浮気の代償~浮気を理由とする慰謝料請求はどこから認められるか~

配偶者が浮気をしたことが判明し、浮気相手に対して慰謝料請求したい、弁護士に依頼したい、ということが残念ながら見られます。もっとも「浮気」という言葉の内容がはっきりせず、どこまでの行為が認められれば慰謝料の支払義務が認められるのでしょうか。

浮気相手に対する慰謝料請求

浮気相手に対する慰謝料請求

慰謝料支払義務が生じる浮気の範囲

浮気相手に対する慰謝料請求のことを、法的に言えば、不貞行為を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求を行う、などと言うことになります。慰謝料の支払義務が認められるには、浮気が「不貞行為」にあたることが必要です。

浮気とは

どこからが浮気にあたりますか?などというアンケート結果をSNS等で見ることがあります。「相手のことを好きになる」「二人だけで食事をする」「二人でデートする」「手をつなぐ」「キスをする」「抱きつく」「性的行為を行う」様々な境界線があり、絶対的なものはないように思われます。

不貞行為(不倫)とは

裁判上、慰謝料の支払義務が認められる「不貞行為」とは、昭和48年の最高裁判所で以下のように判断されています。

最高裁第一小法廷昭和48年11月15日(判例タイムズ303号141頁)

最高裁第一小法廷昭和48年11月15日(判例タイムズ303号141頁)

「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」

つまり、慰謝料を払わなければならないレベルの浮気とは、性的行為段階に至るものと言うことができます。

もっとも、そこまでに至らずとも慰謝料請求も認められる余地はあるでしょうが、仮に認められてもその慰謝料金額は相当低額(せいぜい50万円以下)にとどまるのではないでしょうか。

浮気をした配偶者に対する慰謝料請求

浮気をした配偶者に対する慰謝料請求

上記はあくまでも浮気相手に対する慰謝料請求を内容とするものです。夫婦間においては、性的行為まで行かなくても、浮気が原因で夫婦関係が壊れてしまって離婚することもあります。その場合には、慰謝料の支払義務が認められることが考えられ、慰謝料請求が認められる浮気の範囲が広まることになります。

浮気の代償

浮気の代償

以上のように、性行為を含むような内容の浮気は、民法上不貞行為という「不法行為」にあたり、損害賠償責任を負うことになります。

慰謝料の金額は、婚姻期間・子どもの有無・浮気の期間・浮気による離婚の有無・行為の悪質性といった要素を加味して総合的に判断されます。

浮気が判明してしまったにもかかわらず、浮気相手との関係を止めることができなかったケースを紹介します。

東京地判平成19年2月21日

夫から、妻の浮気相手に対して慰謝料請求をした事案です。

妻と浮気相手は、飲み会で知り合い、当時浮気相手自身も他の女性と婚姻をしており、他方妻が婚姻していたことを知っていながら頻繁に誘い、夫の知らないところで、度々会うなどしていました。そんな中、夫に妻と浮気相手との浮気の関係が判明するに至りました。そして、夫は妻に対し、今後は浮気相手と会わないように言い、妻も別れる旨答えました。しかし、浮気相手は、その後も、妻に対し、頻繁に電話やメール等を送って誘い、妻も夫の知らないところで交際を続けました。なお、浮気相手の男性はその妻と離婚しました。

その後、夫は、妻と浮気相手が手を繋いで歩いているのを見かけ、浮気相手の非常識な行動をとがめ、今後は妻と会うのをやめるよう強く申入れをしまいた。しかし、浮気相手は、『自分の行動が法律上許されないことは認識しているが好きになってしまったので仕方がない』『妻に嫌われたら身を引くが自分からは引けない』『金は払うし法的に処理してもらってもかまわない』などと述べ、夫の話を聞こうとはしませんでした。夫は疲れ果て、妻と離婚するに至りました。

裁判所は、「被告(浮気相手)は,A(妻)が原告(夫)と婚姻しており,その夫婦関係が破綻した状況にはないことを知りながら,Aを誘って交際を続け,肉体関係を持つに至ったものであって,このような被告の行為は,原告の婚姻共同生活の平和の維持の権利を故意に侵害したものとして不法行為に該当する。したがって,被告はこれによって原告に生じた損害について賠償すべき義務を負う。」「被告は,Aに原告という夫がいることを知りながら,Aを繰り返し誘って頻繁に密会するなどの交際を続け,肉体関係を持つに至ったのであり,その間,それに気付いた原告から何度も,Aと別れるよう申入れがあったにもかかわらず,被告は,自分からは別れる気がないことを告げ,Aに対して自己を選ぶよう積極的に求め続けたものであって,これにより,原告とAとの夫婦関係は悪化し,原告は食欲不振,睡眠不足等に陥り,精神的,肉体的に疲労した結果,離婚を決意するに至ったものである。そして,被告がAと交際を始めるまで,原告とAとの夫婦関係は円満であり,その時点では何ら離婚に至る要因はなく,その後,Aとの離婚に至る経緯において原告には何ら落ち度はみられないところである。これに対し,被告は,自らの行為が許されないことを十分に理解しており,原告からも繰り返しAとの交際を止めるよう注意をされていながら,それを全く意に介することなく,なおもAを誘惑して交際を続け,自己を選択するよう求めていたものであって,その行為態様は悪質といわざるを得ない(被告は,Aに離婚を迫ったことはないなどと主張するが,前記認定のような被告の態度からして離婚を求めていることは明白である。)。以上の事情を考慮すれば,原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,200万円を認めるのが相当である。」と判示しました。

本ケースで、その後、妻と浮気相手がどうなったのかは分かりません。ただ、浮気を止めさせようとする夫から解放され、慰謝料200万円を支払った後、何の障害もない状況で良好な(新たな夫婦)関係となったか疑問です。果たして不倫関係がうまくいかない寂しさは解消されたのでしょうか。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣

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