こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
先日、公正取引委員会(以下、「公取委」といいます。)がクレジットカードの国際ブランド「Visa」の日本法人に対して、独禁法違反の疑いがあるとして、立ち入り検査を行ったというニュースがありました。
当該ニュースによれば、公取委が立ち入り検査に踏み出した理由としては、Visaの決済システムを利用しているカード加盟店管理会社に対して、Visa製の別のシステムを使うように要求した疑いがあるためとのことです。
Visaによるこのような要求は、独占禁止法上、「拘束条件付取引」(法第2条9項6号ニ、一般指定12項)などに該当するおそれがあります。
そこで、この記事では、「拘束条件付取引」がどういった場合に成立するかを説明したのち、「Visa」がなぜ公取委から立ち入り検査を受けたかをわかりやすく解説していきます。
「拘束条件付取引」とは
概要
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる「独占禁止法」)は、事業者による「拘束条件付取引」を禁止しています(同法第2条9項6号ニ、一般指定12項)。
「拘束条件付取引」とは、簡単にいうと、取引の相手方の事業活動を不当に拘束する条件を付けて、当該相手方と取引をすることをいいます。
「拘束条件付取引」の類型
拘束条件付取引は「事業活動の不当拘束」の一種ですが、その類型として、大きく以下の4つが挙げられます。
- 価格の拘束(再販売価格の拘束を除く)
- 販売先の拘束
- 販売地域の拘束
- 販売方法の拘束
以下で、それぞれの場合を詳しく解説していきます。
① 価格の拘束(再販売価格の拘束を除く)
「自己の供給する商品」について販売価格を拘束することは、「再販売価格の拘束」として、別途、取り締まりを受けます(法第2条9項4号)。
そこで、「拘束条件付取引」において問題とされる価格の拘束は、「再販売価格の拘束」以外の価格拘束となります。
例えば、aフランチャイズの加盟店が本部以外から仕入れた商品について、本部がその販売価格を拘束する場合や、bライセンスを受けた特許技術を利用して製造された商品の販売価格をライセンス元が拘束する場合などが挙げられます。
これらの場合には、事業者間における価格競争が阻害されるおそれがあるため、「不当な拘束」とみなされることになります。
②販売先の拘束
販売先の拘束には、例えば、安売り業者への販売を制限する場合や、卸売り業者に対して特定の小売業者としか取引できないようにする場合、及び、安売り業者に商品が流れるのを防止するために流通業者間の転売(横流し)を禁止する場合などがあります。
これらの場合、当該拘束行為により商品についての価格競争が阻害され、価格が維持されてしまう恐れがある場合に、「不当な拘束」とみなされることとなります。
③ 販売地域の制限
例えば、一定の担当地域を割り当て、その地域外での販売を制限することは、当該商品の価格競争を阻害し、価格が維持されるおそれがある場合に違法とされる場合があります。
また、一定の担当地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限することも、同様に、価格が維持されるおそれがある場合には違法とされる場合があります。
④ 販売方法の制限
自社商品の安全性や品質を確保するため(ブランドイメージを維持するため)などの合理的な理由により、販売条件を拘束することは、独禁法上問題になるわけではありません。
問題となり得るのは、販売方法を制限することによって、小売業者間の競争を制限したり、競争者を排除したりする場合です。
例えば、メーカーが小売業者間の価格競争を制限するため、取引先小売業者に対して、広告で商品の販売価格を表示しないようにさせるような場合などが挙げられます。
「Visa」が公取委から立ち入り検査を受けた理由について
以上で、「拘束条件付取引」が成立する類型を説明しましたが、「Visa」はどのような行為を行って、公取委からの立ち入り検査を受けたのでしょうか。
ニュースによれば、Visaブランドのカード利用契約を結んだ加盟店管理会社が、カード利用者の不正利用や限度額の超過などに関する信用情報の照会を行う際に、Visaは当該加盟店管理会社に対して、自社の照会システムを使うように要求していたとのことです。
すなわち、ライバル会社の照会システムを利用した場合には、手数料を引き上げると伝えられていたため、管理会社側は、Visa側の要求に応じざるを得なかったものとみられるとのことです。
上記説明でいえば、④販売方法の拘束などにより、加盟店管理会社の「事業活動を不当に拘束する」おそれがあるものとして、公正取引委員会から立ち入り検査を受けたものと思われます。
なお、実際に違反行為があったかどうかについては、今後、公取委による調査が進められることとなります。
まとめ
「Visa」の日本法人が公正取引委員会から立ち入り検査を受けたというニュースを基に、独禁法上の問題とされる「拘束条件付取引」を解説していきました。
本件で、仮に公取委が独禁法違反の事実を認定した場合には、Visaに対して、排除措置命令などの違反行為是正処置がとられることになるかと思います。
今回の件から得られる教訓としては、事業者間の取引においては、市場における公正な競争を阻害することのないように、取引条件をきちんと設定することが大切だということでしょう。
独占禁止法は専門的な知識が必要な分野ですので、お困りの際は、独占禁止法に強い弁護士に相談することをお勧めいたします。