遺留分、資金調達、税金といった問題について対応するために、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」が用意されていますので、解説をいたします。様々なメリットがありますので、ご参照ください。

経営承継円滑化法の概要

遺留分対策への利用

遺留分の問題については、後継者と他の推定相続人全員が合意し、経済産業大臣の確認を受けたうえで、家庭裁判所の許可を得る等の手続きを経ることにより、後継者が取得した自社株式を遺留分の対象財産から除外したり、その評価額を合意時に固定したりする特例が定められています。

資金調達

事業承継に必要な資金の問題については、経営承継円滑化法の要件に従って都道府県知事の認定を受けた中小企業は、中小企業信用保険法による保険が別枠化されることが規定されています。

この措置により、信用保証協会の保証も別枠化されることになり、金融機関から事業承継に必要な資金の融資を受けやすくなります。また、都道府県知事の認定を受けた中小企業は、その代表者個人が、日本政策金融公庫や沖縄振興開発金融公庫から、特別金利で事業承継に必要な資金の融資を受ける事が出来ます。

税金対策

経営承継円滑化法に基づいて都道府県知事の認定を受けることにより、後継者の相続税や贈与税の納税を猶予することができます。

経営承継円滑化法による遺留分対策

遺留分について

相続人には、最低限の取り分である遺留分がありますが、亡くなった経営者が遺言、遺贈、贈与などにより後継者に自社株式や事業用資産を譲ったために、後継者以外の相続人の取り分が遺留分よりも少なくなってしまったときには、その人が不足分の財産を取り戻すことができます。

遺留分を主張できるのは兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子や孫、父母や祖父母)です。その遺留分は父母や祖父母のみが相続人である場合を除いて、亡くなった人である被相続人の財産の2分の1と民法で決まっています。

各相続人の遺留分の計算方法

遺留分を計算する際には、被相続人が死亡した時点の遺産だけを見るのではなく、①相続開始時(被相続人死亡時)の遺産に、②相続開始前1年以内にされた贈与と、③相続開始前に10年以内に被相続人と贈与を受けた人の双方が遺留分権利者に損害を与えることを知りながら行った贈与(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限る)の額を加え、そこから、④債務を引いて、「遺留分算定の基礎財産」を算出します。

各相続人の遺留分は、「遺留分算定の基礎財産」に遺留分の比率(原則として2分の1)と各相続人の法定相続分を掛けて計算することになります。各相続人の法定相続分は、例えば、相続人が配偶者と子供の場合は、配偶者が2分の1、子供が2分の1となります。

相続人が遺留分を侵害された場合の権利

相続人は遺留分を侵害された場合は、贈与を受けた人に対して、金銭請求ができます。遺留分は、家庭裁判所の許可を得て事前に放棄をするという手続きもあるのですが、相続人にとってはメリットがありませんし、家庭裁判所への許可の申立てをする手間もありますので、相続人に遺留分の放棄をしてもらうことは困難であることが予想されます。

経営承継円滑化法による遺留分に対する対策法

経営承継円滑化法には、現経営者の相続人となる人全員と後継者が合意することによって、後継者が現経営者から贈与された自社株式について、遺留分を計算する財産から除外したり(除外合意)、贈与された自社株式の価格を合意時の価格に固定したり(固定合意)できる特例が設けられています。

この除外合意と固定合意は、どちらか一方を選んで合意することもできますし、両方の合意、すなわち、贈与された株式の一部については除外合意をし、残りについて固定合意をするということも出来ます。

合意書にはどんなことを書くのか

遺留分に関する特例を利用する場合には、書面(合意書)を作成することが必要です。
合意書には、①合意が会社の経営承継の円滑化を図ることを目的とすること、②除外合意や固定合意の内容(両方の合意をする場合は両方の合意内容)、③一定の場合に非後継者が取り得る措置を必ず記載しなければなりません。

