相続人だからといって、相続発生後すぐに相続財産がもらえるとは限りません。被相続人が遺言書を残していたかどうか、相続人は1人だけか複数いるのか等によって、もらえるまでの期間は異なります。本稿では、4つのケース別に目安の期間をお伝えします。
相続発生後、相続人はすぐに相続財産をもらえるのか?
「親が亡くなったけれど、遺産分割に時間がかかって、なかなか遺産がもらえなくて困っている」
「亡くなった夫の預金口座が凍結されてしまって、預金を引き出せない。施設や病院の支払いも、預金を下ろすことさえできれば、それで支払えるのに・・・」
皆さんもこのような話を耳にしたことがありませんか?
実は、これらの話のとおり、相続が発生したからとって、すぐに相続財産がもらえるわけではありません。
相続財産が実際にもらえる、すなわち、相続人が自由に処分したり、使ったりできる状態になるには、その間にやらなければならない手続きの分だけ時間がかかります。
では、一体いつ、相続財産をもらえるのでしょうか?
相続財産をもらえるまでにかかる時間は、まさに“ケースバイケース”としか言い様のない面があります。
同じような相続財産の構成、相続人の頭数であったとしても、遺産分割で揉めるか・揉めないかで、相続財産が実際にもらえるまでにかかる時間には大きな差が生まれます。
中には複雑な事案で、当事者間でも、家庭裁判所の調停でも、遺産分割協議がまとまらず、相続が発生してから10年近く経っても相続財産がもらえない、という大変なケースもあります。
ただ、ここからは、その「揉めるか・揉めないか」はいったん置いておき、スムーズに事が進んだ場合の、相続財産を実際にもらえるまでにかかる期間を見ていきたいと思います。
遺言書の有無や相続人の数によってケース分けをすると、おおよその目安としては次のとおりです。
【遺言書があり、かつ、検認が不要のケース】
被相続人が亡くなる前に遺言書を残しており、その遺言書が検認不要のタイプであるケースです。
検認不要のタイプの遺言書とは、
■公正証書遺言
■法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言
です。
このケースでは、家庭裁判所での検認手続きが必要なく、その遺言書に記載されたとおりの分配をすればよいだけなので、最も早く、相続財産をもらうことができます。
相続財産を実際にもらうまでにかかる期間の目安は、相続発生から約3週間以上です(→後述する「その後の諸手続きにかかる期間」も参照)。
「遺言書に書かれたとおりに分配するだけなのに、なぜ最短で3週間もかかるの?」と思われる方もいるかもしれませんが、これは戸籍関係書類などの取り付けや準備にもそれなりの時間が必要になる(例えば、被相続人の除籍謄本は、死亡届を提出してから1週間~10日程度経たないと取得できません)ためです。
なお、検認不要の遺言書があったとしても、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が相続財産の分配作業を行うことになり、その人の繁忙に左右されることになるため、上記より長い時間がかかると思っていた方がよいでしょう。
【遺言書があり、かつ、検認が必要なケース】
被相続人が亡くなる前に遺言書を残しており、その遺言書が検認を必要とするタイプであるケースです。
検認が必要なタイプの遺言書とは、
■「公正証書遺言、または、保管制度を利用した自筆証書遺言」以外の遺言書
です。
例えば、自宅で「遺言書」と表題の書かれた封筒が見つかった場合などはこちらのタイプとなり、検認が必要となります(発見した人がその場で勝手に開封してはダメです)。
こちらも基本的には遺言書に記載されたとおりに分配すればよいものの、家庭裁判所での検認手続きが必要となる分、相続財産を実際にもらうまでにかかる期間も上記のケースに比べて長くなります。
相続財産を実際にもらうまでにかかる期間の目安は、相続発生から約3か月以上です(→後述する「その後の諸手続きにかかる期間」も参照)。
家庭裁判所を介した手続きが必要になるため、相応の時間がかかることになります。
【遺言書がなく、かつ、相続人が1人だけのケース】
遺言書がないため、本来であれば、誰がどの相続財産を取得するか、遺産分割協議をして決めなければならないわけですが、このケースのように相続人が1人しかいないということは、そのような遺産分割協議をしなくても、自動的に、全ての相続財産をその人が相続することになります。
このケースでは、比較的早く相続財産をもらうことができます。
相続財産を実際にもらうまでにかかる期間の目安は、相続発生から約2か月以上です(→後述する「その後の諸手続きにかかる期間」も参照)。
「遺産分割協議も必要ないのに、結構かかるなぁ」という印象でしょうか。
このケースでは遺言書がありませんので、預貯金の解約・払い戻しや不動産の名義変更をするためには、「相続人が自分一人しか存在しないこと」を証明しなくてはなりません。
この「相続人が自分一人しか存在しないこと」を証明するためには、被相続人の出生から死亡まで連続した全ての戸籍が必要です。
この戸籍を揃えるのが結構大変で、死亡から遡って順繰りに取得していくことになるのですが、被相続人が婚姻・離婚を繰り返していたり、それらに伴って転籍していたりすると、全て揃えるのに時間がかかるのです。
