期間の定めがある有期労働契約であっても、通算契約期間が5年を超える等の条件を満たす場合には、労働者からの申込みによって期間の定めのない無期契約に転換できるというルールがありますので、解説いたします。
無期転換ルールとは
同じ労働者と2つ以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(通算契約期間)が5年を超える労働者が、使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、満了日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをした時は、使用者は申込みを承諾したものとみなす、というルールが労働契約法第18条1項で定められています。このルールが無期転換ルールと呼ばれています。
無期転換ルールが設けられた理由
有期労働契約は、短い期間の契約の更新を繰り返すことによって、正社員よりも待遇が低く雇用調整をしやすい労働者を雇用する手段として利用されてきました。
労働者側から見ると、合理的な理由がないのに不利な労働条件や不安定な雇用をもたらしていると見えることが多かったため、労働契約法第17条2項においては、使用者は有期労働契約について「必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することが無いように配慮しなければならない」と規定されました。
そして、このような有期労働契約の安易な利用を抑制することや、5年を超えて更新されている有期労働契約をしている労働者の雇用の安定を図るために、無期転換ルールが作られました。
ルールを利用して契約を無期契約に転換するための条件
条件としては、下記のものが挙げられます。
同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約が締結されてきたこと
「使用者」とは、労働契約の当事者としての事業主を意味し、個人であっても法人であっても構いません。
「同一の使用者」であるか否かは、事業場単位ではなく事業主単位で判定されます。そのため、同じ事業主が経営する異なる事業場で有期雇用契約を締結してきた場合には、同一の使用者との間で二以上の有期労働契約を締結してきたことになりますが、例えば法人格が異なる複数の企業に採用されてきたような場合は、「同一の使用者」との間で契約が締結されたとは原則として判定されません。
他方、労働契約が会社の合併や分割によって他の事業主に包括承継される場合には、合併や分割の前の使用者であった事業主と合併や分割の後の使用者である事業主は「同一の使用者」であると言えます。
通算契約期間が5年を超えること
二以上の有期労働契約を通算した契約期間が5年を超えることがもう一つの条件になります。
もっとも、無期転換ルールが有期労働契約の利用を妨害しすぎないようにするために、一つの有期労働契約の期間と次の有期労働契約の期間の間に一定の長さの空白期間を置けば、契約期間は通算されないということが法律で定められています。
具体的には、使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と使用者との間で締結されたその次の有期労働契約期間の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間があり(空白期間と呼びます)、これが6か月以上であるときは、空白期間の前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しません(労働契約法第18条2項)。
また、「6か月」という空白期間の長さについては、空白期間の直前に満了した有期労働契約の契約期間が1年に満たない場合には、当該契約期間に2分の1を乗じて得た数に1月未満の端数が無い場合にはその月数を空白期間の長さとし(労働契約法第18条2項)、1月未満の端数がある場合には、その端数を切り上げた月数を空白期間の長さとします。例えば、契約期間が8か月であった場合は、空白期間は4か月になりますし、契約期間が3か月であった場合は、空白期間は2か月になります。
現行の有期労働契約の契約期間満了までに、無期転換の申込みを行うこと
無期転換権が発生したにも関わらず、有期労働契約の契約期間の満了までに無期転換の申込みを行わなければ、無期転換の申込権は消滅します。もっとも、無期転換の申込権は、通算契約期間が5年を超えた最初の有期労働契約の期間中にだけ発生するのではなく、その後の更新によって締結される有期労働契約の度にその期間中に発生します。
無期転換の申込みをした場合の効果
無期転換の申込みは、現行の有期労働契約が満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みとして行われるべきものですが、そのような申込みがあった場合は、使用者は当該申込みを承諾したものとみなされます(労働契約法第18条1項)。
無期転換後の労働条件
別段の定めがある部分を除いて、有期労働契約中の労働条件と同一の労働条件となります。
この点、無期転換後の労働条件について特別に定めた就業規則が存在しない場合に、正社員の就業規則が、無期転換の労働者に対して「別段の定め」として適用されないかが問題となります。
この問題については、例えば定年制については無期労働契約の労働者であれば適用されるはずである等、正社員就業規則の趣旨の内容によって適用されるのか否かが決まると思います。なお、この問題について争いを無くすためには、無期転換の労働者に適用される就業規則を定めておくというのが安全であると言えます。
まとめ
以上、有期労働契約を無期労働契約に転換するルールについて、簡単ではありますが解説させて頂きました。使用者との労働契約については一定の年数が経過すると無期契約に転換される可能性が出て参りますので、ご参考にして頂けますと幸いです。