契約書を作る意味、契約の締結権者、契約書のタイトルの意味、印紙、保証人と立会人、当事者の表示、捨印、訂正の方法、その他、契約書の基本的な注意事項について述べてみました。

今回は、企業の契約担当者の方が一度は抱くであろう基本的な疑問点、注意点について述べてみたいと思います。

1 口頭による契約と文書による契約

契約はこういう契約をしたいという申込と、そういう契約をしましょうという承諾があれば成立します。申込と承諾が口頭で行われれば口頭の契約、文書により行われれば文書により契約になります。

法的に言うと、一部の例外を除き契約は口頭で成立し、文書(契約書)を作る必要はありません。

※ 例えば、売買契約は法律的には口頭で成立し、売買契約書を作る必要はありまあせん。これに対し、例外として、例えば定期借地権設定契約は文書(つまり契約書)を作成する必要があり、口頭で定期借地権設定契約をする旨の合意をしただけでは契約は成立しません。

それにもかかわらず、ビジネスの世界では契約書を作成することがほとんどですが、これは、口頭で物事を進めていたのでは、内容が不明確でトラブルになることが多いからです。

また、契約書を作っていく過程で、話し合いをして決めなければならない事項がはっきりするということもあります。

売買契約を例にとると、売買契約は口頭で成立するのですが、多くの場合、売主と買主で売買基本契約書を作り、それをもとに、個別の売買契約は、買主の売主に対する申込書の交付と、売主の買主に対する申込請書の交付で行っています。

売買基本契約書には、売買基本契約と個別契約の内容が違った場合の処理、個別契約の成立時期、代金の支払方法、納入場所と時期、検査の手順など、複数の売買契約に共通する事項が記載され、個別契約の申込書には、数量、単価、仕様、品質、材料などが記載されます。

これによって、売買契約の内容が明確になります。

2 契約の成立時期

契約が成立するのは、口頭なら、一方が口頭で申し込みをし、他方がこれを了解する旨を言ったとき、契約書を作る場合は、双方が契約書に署名(記名)押印したときです。

契約書を作る場合は、双方が署名押印したときに契約が成立しますから、成立時期は明確です。しかし、口頭の場合は、いつ申込と了解があったのかはっきりしませんから、契約が成立したのかどうかという点でもトラブルが発生しかねません。

なお、メールのやりとりは契約書ではありませんが、申込と承諾があったということがメールから判断できれば、契約は成立になります。したがって、漫然とメールのやりとりをしていた場合に、契約が成立したなどと相手方から主張される場合もないとは言えないので、メールには注意が必要です。

3 契約の締結権者

 契約が成立するには、口頭でも、契約書でも、メールでも、申込をする人、承諾をする人の両方が、契約締結の権限を持っていることが必要です。

 

例えば、売買契約を例にとると、消火器の販売に訪れた営業マンに対して、工場の副工場長が購入する旨を言い、購入の承諾書に署名押印をした場合でも、副工場長に売買契約をする権限がなければ、売買契約は成立せず、この工場は消火器を購入する義務を負うことはありません。

 これが原則ですので、必要もない消火器を副工場長が購入した場合は、工場との間に売買契約は成立せず、工場は、消火器を返して、消火器の売買代金の支払いを拒否できます。

 例外としては、上記の例でいれば、副工場長が契約を締結する権限を有しているような外観を会社(工場)が作っていた場合(たとえば、名刺に工場長の肩書を使うことを許していた、工場長が副工場長を、契約締結の責任者であると言って紹介していた)は、契約が成立したとされることがあります。

 また、使用者責任(民法715条)というものがあり、副工場長が会社の業務の執行について、第三者に損害を与えた場合は、会社は第三者に対して損害賠償責任を負うということがあります。ただ、上記の消火器の例でいれば、仮に消火器の購入が会社の業務の執行にあたるとしても、(副工場長が)消火器を購入すると言ったからと言って、消火器の販売会社に損害を与えたとは認められないので、通常は損害賠償請求は無理と考えられます。

4 契約書のタイトルの意味

契約書には、売買契約書、賃貸借契約、業務委託契約書、共同研究契約書などいろいろなタイトルがあります。また、契約に関して、何らかの合意をした場合の文書にも、覚書、念書、合意書などの名前があります。

これらのタイトル、名前にはほとんど意味がなく、契約書、文書がどのような効力を持つかはその内容によって判断されますので、タイトル、名前の付け方にあまり神経質になる必用はありません。

また、契約書の各条文にも、個別契約の変更、支払条件、商品の引渡し時期、受領拒否の取扱いなどの名前を付けることはありますが、これも大きな意味はなく、条文の効力は、その条文の内容によって決められるため、この名前にあまりこだわる必要はありません。

5 印紙をはり忘れた場合

印紙を貼らなかった場合でも契約書の効力に影響はなく、条文どおりの効力が認められます。裁判になって契約書が証拠として提出される場合でも、印紙を貼ったかどうかによって、証拠として持つ力に影響が出ることもありません。

ただ、印紙を貼らなかったことが税務署に分かった場合、過怠税として本来の金額の3倍の金額を納税しなければなりませんから、もちろん法律で定められた額の印紙を契約書に貼ることが必要です。いくらの額の印紙を貼るのかは、法律の条文だけではなかなか判断できないことも多いですから、自信がない場合は、税務署に電話して聞いた方がよいです。