【遺言書がなく、かつ、相続人が複数いるケース】
このようなケースでは、複数いる相続人全員で、誰がどの相続財産を取得するのか、遺産分割協議を行って決めていく必要があります。
その結果をまとめた遺産分割協議書を作成しないことには、預貯金の解約・払い戻しも不動産の名義変更もすることはできません。
当事者間での協議(話し合い)がまとまらない場合には、家庭裁判所で遺産分割の調停・審判の手続きを行います。
そのため、相続財産の分け方が決まって、相続財産が相続人の手元に来るまでに、文字通り「年単位」の時間がかかることもあるのです。
このケースでは、相続財産が実際にもらえるようになるまでには、次のような手順を踏んでいくことになります。
相続財産を実際にもらうまでにかかる期間の目安は、相続発生から約3か月以上です(→後述する「その後の諸手続きにかかる期間」も参照)。
最初に、「揉める・揉めない」はいったん置いておいて、という話をしましたが、仮に遺産分割協議が揉めた場合には、5年、10年かかることも稀ではありません。
その後の諸手続きにかかる期間
さて、遺言書がある(検認が必要なものについては検認を終えている)、または、遺産分割協議が整って協議書を作成したからといって、それだけで自動的に相続財産が手元に来るわけではありません。
続いて、その遺言書や遺産分割協議書を持って金融機関や法務局に赴き、預貯金の解約・払い戻しや、不動産登記の名義変更など、実務的な諸手続きを行う必要があります。
主な相続財産の、その後の諸手続きにかかる期間はおおよそ次のとおりです。
(個別の事情によっては下記の期間より大幅に長くかかる場合もありますので、あくまで一つの目安としてお考え下さい)
預貯金
預貯金のある金融機関に、遺言書または遺産分割協議書、戸籍関係書類などを添付して申請します。
申請してから払い戻しを受けられるまでにかかる期間は、約1~2週間です。
出資金などが含まれる場合は、払い戻しを受けられるタイミングが来るまでに数か月かかるケースもあるようです。
申請に必要となる書類や払い戻しまでにかかる期間は、金融機関ごとに異なりますので、事前に金融機関に問い合わせることをお勧めします。
不動産
不動産の所在地を管轄する法務局に、遺言書または遺産分割協議書、戸籍関係書類などを提出して、不動産の相続登記(不動産の所有名義人を被相続人から相続人に変更する)を申請します。
相続登記をするには登録免許税の納付が必要です。
相続登記を申請してから登記が完了するまでにかかる期間は、約2週間です。
ただし、相続登記の申請は必要書類の準備にも手間と時間がかかりますし、預貯金の解約・払い戻しと比べると難易度の高い手続きですので、ご自分の手に余る場合は専門家である司法書士に依頼した方がよいでしょう。
司法書士に依頼した場合は、登記が完了するまで、スムーズにいっても1~2か月程度はかかるのが普通です。
有価証券
株式などの有価証券については、証券会社等に、遺言書や遺産分割協議書、戸籍関係書類などを提出して、口座移管(被相続人の口座から相続人の口座に株式を移す)の申請をします。
申請から移管完了までにかかる期間は、約2~3週間のようです。
ただし、相続人がその証券会社に口座を持っていない場合は、まず相続人名義の口座を開設するところから始める必要がありますので、かかる期間はその分長くなります。
「もっと早く現金を受け取りたい!」という人へ
預貯金の仮払い制度
以上見てきたとおり、相続財産は被相続人が亡くなってすぐにもらえるものではありません。
例えば、被相続人名義の預貯金を下ろしたいと思っても、遺言書がなく相続人が複数いる場合は、遺産分割協議を行って遺産分割協議書を作成しないと預貯金を下ろすことはできません。
つまり、相続人間の分割協議がなかなかまとまらない状態が続くと、長期間、預貯金を下ろすことができないことになってしまうのです。
ただ、そうなると、葬儀代や医療費の支払いに困ることもあるでしょうし、被相続人に生活の面倒を看てもらっていた相続人は生活自体が立ち行かなくなる恐れもあります。
そこで、2019年7月1日から、遺産分割前であっても一定額の預金を払い戻せる「預貯金の仮払い制度」が導入されています。
払い戻せる金額はいくら?
この制度を利用すれば、たとえ遺産分割協議がまとまらない状態であっても、
①相続開始時の預貯金額×3分の1×その人の法定相続分
または、
②150万円
のどちらか低い方の金額を引き出すことができます。
②は法務省令による上限額で、1金融機関につき150万円まで、同一の金融機関の複数の支店に口座が存在する場合は、全支店から引き出せる合計が150万円までとなります。
例えば口座の預金額が1200万円で、払い戻しを請求する相続人の法定相続分が4分の1だとすると、
1200万円×3分の1×4分の1=100万円
上記の100万円は150万円より低いので、この場合に引き出せる金額は100万円です。
払い戻しにかかる期間は?
この「預貯金の仮払い制度」はまだ新しい制度で、仮払いの申請をしてから実際に支払いを受けられるまでどれくらいの期間がかかるのか、はっきりした目安はまだありませんが、紛糾した遺産分割協議がまとまるのを待つよりはずっと早く、手元に現金を得ることができるでしょう。
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