③の「一定の場合」とは、ア 後継者が合意の対象とした自社株式を処分した場合と、イ現経営者が生きているうちに後継者が会社の代表者をやめた場合です。例えば、これらの場合には他の相続人が合意を解除したり、後継者に違約金を請求したりできるなどと定めることが考えられます。

自社株式について除外合意や固定合意をする場合には、その他に、①後継者が贈与を受けた自社株式以外の財産(事業用資産など)を遺留分算定の基礎財産から除外する合意、②推定相続人間のバランスを取るための措置の定め、③後継者以外の人が現経営者から贈与された財産を遺留分算定の基礎財産から除外する合意をすることもできます。

遺留分に関する特例の手続きはどうするか

遺留分に関する特例の適用を受けるためには、合意をした日から1か月以内に経済産業大臣の確認を受けるための申請をし、その確認を受けた日から1か月以内に、家庭裁判所に許可の申立てをしなければなりません。

これらの申請や申立ては、後継者が単独で行うことができます。そして、家庭裁判所の許可を得て、初めて遺留分に関する特例を利用することができます。

経営承継円滑化法による金融支援

信用保証協会の保証枠が拡大

中小企業が金融機関から借り入れる際に信用保証協会の保証がつくことがあり、それに対して保険が掛けられていますが、経営承継円滑化法に基づく認定を受けた中小企業は、その信用保険の拡大が認められます。

通常枠は普通保険2億円、無担保保険8000万円、特別小口保険2000万円となっていますが、別枠化されることで最高6億円まで保険枠が拡大することになります。

中小企業の後継者への融資

経営承継円滑化法に基づく認定を得ることで、日本政策金融公庫の融資の特例として後継者個人への融資を受ける事が出来ます。融資限度額は7億2000万円、融資期間は設備資金で20年間、運転資金は7年以内です。

金利だけを支払い、元金を返済しない据置期間があり、最大2年間です。金利については、通常の金利(基準金利)ではなく、特別に低い金利(特別利率)が適用されます。

ちなみに、令和4年8月1日時点で、基準金利は1.06%~1.55%、特別利率が0.66%~1.15%(付加価値向上計画を作成し、同計画において新たな雇用が見込まれる方は、0.41%~0.90%)となっています。

経営承継円滑化法による納税猶予制度

相続税や贈与税の納税猶予制度

後継者が、自社株式を現経営者から相続や贈与によって取得し、その会社を経営していく場合に、後継者が取得する株式のうち会社の議決権総数の3分の2までの部分について、課税価格の80%に対応する相続税や、贈与税全額の納税が猶予されます。

納税猶予を受けるための手続

相続や贈与があった後、一定の時期までに、経営承継円滑化法に基づき、都道府県知事から①現経営者の要件、②後継者の要件、③対象会社の要件を満たしていることの認定を受けた上で、相続税や贈与税の納税猶予の申告をします。その際、所定の担保の提供も必要となります。

後継者は、納税猶予制度を利用して税務申告をした後も、5年間、会社代表者として、納税猶予の対象となった株式を保有しながら、平均して80%以上の雇用を維持して事業を継続しなければなりません(事業継続期間の要件)。事業継続期間中は、毎年、用件が充足されていることについて報告書や届出書を提出することになります。

事業継続期間中に廃業する等、途中で用件を満たさなくなった場合は、利子税とともに猶予されていた相続税や贈与税を納めなければなりません。

事業継続期間(5年)後には免除されることも

事業継続期間経過後も、納税猶予の対象となった株式を継続保有していれば納税猶予も継続されます。

また、後継者が亡くなった場合や、後継者が次の後継者に対象株式を贈与し、次の後継者が贈与税の納税猶予制度を利用した場合など、一定の場合には、納税猶予されていた後継者の納めるべき相続税や贈与税の一部又は全部が免除される手続きもあるので、納税猶予や免除を受けながら後継者が取得した自社株式を次の後継者に引き継ぐこともできます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉
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