商標Aが登録された場合に、その商標Aが、それ以前に自分が登録していた商標Bと同じ、あるいは類似しているという場合、商標Aの使用を許しておくことはできません。その場合の方法として、登録異議申立と無効審判請求の制度があります。この2つの制度について解説します。
1 はじめに
他人の登録商標に対して、その商標は無効であり、登録は取り消されるべきであると考える場合、とることができる手続として、登録異議申立てと登録無効審判請求の2つの手続があります。
今回は、この両者の手続について説明したいと思います。
2 登録異議申立て
⑴ 目的
商標登録の出願が、特許庁の判断の誤りにより認められてしまったという場合に、この判断の誤りを正すという公益的な側面から認められた手続で、判断に誤りがある場合には、特許庁自らその是正を図り、商標権の信頼を高めるものとされています。
異議が認められた場合には、商標登録は無効となります。
⑵ 異議申立ができる者
異議申立ては、上記のように商標の信頼を高めるという目的のために認められたものなので、利害関係がある者に限らず、誰でも行うことができるとされています。
⑶ 異議申立ができる期間
異議申立てについては、商標掲載公報発行の日から2ヶ月以内に申立てをしなければなりません。ただ、申立てをした後、申立書の中の「申立の理由」を補充することは一定の期間内で認められます。
⑷ どのような場合に、異議申立てができるのか。
異議申立ての理由となるものは、商標法43条の2に定められていますが、主なものを上げると下記のとおりです。下記の場合に、登録異議申立書を特許庁に提出し、商標登録の無効を主張することができます。
ア 登録要件違反(商標法3条)
※ 下記にあげる例示は、特許庁が公開している商標審査基準にあるものです。この審査基準には詳しい例示が載っていますので、登録要件違反に該当するかどうかを判断する際には、参考にされるとよいと思います。
① 商品または役務の普通名称
例えば、サニーレタスについて「サニーレタス」という商標、電子計算機について「コンピューター」という商標は普通名称ですから商標登録することができず、スマートフォンについて「スマホ」、アルミニウムについて「アルミ」という略称も、同じく普通名称として商標登録することはできないとされています。
② 商品または役務の慣用商標
全国または地方の多くの同業者が、永年その業界で使用してきたために、その商品または役務についての慣用商標となったもので、例えば、自動車の部品・付属品について「純正」という商標、清酒について「政宗」という商標、カステラについて「オランダ船の図形」の商標などです。
③ 商品の産地、販売地、品質などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
例えば、「産地」「販売地」については、商標が、国内外の地理的名称からなり、その地理的名称の表示する土地において、商品が生産され、販売されていると一般に認識される場合がこれにあたるとされ、「品質」については、書籍について「小説集」、録音済みのコンパクトディスクについて「クラシック音楽」などがこれにあたるとされています。
④ ありふれた氏、名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
ありふれた氏、名称とは、同種の氏名、名称が多数存在するものといいます。
⑤ 極めて簡単で、ありふれた標章のみからなる商標
例えば、数字は原則としてこれにあたるとされ、ローマ字については1字または2字からなるもの、ローマ字の1字または2字の次に数字を組み合わせたもの(A2、AB2など)などがこれにあたるとされています。
⑥ その他、何人の業務に係る商品または役務であるかを認識できない商標
例えば、出願商標が、その商品または役務の宣伝広告、企業理念・経営方針などを普通に用いられる方法で表示したものとしてのみ認識させる場合は、これにあたるとされています。
イ 不登録事由違反(商標法4条1項)
これについては数が多いので、下記に一部のみ記載します。
① 国旗、勲章など
② 公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標
非道徳的、卑猥、差別的、他人に不快な印象を与えるものなどです。
③ 他人の業務に係る商品、役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標、またはこれに類似する商標
④ 商標登録出願の日前の商標登録出願にかかる他人の登録商標またはこれに類似する商標
商標登録出願をした日より前に、すでに出願されている商標があるときは、この商標と同じあるいは類似している商標を登録することはできないことになります。
⑸ 異議申立の審理はどのように行われるのか。
異議申立の審理は、原則として書面審理であり、申立書の内容や提出された証拠を検討し、申立を認めるか否かを判断します。
⑹ 審理に係る期間、異議申立が認められる可能性
審理に係る期間は6〜8ヶ月程度で、異議申立が認められる可能性は10%程度です。認められる可能性が10%程度と少ないですが、異議申立が認められない場合は、のちに述べる商標登録無効審判請求ができ、そこでは後述のように、当事者が対立する形で審理を行いますから、原則として書面審理である異議申立の段階では、異議を認めるのに慎重になるということかもしれません。
3 商標登録無効審判請求
⑴ 目的
商標の登録には審査がありますが、審査官の限界により、不備のある商標が登録されることがあります。商標登録無効審判は、ある商標の登録に関して法律に定める無効理由がある場合に、その登録を無効とする制度です。
⑵ 無効審判請求ができる者
無効審判請求ができるのは利害関係人に限られています。利害関係人とは、商標権の存在によって、法律上の利益や、その権利に対する法律的地位に直接の影響を受けるか、または受ける可能性のある者をいうとされ、例えば、登録商標と同一または類似の商標を使用している者、将来使用する可能性がある者、登録商標により商品の出所の混同による不利益を被る可能性を有する者などがこれにあたるとされています。
⑶ 無効審判請求ができる期間
登録異議申立てと違って期間の制限はなく、原則としていつでも無効審判請求が可能です。ただし、一部の無効理由には除斥期間があり、登録日から5年を経過すると、商標法3条、4条1項8号などの規定に違反していることを理由に、無効審判を請求できなくなります(商標法47条1項)。
⑷ どのような場合に、無効審判申立ができるのか。
これについては、2⑷で述べたのとほぼ同様です。
⑸ 無効審判の審理はどのように行われるのか。
無効審判の審理は、3人または5人の審判官の合議体で行われ、請求人(商標権の無効を主張する者)と被請求人(商標権者)の対立構造によって審理が進行します。双方が自己の主張を書いた書面を提出し、また証拠を提出します。場合によっては証人尋問も行ないます。
⑹ 審理に係る期間、無効審判申立が認められる可能性
無効審判の審理期間は1年程度、無効審判申立が認められる可能性は(一部が認められたものを含み)30〜45%程度です。