業代の未払いについては罰則を定める法律の規定があり、また、未払いのままでいますと労働基準監督署の調査を受ける可能性があります。そのため、今回はこれらの問題に関する解説と、使用者の方が注意すべきポイントについて解説します。

罰則規定について

労働基準法第37条1項において、「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」と、残業代の支払義務が定められています。

そして、同法119条において、「次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

一 ・・・中略、第三十七条、・・・の規定に違反した者」

という、罰則が定められています。

そのため、残業代が未払いのままでいますと、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

もっとも、よほど悪質でない限りは、残業代の未払いによって、刑事罰に処せられるということは無いと思います。私自身、使用者側の弁護を何度も務めていますが、未払いがあっても刑事罰に処せられたケースはありませんでした。

労働基準監督署の調査

残業代の未払いがあると、不満に思う従業員が労働基準監督署に申告をすることがあります。この場合、労働基準監督署が臨検という立ち入り検査を行う場合があります。臨検が行われることが決まると、労働基準監督署の監督官が、会社の事務所に行きたいので日程調整をお願いしますという連絡をしてきます。

そして、事前に資料を用意しておいてくださいと言うことも指示されることがあります。

具体例としては、例えば、会社案内・組織図、労働条件通知書・雇用契約書、労働者名簿、タイムカード、営業日報、出退勤時間の記入表などの労働時間を集計したもの、賃金台帳、就業規則、時間外・休日労働に関する協定届などです。

そして、監督官が使用者の事務所に来て資料をチェックし、労働時間の計算と支払うべき残業代に関するチェックを行います。その結果、未払いが確認されますと、是正勧告が行われ、是正勧告書が交付されます。

是正勧告書には、所定期日までに是正して報告をするようにという記載や、事案の内容に応じては送検手続きを取ることがあるという記載がされています。

使用者が注意すべきこと

臨検がなされると、通常の業務に支障が出ますし、それだけではなく、他の従業員に労働基準監督署の調査が入ったことを気づかれる可能性があります。そして、他にも残業代の未払いについて不満に思っている従業員がいますと、その従業員もまた、残業代請求をしてくる可能性があります。

また、臨検の後、是正勧告書が出されているにもかかわらず、放置していますと、検察庁に事件が送致されて、懲役刑や罰金の刑事罰を与えるために、検察官が捜査を始める可能性があります。

ゆえに、臨検を受けないことが大事であり、そのためには、従業員に不満を与えないようにする必要があります。

そのためには、まずは、管理監督者という地位や、変形労働制、固定残業代制といった制度を設定しているような場合は、これらが理由で残業代が発生しないことを説明するのがよろしいかと思います。

管理監督者については、当事務所の他の紹介ページ「飲食業の経営者が、従業員から残業代請求を受けた時に検討すべきポイント」でご案内をさせて頂いておりますが、該当しないと判断される場合もありますので注意が必要なのですが、該当する場合は残業代を払わなくて良く、効果が大きいですので確認して頂いた方がよろしいかと思います。

また、固定残業代については、日本ケミカル事件という事件で、最高裁判所が固定残業代の有効性を認めた後、下級審でも有効性を認めているケースがいくつか出ています。そして、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則で固定残業代の定めがあり、法律によって計算される残業代の金額と支払っている固定残業代の金額との間に大きな差がない場合は有効と認められる可能性がありますので、こちらの有効性についても確認して頂き、従業員に周知して頂くのが良いと思います。

さらに、変形労働時間制についても、一定の期間については、残業をしても残業代が発生しないという制度ですから、制度の有効性について確認をして、従業員に対して周知していくのがよろしいかと考えます。

これらの制度は、従業員には個別の説明をしておらず、就業規則に定めるだけということがあり、このような場合は、従業員が制度を知らないために残業代請求をするというケースが多々見られます。

そのため、労働条件通知書、雇用契約書を交付して個別の説明を行うことが非常に大事です。

また、労働をしない手待ち時間や休憩時間を、従業員が誤って労働時間に参入してしまうために不満が出るということもありますので、正しい労働時間を説明することも大事になると思います。

例えば、朝早く出勤するものの、労働時間の始まりの時間として判断されることの多い、朝礼の時間、掃除の時間、又は、契約上の始業時間までには時間があるため、その間の時間は労働時間には該当しないということがあるのですが、従業員の方はこのことを知らないことが多いです。

そのため、朝早く出勤しても残業代はつかないということを周知しておくことが大事であると考えます。

また、待機時間の多い、長距離トラックの運転手等の場合は、休憩時間が多く発生していることがありますので、その時間は労働時間には該当しないということを周知する必要もあると思います。

まとめ

以上の通り、残業代の未払いについては、労基署の臨検を受けて、通常業務に支障が生じるだけでなく、複数の従業員から残業代請求を受けるというリスクの温床になります。複数の従業員から請求がなされるようになると、使用者側が支払わなければならない残業代の金額が多額になり、経営に支障が出たり、倒産のリスクが生じる可能性が出る場合もあります。そして、放置すれば刑事罰を受ける可能性がありますので、無視できない問題です。

そのため、自らの経営において残業代の未払いが発生していないか、また、そのことが従業員に対して十分に周知されているかについては、しっかりとした検討が必要です。

以上に記載をしました通り、各種制度の有効性や労働時間の算定方法について、法的観点からチェックを行ったうえで、従業員に周知をしていくのが大事ですので、法的な判断にお悩みの場合は弁護士にご相談を頂けますと幸いです。当事務所は使用者の方の相談を多数受け付けておりますのでお力になれると思います。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉

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