会社(法人)破産申立をする場合の公租公課の注意点、破産手続上の公租公課・給料債権・一般の取引上の債権の取扱いと優劣、破産手続終了後の公租公課の扱い、代表取締役の責任などについて述べてみました。

1 はじめに

会社が資金繰りに行き詰まった場合、社長は、資金ショートする前に、会社を整理する方法を考えなければなりません。何も対策をとることなく、資金ショートの日を迎えてしまえば、社長は、債権者、従業員などから責められることが確実で、誰も助けてくれないのですから夜逃げするしかないということにもなりかねません。

会社を整理するには、破産、民事再生、任意整理などの方法がありますが、任意整理は原則として全員の同意が必要で、現実的な方法ではありません。

民事再生は、会社の負債を圧縮し、これを分割で支払っていく方法ですが、これまで赤字だったために経営危機に陥った会社が、今後、利益を出し、この利益でこれまでの負債を分割払いしていかなければならないのですから、多くの場合この方法も困難です。

そこで、破産手続を選択せざるを得ないというのがほとんどの場合になりますが、今回は、破産手続の中で公租公課がどのように扱われるのかを見ていきたいと思います。

2 破産を申し立てる場合の公租公課

破産を申し立てる場合、弁護士費用、裁判所に対する予納金などを用意しなければならず、現金・預貯金でこれらを賄える場合はよいですが、そうでない場合は、1〜2ヶ月後に入ってくる会社の売掛金をあてにしなければならないことがあります。

ところで、破産申立を考えなければならない法人は資金繰りに行き詰まっているのですから、法人税、消費税、源泉徴収税、固定資産税、健康保険料、厚生年金保険料などの公租公課の滞納がある場合が多いと考えられます。

買掛金などの取引上の債務の場合は、取引先は訴訟を起こし勝訴した後に始めて、会社が持っている売掛金などに対して差押ができるため、差押まで時間がかかります。しかし、公租公課の場合は、自力執行権と言って、裁判所の手続を経ずに差押ができますから、通常の買掛金などに比べて、はるかに早く会社の売掛金の差押ができることになります。

売掛金を差し押さえられると、これを弁護士費用や裁判所に対する予納金などにあてることができなくなりますから、減額をしてもよいからできるだけ早く売掛金を回収する、税務署などに対する弁護士の受任通知を遅らせるなど、弁護士と相談して、費用、予納金を確保する方策を考える必要があります。

3 破産開始決定後の公租公課の扱い

破産開始決定後の破産手続きの中では、公租公課は次のように扱われます。

⑴ 財団債権として扱われる公租公課

① 破産開始決定前の原因にもとづく公租公課のうち、

ア 破産開始決定当時、納期限が到来していないもの、または納期限から1年が経過していないもの。
イ これについて生じた延滞税、利子税、延滞金

② 破産開始決定後の原因に基づく公租公課のうち、

ア 破産財団の管理・換価・配当に関する費用の請求権
イ これについて生じた延滞税、利子税、延滞金

⑵ 優先的破産債権として扱われる公租公課

① 破産開始決定前の原因にもとづく公租公課のうち、

ア 破産開始決定当時、納期限から1年を経過したもの、
イ これについて生じた破産開始決定前の延滞税、利子税、延滞金

⑶ 劣後的破産債権として扱われる公租公課

① 破産開始決定前の原因にもとづく公租公課のうち、

破産開始決定当時、納期限から1年を経過したものにより生じた、破産開始決定後の延滞税、利子税、延滞金。

② 破産手続開始決定後の原因にもとづく公租公課のうち、

破産財団の管理・換価・配当に関する費用の請求権に該当しないもの。

③ 加算税、加算金

※ 破産手続きにおいては、財団債権、優先的破産債権、一般破産債権、劣後的破産債権の順で優先権があります。一般破産債権とは、通常の取引で発生した債権などを言います。

4 公租公課、取引上の債務、未払い給料・退職金の優劣

⑴ 買掛金などの取引上の債務

上記の3⑴⑵にあるように、公租公課が財団債権、優先的破産債権として扱われる場合、買掛金など取引上の債務に対する支払いは、財団債権、優先的破産債権の支払いをした後ということになりますので、公租公課の滞納額が大きい場合は、取引上の債務に対する支払いはないことなります。

そこで、公租公課の滞納があるか、その額がどの位かは、会社の取引先にとって大きな関心事となります。

⑵ 未払給料・退職金

未払給料については、破産開始決定前3ヶ月分の未払いについては財団債権となり、それ以前の分は優先的破産債権となります。退職金については、退職前3ヶ月分の給料の総額と破産開始前3ヶ月分の給料の総額のうち、いずれか多い方が財団債権となり、それ以前の分は優先的破産債権になります。

ところで、破産管財人が財団債権のすべてを弁済することができないときは、債権額に応じて按分弁済することになりますので、公租公課の財団債権も、給料・退職金の財団債権も、債権額に応じて按分配当を受けることになります。

しかし、破産管財人が優先的破産債権の全額を弁済できないときは、優先権はa公租(国税・地方税)、b公課(社会保険料など)、c私債権(給料、退職金など)の順になりますので、公租公課の額が多いときは、給料・退職金には配当がないことになります。

したがって、給料・退職金の支払いを受けていない従業員にとっても、公租公課の滞納の有無、その額は大きな関心事になります。

※ なお、公租公課と給料・退職金の扱いは上記のとおりですが、給料・退職金については、労働者健康安全機構が一定の限度で立替払いを行う、未払い賃金立替払いという制度があります。

5 会社の破産によって未払いの公租公課はどうなるのか。

これまで述べたように、公租公課は財団債権、優先的破産債権、劣後的破産債権として配当を受けることができるのですが、配当を受けることができず、結局残ってしまった公租公課はどうなるのでしょうか。

破産手続きの終結によって、会社の法人格は消滅し会社はなくなりますから、残った公租公課も結局消滅することになります。

※ なお、会社ではなく、個人の破産の場合は、破産手続が終了しても個人の法人格は残りますから、公租公課が消滅するということはありません。個人の場合、免責と言って債務をゼロにする手続があるのですが、公租公課の場合は、免責決定を得ても債務を免れることができません。

ただ、例えば国税徴収法153条では、次のいずれかの事由があるときは、税務署長は滞納処分の執行を停止することができるとされています。
■ 滞納処分の執行などをすることができる財産がないとき
■ 滞納処分の執行などによって、滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき
■ 滞納者のいる場所と、滞納処分の執行などをできる財産が両方とも不明であるとき

そして、執行の停止が3年間継続したときには、国税の支払義務は消滅します。さらに、国税を徴収することができないことが明らかであるときは、3年をまたず、税務署長は国税の支払義務を消滅させることができるとされています。

6 会社の代表取締役は、残った公租公課の支払い義務があるのか。

会社と代表取締役とは、別々の法人格ですから、会社が支払いをすべき公租公課について、代表取締役が支払いをする必要はありません。

ただ、代表取締役が会社の公租公課の支払い義務について保証をしている場合、あるいは合名会社、合資会社で無限責任社員となっている場合などは、会社が消滅しても公租公課の支払をしなければならないことになります。

以上
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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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