なお、消印をしなければなりませんが、印紙税法施行令5条では「印章または署名による」とされているので、単に車線で消すなどは認められません。

6 認印の場合、サインだけの場合

実印ではなく認印でも契約は成立します。したがって、認印であっても押印をするときは注意が必要です。

また、サイン(署名)だけでも契約は成立しますので、こちらも注意が必要です。例えば、「押印はいいからとりあえずサインだけしておいて」などと言われ、保証人の欄に署名をしてしまうと、保証人になったことになり保証人としての責任を負うことになってしまう可能性が大です。

ただ例えば、ほかの契約当事者は、すべてサインも押印もしているのに、1人の当事者だけがサインしかしていないという場合は、サインだけでは、契約締結の意思の表明として不十分であるから、サインだけの当事者は、まだ契約にはしばられないと言える可能性が、事情によってはあると考えられます。

7 保証人と立会人

保証人になるのと、立会人になるのとでは天地の違いがあります。保証人の場合は、主債務者と同じ責任を負うことになりますから、例えば、金銭貸借の場合は、借主がお金を返さない場合、借主に代わってお金を返す責任があります。また、賃貸借契約の保証人の場合は、極度額の限度ではありますが、賃借人の賃料不払い、原状回復費用の不払いなどについて、賃借人に代わって支払いをする責任があります。

これに対して、立会人の場合は、単に立ち会うだけなので、法的な責任を負うことはありません。立ち会ったのだから何とかしてほしいと言われるかもしれませんが、道義的な責任は別として、裁判になったら支払いを命じられるというような法的な責任はありません。

8 当事者の表示

当事者が会社なら①、個人なら②のように表示しなければなりません。

① 大宮株式会社
代表取締役 大宮太郎  ㊞

② 大宮太郎  ㊞

それでは、③のように表示したらどうでしょうか。

③ 大宮株式会社

大宮太郎  ㊞

これでは当事者が、会社なのか個人なのか分かりません。例えば、土地の買主が③のような表示をした場合、売主はどちらに代金の請求をしたらよいか分からず、裁判で決着をつけなければならなくなります。

また、例えば、個人には資産があるが、会社には資産がないという場合には、契約当事者が会社か個人かで大きな差が出てきてしまいます。

当事者の表示方法には気を付けることが大切です。

9 捨印

契約書の上方の空欄に押す押印(捨印)は、契約の署名押印後、「あとで、契約当事者の一方に文章を直してもらってよい」という意思で押すものです。したがって、捨印を押すと、勝手に契約の条文を訂正されてしまい、あとで「この訂正は一方的なものだから無効だ」と主張することが難しくなってしまいます。

また、5頁ある契約書の1頁にだけ捨印がある場合に、その捨印の効力が1頁以外の他の頁にも及ぶのか、争いが出てくることもあり得ます。

なお、最高裁判所昭和53年10月6日判決によると、捨印を利用して、貸主が、遅延損害金を年3割と消費貸借契約書に記載した事案について、年3割という合意は、捨印があったとしても認められないと判示しています。

したがって、捨印を押したら、何を記入されても文句は言えないということではなく、当事者の基本的な合意と異なった内容を記入した場合は、その効力が否定されることも十分あり得るのですが、捨印はできるだけ押さない方が無難と言えるでしょう。

10 訂正の方法

契約の条文について、例えば、2字消して2字つけ加えるなら、「削2字、加2字」と契約書の上部の空白部分に書いて、そこに判を押しておくのが正確です。

訂正部分の上に判を押してもよいのですが、これだとその訂正印がどこまでをカバーするのかはっきりしません。判を押したところ、後に、判の周辺をさらに訂正されてしまっても、その訂正が有効なものかどうか争いが生じてしまいます。

なお、契約書の金額、売買契約の目的である土地の表示は重要なものですから、ここの記載を間違った場合、「削2字、加2字」などとするより、契約書を作り直したり、あるいは、間違った契約書の金額、売買契約の目的である土地の表示などは削除し、別途覚書を作成した方がよいと思います。

11 「当事者双方誠意をもって協議する」  

契約書にはよくこの条項がありますが、この条項は、法的にはほとんど意味がなく、なくても構いません。

ただ、この条項があるのが一般的であるのと、また、何か起きたときに、「ここに誠意をもって協議するとなっているから、協議しよう」ということを言いやすいという程度の意味はあるので、記載はしておいてよいと思います。

12 契約書はどの程度保管しておくべきか

契約が終了するまでの間(売買なら決済まで、賃貸借なら賃貸借終了まで)保管しておくのは当然として、例えば、相手方から債務不履行を理由に損害賠償請求されたという場合、権利行使ができるときから10年、権利行使ができることを知ったときから5年がたっていれば、時効によって消滅していますが、それ以前は損害賠償請求権が成り立つかどうかを争わなければなりません。

また、会社法432条2項では、「事業に関する重要な書類は」の保管期間は10年となっており、契約書の保管期間も10年となります。

したがって、少なくても10年間は保管しておいた方がよいと思います。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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