2023/10/11

2023年10月第一週の週末3連休、自民党県議団が提出した埼玉県虐待禁止条例の改正案が大きな議論を巻き起こしました。
子どもの命や安全・健全な成長が何より重要であること、虐待や子どもの危険な放置が決して許されないことは当然ですが、当該改正条例案にさまざまな法的・現実的な問題点があったことは報道の通りです。

ここでは少し視点を変えて、当該改正条例案について、企業経営の観点で2点、コメントいたします。
一つは、当該改正条例が施行され、その内容を遵守しようとした場合には、企業経営に大きな影響を与える可能性があったであろう、という点です。
当該改正条例案では、子どもだけの登下校や子どもだけでの公園での遊び、短時間でも子どもだけでの留守番は「放置」にあたる、とされたことから、保護者は、こうした「放置」を避けるための必要な措置を講じることが必要になります。
従って、学童保育に入ることが認められなかった保護者は、登下校の付き添いが必要になり、また、子どもを自宅で留守番させられないことから子どもと自宅にいることが必要になるため、事実上、自宅外で勤務や事業を営むことが不可能になります。
結果、埼玉では、パート労働者、正社員問わず、自宅外での勤務が困難になることが考えられ、退職者の続出や人手不足に拍車がかかることが想定できます(もちろん、オンラインなどで在宅勤務ができる業種は問題ないでしょうが、テレワークの実施率は徐々に低下していると報道されています。)。

もう一点は、計画立案に際して、具体的なオペレーションを想定することの重要性です。
上記の通り、改正条例案を遵守しようとすると、保護者は「放置」を避けるための必要な措置を講じることが必要になりますが、必要な措置を講じるには何が必要でどのような問題点があるのか、もっと言えば、そもそもその措置が可能なのかどうか、という点をシミュレーションしてみれば、改正条例案の遵守が不可能なことは容易に明らかになります(シミュレーションは、大げさなものをする必要はなく、自身の頭で検討したり、家族・友人・知人、それこそ子どもと話しあってみたりする、という簡単な方法でも容易に可能です)。
自民党県議団の検討経過が明らかではないので安易な批判は避けますが、改正条例案を遵守するためには保護者が具体的にどのようなオペレーションが必要となるのか、そして、それが可能なのかどうか、事前の検討が十分だったのかは疑問です。
また、検討した結果、当該改正条例案の遵守が可能と判断していた場合には、シミュレーションの前提が誤っているか、シミュレーションをするにあたって限られた条件を設定(専業主婦家庭のみを想定し、ひとり親家庭など専業主婦家庭以外の家庭を想定していない、など)していた、ということになります。
企業経営も同様で、計画を立案するだけではなく、その計画を実現するにはどうする必要があるかを考え、そもそも計画の実現が可能かどうか、検討してみることが重要です。
そして、シミュレーションをする場合には、自社に都合のいい考え・情報だけでなく、自社にとって不都合な考え・情報や事情の変化も想定して検討してみなければ、妥当な結果は出てこないということが今回の条例改正騒動から明らかになります。

なお、最後に改めて言うまでもありませんが、子どもの命や安全・健全な成長が何より重要であること、虐待や子どもの危険な放置が決して許されないことは当然あることを述べておきます。


■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 野田 泰彦
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