおそれがあります。このような表示では、消費者は、中古品が新品と同等の品質であると誤認し、半額という価格が有利な取引条件であると誤認してしまうおそれがあるのです。
ただ、同一ではない商品を用いた二重価格表示であっても、異なる商品について現在の販売価格を比較することは景品表示法に違反しないと考えられます。それぞれの商品の品質の違いが明確に表示され、同一の販売条件のもと販売されていることが一般消費者に認識できるのであれば、一般消費者は商品の違いを正確に認識したうえで商品購入の判断や選択を行うことが出来るといえるので、不当表示にはあたらないといえるのです。
例えば、新品の商品と中古品・キズ物の商品について、後者が中古品・キズ物であることを明確に表示したうえで「新品の3割引き」などと表示する場合、一般消費者は両者の品質の違いを正確に認識・理解した上で商品購入の判断・選択を行うことができますので、不当表示にはあたりません。
このように、同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いる場合でも、両商品の品質の違いが一般消費者に対して明確に表示されていれば、不当表示に該当するリスクを避けることができます。
②について
比較対照価格として、存在しない架空の価格や実際のものよりも高い価格を表示するなど、虚偽の価格を表示する場合、不当表示に該当する可能性が高くなります。
また、比較対照価格自体は、実際に存在する価格だとしても、その価格がどのようなものであるかを明示する必要があります。例えば、比較対照価格が適用される商品の範囲や顧客の条件、比較対照価格の性質(どの時点での販売価格なのか、希望小売価格なのか等)を明確に表示する必要があります。
2 過去の販売価格等を比較対照価格とする二重価格表示
(1) 問題となり得る価格表示
企業が一定の期間セールを実施し、「期間限定」としてセール期間中は、ある商品やサービスについて、「当店通常価格」「セール開始前価格」とされる価格よりも低廉な価格を併記して表示した広告を用いて商品の販売を行うということは、私たちの日常生活の中で馴染みのあるものです。
このような表示・広告は、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示にあたり、景品表示法上のルールに反しないように注意が必要となります。
価格表示ガイドラインは、このような価格表示について、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」(「最近相当期間価格」といいます。)という定義を定め、不当表示について以下の見解を示しています。
① 同一の商品について最近相当価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
② 同一の商品について最近相当価格を比較対照価格とする場合には、不当表示に該当するおそれはない。
比較対照価格が、特殊な価格が適用されるような特異な時期の価格であったり、販売期間が極端に短すぎるような場合は、不当表示にあたる可能性があります。
特に注意するべきなのは、二重価格表示を行う時点では店頭販売をしているが、以前は限定販売や受注販売をしていた場合や比較対照価格とするための実績作りとして一時的に高い価格で販売していた場合などは、不当表示にあたる可能性があります。
実績作りのための一時的な販売かどうかは、その価格で販売するようになった経緯・販売期間の長さや販売期間の根拠などを考慮して判断することになります。
(2) 不当表示に該当するおそれのある表示
① 実際の販売価格より高い価格を「通常価格」と表示し、比較対照価格に用いること。
② 販売実績のない商品や販売期間が極端に短い商品について「通常価格」などと表示して販売すること。
■措置命令が出された事案
X社は、平成●年●月後半以降に実施した「夏期セール」と称するセールにおいて、衣料品を一般消費者に販売するにあたり、一定の期間店頭の表示物に「40%OFF」等と記載するとともに、対象商品に取り付けた値札(タグ)に「販売価格+税」と記載し、当該販売価格の上に当該販売価格から40%割引いた販売価格を記載したシールを貼付することにより、あたかも、対象商品を所定の店舗における通常の販売価格から40%割引いて販売するかのように表示していたが、実際には、対象商品はセール実施前に販売されたことのないものであって、販売価格は、セールにおいて40%という割引率を表示するためにA社が任意に設定したものであった。
Y社は、スポーツ用品等を一般消費者に対し販売するにあたり、新聞の折り込みチラシにおいて、「★は当店平常価格です」と記載したうえで、特定の商品について、「★税込10,800円レジにて50%OFFで特別価格 本体価格5,000円 税込5,400円」と記載するなど、あたかも、「★」と称する価格は所定の店舗において対象となる商品について平常販売している価格であり、実際の販売価格が平常販売の価格に比較して安いかのように表示していたものの、実際には、「★」と称する価格は、所定の店舗において対象商品について最近相当期間にわたって販売された実績のないものであった。
→これらの事例では、「販売価格」とされた価格は実際には存在しない架空の価格であったため、「比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合」として景品表示法に違反する不当表示であると判断されたことになります。
3 将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
(1) 問題となり得る価格表示
2と似たものとして、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示があります。
価格表示ガイドラインは、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
