マンション管理組合にとって、管理費や修繕積立金をきちんと請求・回収することは死活問題です。しかし、この請求・回収を速やかにせず、長期間放置してしまえば、今度はその管理費等の債権は時効で消えてしまう可能性もあります。そのような事態を避けるため、そもそも管理費等の債権が消滅時効で消えてしまうということはどういうことか、そして消滅時効が成立するまでの期間はどのくらいなのかを知っておくことは非常に重要なことです。そこで、今回は管理費等の消滅時効について解説していきます。

管理費等の消滅時効とは

区分所有者が支払義務を負う管理費や修繕積立金(以下「管理費等」といいます。)が滞納された場合、管理組合はまずこの回収のために、管理会社を通じて支払い催促をすることが多いでしょうが、それでも支払いがなければ訴訟などをして区分所有者から管理組合に滞納管理費の支払義務があることを認めてもらい、それに基づいて区分所有者の財産を差押えるなどの方法で対処することが考えられます。
しかし、このような手続をせずに、回収しないままにしていた管理費等は、「消滅時効」という民法の制度により、法的に強制的に回収できなくなってしまう可能性があります。

そこで今回はそのような管理費等の消滅時効について、そもそも消滅時効というのが何なのか、また管理費等の消滅時効についての性質について、最高裁判所で争われた判決などを基にご紹介します。

マンション管理費等の性質とは?

管理費等の法的性質

そもそもマンションの管理費とはマンションの敷地や共用部分等の維持管理のために日常的に必要となる費用であり、マンションの共同エントランスや廊下、階段等の共用部分の日常的な清掃や、エレベーターその他の設備の点検、管理組合の運営などに日々使われていくものです。これが滞納されれば、適切な管理もできなくなってしまい、衛生面・防犯面などの住環境の悪化、さらに言えばマンションの資産価値の低下をも招くものです。また同様に、修繕積立金は計画修繕等で必要となる費用ですから、管理費と同様マンションのために必須のものです。

区分所有法19条では、「区分所有者は規約に別段の定めがない限り、共用部分に対するその持分に応じて共用部部分の負担に任ずる」とされており、一般的な管理規約においても、「マンション管理組合は区分所有者から月ごとに管理費等を徴収する」ということが規定されているものと思われます。

なかでも、現在の区分所有者だけでなく、前区分所有者から管理費等が滞納されていたという場合、長期に、かつ多額の債務があるということになり、消滅時効の問題になりやすく、実際にそれが消滅してしまうということは管理組合や区分所有者全体に多大な影響を与えるということになります。

消滅時効とは?

民法の規定

民法の中には「債権等の消滅時効」についての規定があり、債権者が一定期間権利の行使をしないままでいることにより、その権利そのものが消滅してしまうという制度になっています。

管理費等は定期給付債権に当たるか

判例での判断

平成29年に改正された民法ですが、その改正前の民法は、問題となっている債権が定期給付債権(一定の金銭その他の代替物を定期に給付させることを目的とする債権のこと)で、1年又はそれより短い期間ごとに支払い義務が生じるものか否かによって、消滅時効の期間が違っていました。

たとえば、家賃や地代などはこの定期給付債権に該当し、同債権に該当すると、期間5年の消滅時効になるとされています。つまり、一般的な債権の消滅時効を10年としていたのに対し、短い期間で消滅時効が成立してしまうという規定になっていたのです。

そこで、この法改正前には、このような短い消滅時効にかかる債権であるのか、最高裁まで争われたという事例がありました。
この判例の中で、管理費等は「月ごとに発生するものであり、定期給付債権に当たり5年の消滅時効にかかる」と判断しました。

つまり、最高裁判所は、管理費等の債権は一般的な消滅時効10年ではなく、「5年」で消えてしまうと示したのです。

平成29年の民法改正後の管理費等の消滅時効

現在、改正後の民法では、債権一般の消滅時効が「権利行使可能時を起算点として10年」または「債権者が権利行使の可能であることを知ったときから5年」と定められており、後者の状況が生じているのであれば5年で債権が消滅するという定めになっています。

「行使できると知った時」というのは、具体的には債権者が①債務者が誰か、②権利が発生していること、③権利の行使が実際に可能であることという3つの事項をいずれも認識した時と考えられています。

管理費等の請求が、毎月決められた日に可能になるということは、管理費等の支払義務について管理規約で定められているのであれば当然の前提になるでしょう。したがって、管理費等の請求可能性も規定された支払日から知ることとなりますから、管理費等は、管理組合が権利行使可能性を認識していないという例外的な場合を除き、支払規定日から5年の消滅時効にかかるということになります。

消滅時効は支払規定日から5年になったという意味で、民法改正前の「管理費等は定期給付債権である」という最高裁判所の判断と結論に差は生じなくなったといえます。

平成29年の民法改正を受けた消滅時効への対応方法

この民法改正を受けて、管理費等の消滅時効が5年で成立してしまうという点について争いはなくなりました。

では、消滅時効が5年という比較的短期間であることについて、マンション管理組合はどのように対応すべきでしょうか。

管理費等の未納状態が既に長期間に及んでおり、時効期間が到来してしまいそうだという場合でも、法律上時効を止めてもらう方法があります。

具体的には、「時効の完成猶予」という時効の進行を一時的にストップする制度と、
「時効の更新」という一定の事由により進んでいた時効の期間がリセットされる制度です。

前者の「時効の完成猶予」が生じる典型事由は 「裁判外の催告」で、6か月間時効の完成が猶予されます。ただ、これだけでは根本的な解決にはなりませんので、時効の更新をめざすには、その催告の後に、別の手続をするべきです。また、催告を繰り返すことはできず、1度限りのものなります。

後者の「時効の更新」が生じる典型事由は「債務者の承認」「判決等による権利の確定(更新)」が挙げられます。

「時効の完成猶予」の方はあくまでも暫定的な手段にすぎませんので、以下、「時効の更新」につき典型的な事由としてマンション管理組合側が検討すべき対応策を説明します。

時効の更新が生じる事由(対応策)

①債務者の承認
債務者が自身の債務を認めることです。たとえば、「管理費の滞納分について支払いを待ってほしい、などと支払期限の猶予を求めた」という場合でもこの承認に当たります。この承認があったとされると、承認があったときから時効が更新されることになります。
裁判などの特別な手続を要するものではありませんが、口頭のみでの承認では、後で言った・言わないの問題になることがあるため、具体的に未納になっている管理費等の額や、支払い計画などを書面の形にし、署名押印いただくのが望ましいと考えられます。

②裁判上の請求
裁判所に訴訟を提起し、管理費等の支払いを求める方法です。
訴えの後、管理費等の支払い請求を認める判決が確定すれば、時効期間が更新され、その後10年間、時効は完成しないということになります。この更新後の期間が「5年」ではなく「10年」になるという点も非常に重要です。

③支払督促
債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対し、申し立てる手続で、訴訟と異なり書類審査のみで手続が終了します。債務者が支払督促に対し異議を申し立てると,請求額に応じ,地方裁判所又は簡易裁判所の民事訴訟の手続に移行し、その場合は上記②の手続と同じになります。
支払督促も確定により時効が更新されることになり、10年間時効が完成しないということになります。

小括

以上のとおり、管理費等はよほどの特別な事情がない限り、支払が決められた日から5年の消滅時効にかかることになります。
5年という期間は思いのほか短く、回収を怠ってしまえばマンションの維持等に支障が生じ、管理組合の責任も生じうるところです。
消滅時効にかかるまで放置をしないこと、また消滅時効になりそうな事案においては、上記の時効の更新のための手続をきちんと執ることが非常に重要といえます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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