現行民法は離婚後の親権者を父母の一方と定める単独親権を採用しています。
諸外国に目を向ければ、制度の内容はそれぞれ異なるため単純な比較は困難ではありますが、共同親権を認める立場が主流派です。
2024年4月末日時点では、離婚時の共同親権の導入を含む民法改正案が国会において審議中ですが、今回は離婚時の共同親権導入について解説していきます。
離婚時の共同親権導入までの経緯
2011年の民法改正時、国会は以下を含む附帯決議を行いました。
「親権制度については、今日の家族を取り巻く状況、本法施行後の状況等を踏まえ、協議離婚制度の在り方、親権の一部制限制度の創設や懲戒権の在り方、離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め、その在り方全般について検討すること」
上記の附帯決議を経て、2020年に法務省が諸外国の共同親権について調査・研究した結果を公表しました。
その翌年、法務大臣が法制審議会に対して、女性の社会進出や父親の育児参加などの要因により国民意識は多様化しているとして、離婚後の子の養育制度について検討するよう諮問し、2021年3月に法制審議会での議論が始まりました。
議論開始から3年ほどが経過した2024年2月、法制審議会は要綱案を決定し法務大臣に答申しました。
2024年3月、政府は離婚時の共同親権導入を含む民法改正案を閣議決定し、同案を国会に提出しました。
民法改正案は2024年4月16日に衆議院を通過し、同月25日から参議院での審議が開始されました。
法務省は今回の国会における同案の成立を目指すとしてします。
離婚時の共同親権の内容は?
離婚時の共同親権導入を含む民法改正案の内容
民法改正案は離婚時の共同親権について、以下のとおり、定めています。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
5 (略)
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
7 裁判所は、第二項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8 第六項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のために必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
(親権の行使方法等)
第八百二十四条の二 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
一 その一方のみが親権者であるとき。
二 他の一方が親権を行うことができないとき。
三 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3 特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
離婚時の共同親権導入を含む民法改正案の懸念点
単独親権から共同親権への移行期には家庭裁判所では共同親権とした前例がないため、どのような場合に、どのような証拠に基づき、どのような調査を行い、共同親権について判断すべきか混乱が生じることが予想されます。
国会審議中、単独親権とするか共同親権とするかの判断基準について繰り返し質問がなされましたが、父母が共同して子の養育に関する意思決定を行うことが困難である場合、共同親権も困難と考えられるといった概括的な回答がなされるにとどまっており、具体的な判断基準は定まっていません。
また、仮に家庭裁判所として共同親権が相当と判断できる場合であっても、その後、父母において実際にどのように共同親権を行使していくかは不透明なままです。
今回の民法改正案は共同親権時における子の親権の行使に関する定めを置いていますが、急迫の事情があるときや子の監護及び教育に関する日常の行為については単独での親権行使を認めています。
急迫の事情については父母双方の認識の相違があり得ますし、子の進学先について父母が別々の学校を選択した場合の処理など紛争化する余地を多分に残しています。
いずれにせよ、離婚時の共同親権の適切な運用には相当程度の事案の蓄積とそのための時間を要すると考えざるを得ません。
離婚時の共同親権はいつから?
離婚時の共同親権導入を含む民法改正案は附則において、「この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」と定めています。
法律は、衆議院及び参議院の両議院で可決したときに成立し、成立後、最後の議決のあった院の議長から内閣を経由して奏上され、奏上された日から30日以内に公布すると定められています。
そこから、離婚時の共同親権導入を含む民法改正案が今回の国会で成立する場合、2026年までには改正民法が施行され、離婚時の共同親権の運用が開始されるということになります。
まとめ
今回は離婚時の共同親権導入について解説してきました。
現時点で離婚時の共同親権導入を含む民法改正案の内容は明らかとなっていますが、共同親権の具体的内容や実際の運用については今後の展開を注視していくほかないと言わざるを得ません。
離婚時の共同親権については続報が入り次第、別途、解説を追加していく予定ですので、引き続き、よろしくお願いいたします。