「表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき」には、不当表示に該当するおそれがあり、「将来の価格として表示された価格で販売することが確かな場合・・・以外において、将来の販売価格を用いた二重価格表示を行うことは、適切でないと考えられる。」としています。
これは、例えば、「●月●日まで5,000円、それ以降は10,000円」というように、現在の価格が将来の価格よりも低額であることをアピールして消費者の購買を誘う表示のことです。
将来の価格というものは、あくまでも将来的なものであって不確実なものですので、表示した将来の販売価格で販売する確実な予定がない場合は基本的に行うべきではないと価格表示ガイドラインに規定されています。
過去の販売価格は、実際のその店舗における販売価格である場合がありますが、将来の販売価格というものは、そもそも現時点では存在しないものであり、過去の販売価格に比べてその販売価格で販売される確実性がどうしても低いと考えざるを得ず、必然的に虚偽になるおそれが高いという考えがあるのです。
典型的なものとして、将来販売する予定のない価格を比較対照価格とする表示があります。また、「●月●日までは5,000円 それ以降は100,000円」という表示のように、一定の期間経過後実際に販売する予定のある価格であるとしても、その販売価格が、普通に考えれば、その価格で購入する一般消費者はいないと考えられるほど高額であれば、その販売価格は現在の販売価格を低額に見せるための価格に過ぎないとして、このような表示は不当表示にあたるとされる可能性はあります。
「確実な予定」があると認められるためには、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための「合理的かつ確実に実施される販売計画」をセール期間を通じて有している必要があるとされています。
販売計画の内容が、それを実行したとしても比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができる見込みが客観的に乏しいなどのために合理的なものと認められない場合は「合理的な販売計画」を有しているとは認められません。
また、販売計画の内容が、比較対照価格である将来の販売価格で販売するか否かについて、販売者がセール開始後に事後的に判断することとしている場合や発生するか否かが不確実な事実にかからしめている場合などは、「確実に実施される」とは認められないとされています。
事業者が、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していたことを示す資料やデータを有し、かつ、将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在する場合は、当該特段の事情が発生する以前において、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことは推認されないとされています。したがって、事業者から、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していたことを示す資料やデータ及び特段の事情が存在することを示す資料の提出があり、かつ、当該特段の事情の発生後遅滞なく当該表示を取りやめ、顧客に対し、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができなくなったことを告知している場合等においては、原則として、これを景品表示法に違反する有利誤認表示として取り扱うことはないとしています。
この場合における合理的かつ確実に実施される販売計画を有していたことを示す資料やデータとしては、下記のようなものが考えられます。
・商品の製造計画や仕入業者との契約関係書類など
・対象となる商品と同一または類似の商品の売上を示す資料やデータ
「将来の販売価格で販売できない特段の事情」とは、災害の発生や感染症の流行等のように、事業者の責めに帰することのできない不可抗力を原因とする場合をいいます。
(2) 不当表示にあたるとされた事例(平成30年3月16日)
Aはある商品を一般消費者に販売するにあたり、テレビショッピング番組において、セール企画として実際の販売価格に当該価格を上回る「明日以降」または「期間以降」と称する価格を併記した映像を放送することにより、あたかも「明日以降」または「期間以降」と称する価格は、セール企画終了後に適用される通常の販売価格であって、実際の販売価格が当該価格に比して安いかのように表示していた。
しかし、実際には、これらの商品がセール企画終了後に販売される期間は2日間又は3日間のみであって、ごく短期間のみ「明日以降」または「期間以降」と称する価格で販売するにすぎず、当該価格での販売実績もAにおいて実質的に問われないものであって、将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められないと判断されました。
4 希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示
(1) 問題となり得る価格表示
「希望小売価格」とは、ある商品の製造業者などがその商品について、小売業者が販売価格を決定する際の目安として設定する価格のことをいいます。
「希望小売価格」については、以下の①、②に該当しない価格を希望小売価格として比較対照価格として用いる場合、不当表示に該当するおそれがあるとされています。
① 製造業者、卸売業者、輸入総代理店等、小売業者以外の者により、小売業者の価格設定の参考となるものとして設定されている。
② あらかじめ、新聞広告、カタログ、商品本体への印字等により公表されている。
(2) 不当表示に該当するおそれのある表示
・販売する商品と同一ではない商品の希望小売価格を比較対照価格にする場合
・製造業者が小売業者に対してのみ示した価格を希望小売価格として比較対照価格とする場合
