企業の経営を行うにあたって、他の企業との取引は必要不可欠です。他の企業と取引を行う上で、注意しなければならないのは下請法の適用があるかどうかです。
下請法の適用がある場合、規制事項が多く企業経営に大きな影響を及ぼします。
ここでは、修理委託をすることに下請法が適用されるかについて、メーカー保証を具体例にして解説いたします。
下請法の適用範囲
下請法は、資本金と取引内容の2つの観点から、適用があるかを決しています。
このうち、取引内容について、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つの類型のいずれかにあたる場合には、法の適用があるとしています。
この文言だけをみても、その内容が明らかではないため、その都度、丁寧かつ慎重な判断を行う必要があります。
ここでは、特に「修理委託」について解説いたします。
修理委託とは
①「事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」②「事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託すること」
下請法では、以下の2つの類型の取引を「修理委託」として規定しています。
つまり、修理委託としては、
■事業者が物品の修理を再委託すること(類型1)
■事業者が自家使用物品の修理委託をすること(類型2)
の2つの類型に分類できます。
ここでは、「修理」という言葉と「業として」という言葉が出てきていますが、この意味が問題となります。
「修理」とは
「修理」とは、元来の機能を失った物品に一定の工作を加えて、その機能を回復させることを意味します。
そのため、不良品や故障品を別の品物に交換することは「修理」にはあたらないこととなります。
「修理」にあたるかどうかが問題となりうるケースとして、点検業務を委託する場合があります。単に点検として商品を預かって、故障の有無などをチェックすることは、一定の工作を加えているわけではありませんから、「修理」に該当しません。
しかし、故障の有無のチェックにとどまらず、機能の修復作業も行うと、「修理」に該当することが考えられます。
仮に、「修理」に該当しない場合でも、「役務提供委託」に該当することは別途問題になりますので、この点は注意が必要です。
「業として」とは
「業として」とは、単に反復継続して行われることだけではなく、それを事業の遂行としてみることができる場合を指すものと考えられています。
そのため、自社で使用する機械などについて自社内で修理部門がおかれて、修理作業を主に行う担当がいるなど、事業の遂行として行われているといえる場合には、「業として」行う場合に含まれると考えられます。
一方、自社では修理などをせず、普段はもっぱら修理については外注している会社で、たまたま軽微な修理を従業員が行ったにすぎないという場合には、「業として」行っているとは言えないと考えられます。
メーカー保証と修理委託について
<ケース>
家電メーカーが、不良品を理由として消費者から返品をうけた製品について、修理業者に修理を委託する場合に、下請法の適用があるか
以上のことを踏まえて、具体例に即して検討を行います。
一般的に、事業者が販売する製品について、その保証期間中に消費者から修理を引き受けることは、保証付きの商品を販売している以上、事業として修理を行っていることになりますから、「業として修理を請け負う」に該当します。
そのため、消費者から不良品の返品を受ける際に、メーカー保証として「不良品を修理する」ことを引き受けたのであれば、それを修理業者に委託することは、「修理委託」に該当すると考えられます。
一方、返金や他の商品(新品など)と交換するために消費者から不良品の返品を受けて、その修理を業者に委託することも考えられますが、この場合には、「事業者が物品の修理を再委託すること(類型1)」には該当しません。
しかし、引き取った不良品を再利用する目的で修理業者に修理を委託する場合、「事業者が自家使用物品の修理委託をすること(類型2)」に該当することが考えられます。
なお、この場合でも、自社内で修理部門がないなど、「業として」行っていない場合には、「修理委託」には当たらないものと考えられます。
※修理委託に該当しない場合でも、他の下請取引に該当するかどうかは別途検討する必要があります。
まとめ
ここまで、下請法の適用範囲について、修理委託の観点からご案内しました。
企業経営において、下請法の適用の有無を検討することは必要不可欠です。
しかしながら、下請法の適用があるかどうかを見極めるには、詳細かつ丁寧な判断が必要となります。
正確な専門知識に基づいて判断を行わないと、企業の経営に大きな影響を及ぼすと恐れもありますので注意が必要です。
一方で、下請法は法律分野の中でも専門性が高く、直ちに適用の有無や、取引上注意すべき事情を判断することは容易ではありません。
下請法についてお悩みの場合、専門としている弁護士に相談することが重要となります。