5 競争事業者の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
(1) 問題となり得る価格表示
競争事業者による販売価格を比較対照価格とする価格表示では、「同一の商品について代替的に購入し得る事業者の最近時の販売価格」との比較が問題になります。「同一の商品について代替的に購入し得る事業者」とは、販売地域が重なる事業者のことをいいます。
販売地域が重なるかどうかは、事業者の規模(全国展開しているか、ある特定の地域のみに展開しているのか等)、事業形態(店舗販売のみかインターネットなどによる通信販売をしているのか等)等によって判断されます。
このような事業者の販売価格を比較対照価格として表示する場合、「最近時の販売価格」を正確に表示する必要があります。「最近時の販売価格」とは、表示をする時点における競争事業者の最新の販売価格をいいます。
具体的には以下のようなものとされています。
① 店頭表示のように表示が実際のセールと同時に行われ、当該表示が一定期間継続するものについては、表示が行われるすべての時点で、競争事業者において実際に販売されている価格
② チラシ広告等のように実際のセールよりも前に表示が行われるものについては、表示後の実際のセール期間中に、競争事業者において実際に販売されていると考えられる価格
つまり、競争事業者の過去の販売価格を比較対照価格として表示することは不当表示となってしまうおそれがあるのです。
また、特定の事業者が採用する販売価格のみならず、いわゆる市価を比較対照価格とする価格表示についても不当表示に該当する可能性があります。
市価について、ガイドラインは、「当該事業者が販売している地域内において競争関係にある事業者の相当数の者が実際に販売している価格を正確に調査することなく表示する場合には、不当表示に該当するおそれがある」としています。市価は、特定の事業者による販売価格と異なり、漠然としたものになりやすいため、景品表示法違反とならないためには、競業の地域において、できる限り多くの事業者の販売価格を正確に調査することがポイントとなります。
(2) 不当表示に該当しないとされた事例(東京高判平成16年10月19日)
家電量販店であるAが行った「当店はBよりお安くしています」等の表示が不当表示にあたるかどうかが問題となりました。
判決では、問題となる表示が適用される商品の範囲は明示されていないものの、「全商品」「全品」という記載が明確になされているわけではないこと、表示が掲示されている場所は店舗の外壁等であって個々の商品に付されているものではないこと等から、問題となる表示は概括的・包括的な内容のものであって、表示に接した消費者は、一般的に、価格の安さで知られるBよりもさらに安く商品を売ろうとするAの企業姿勢の表明として認識するにとどまるとして、景品表示法上の不当表示には該当しないと判断しました。
6 販売価格の安さを強調するその他の表示
(1) 問題となり得る価格表示
「訳あり品」「在庫処分」「大幅値下げ」「他店より安い」というような、商品の安さを強調するための表示は街中でもよく見かける広告ですが、このような広告についても注意が必要です。
例えば、「当店はA店よりお安くします!」というような表示ですが、このような表示については、表示の内容、表示の方法、両店舗における販売価格の状況、両店舗間の競争状況等を考慮し、一般消費者がどのような認識を抱くかによって不当表示にあたるかどうかが判断されます。一般消費者が全商品について他の店舗よりも安く購入できると認識する場合は不当表示にあたる可能性がありますが、一般消費者の認識が、他の店舗より安く購入できるのは一部の商品に限定されるだろうというようなものにとどまるときは、不当表示にはあたらないと考えられます。
(2) 不当表示に該当するおそれのある表示
・「全品大幅値下げ」「全品大特価」などと強調して表示しているが、実際には通常価格より安くなっている商品は表示された商品のうちの一部に限定されている場合
7 その他景品表示法違反とならないよう注意すべきポイント
景品表示法の規制対象となるのは、「広告その他の表示」です。
「広告その他の表示」とは、下記のようなものをいいます。
① 商品、容器または包装による広告その他の表示およびこれらに添付した物による広告その他の表示
② 見本、チラシ、パンフレット、説明書面その他これらに類似する物による広告その他の表示(ダイレクトメール、ファクシミリ等によるものを含む)および口頭による広告その他の表示(電話によるものを含む)
③ ポスター、看板(プラカードおよび建物または電車、自動車等に記載されたものを含む)、ネオン・サイン、アドバルーン、その他これらに類似する物による広告および陳列物または実演による広告
④ 新聞紙、雑誌その他の出版物、放送(有線電気通信設備または拡声器による放送を含む)、映写、演劇または電光による広告
⑤ 情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット、パソコン通信等によるものを含む)
文字だけでなく、映像や写真による広告も規制の対象になりますし、テレビやインターネット上の広告も規制の対象になります。インターネットやスマートフォンの普及とともに、最近よく見かけるようになったスマートフォン用のインターネット広告(タッチして開くタイプの広告やスワイプするタイプの広告など)・動画再生の前に流れる広告動画、メール配信の形をとる広告なども、もちろん規制の対象になります。
このように、企業が一般消費者を誘引するために作成する広告については、およそほとんど全てのものが景品表示法の規制の対象になり得ます。
特に、最近では、令和元年度に出された措置命令40件のうち28件、令和2年度33件のうち23件はウェブサイト上の広告についてのものであり、インターネット広告に関しても注意が必要です。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。