有責配偶者からの離婚請求は認められるのか

配偶者と離婚したい場合、民法上定められた要件を充たせば最終的に裁判での離婚は認められます。

しかし、例えば不倫をしておきながら、他の女(男)と一緒になりたいから離婚したい、という側からの離婚は許されないのが原則となります。

民法上の離婚事由

民法上の離婚事由

民法では、離婚事由が法定されています。これらの離婚事由を主張立証することができれば離婚は認められることになります。

民法第770条

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

有責配偶者からの離婚請求

有責配偶者からの離婚請求

有責配偶者とは

民法770条4号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者からの離婚請求

有責配偶者からの離婚請求は認められるか

民法770条1項4号の離婚事由が認められたとしても、不貞をした人(有責配偶者)からの離婚は認められないのが原則です。法律の話は置いておいて、不倫相手がいてその人と一緒になりたいから離婚したい、と言われてそれが許されるというのは一般常識・感覚からずれているように感じられると思われます。裁判実務においても同様に考えられています。

有責配偶者からの離婚が認められる場合

有責配偶者からの離婚が認められる場合

リーディングケース~最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁

判示

「有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。けだし、右のような場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。」

解説

離婚が認められる理由は、夫婦関係が破綻しているにもかかわらず、法律上の夫婦関係を維持する必要性がないからです。そのため、夫婦関係が破綻しているにもかかわらず、有責配偶者からの離婚請求だからといって永遠に離婚が認められないわけではありません。

そこで、上記の判例では、有責配偶者からの離婚であっても、離婚を認めるべき以下の3つの要素が挙げられています。

① 当事者の年齢・同居期間との相対的に対比して、相当の長期間にわたって別居生活が送られている場合
② 未成熟の子どもがいない場合
③ 離婚を認めても、離婚を求められている側が、精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態には置かれない場合

そのため、不倫をしてしまった有責配偶者であっても、別居期間が長期に及び、子どもが小さくなく、離婚することで相手が苛烈な状況に陥れられてしまうわけではない場合には、離婚が認められることになります。

いったいどれくらいの期間をもって長期というのかについては明確な定めはありません。ただ一般的には8年以上の別居期間が経過していれば、離婚が認められる傾向にあるように思われます。

また、上記判例でも判示されているとおり、財産分与や慰謝料の支払いを多くすることでバランスをとって離婚に至るケースも見受けられます。裁判官から、高額の金銭の支払いを提示しているのだから離婚したらどうか、と和解勧試をされることもあります。

有責配偶者への婚姻費用支払

有責配偶者への婚姻費用支払

別居している妻に対し、夫は毎月婚姻費用を支払わなければなりません。もっとも、妻が不貞行為を行って家を出て行ってしまった場合、夫は離婚を許さないとしても、婚姻費用だけは払うことになってしまうのでしょうか。

夫としては、妻が身勝手な理由で家を出ていったのに、妻から生活費(婚姻費用)を請求されることに不満を覚える方も多いのではないでしょうか。しかし、婚姻費用分担義務は法律で定められた義務であり、支払義務を免れることはできません。

しかし、例外的に、妻の不倫・不貞行為など、妻の有責行為によって婚姻関係が破綻した場合には、裁判例上、婚姻費用を支払わないことが認められることが一般的です。有責配偶者である妻が、夫に対し、婚姻費用を請求することは、信義則又は権利濫用によって許されないと判断されています。

「相手方(妻)は,Fと不貞に及び,これを維持継続したことにより本件婚姻関係が破綻したものというべきであり,これにつき相手方(妻)は,有責配偶者であり,その相手方(妻)が婚姻関係が破綻したものとして抗告人(夫)に対して離婚訴訟を提起して離婚を求めるということは,一組の男女の永続的な精神的,経済的及び性的な紐帯である婚姻共同生活体が崩壊し,最早,夫婦間の具体的同居協力扶助の義務が喪失したことを自認することに他ならないのであるから,このような相手方(妻)から抗告人(夫)に対して,婚姻費用の分担を求めることは信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。」(福岡高裁宮崎支部決定平成17年3月15日)

「別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというベきところ,申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって,このような場合にあっては,申立人は,自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず・・・」(東京家裁審判平成20年7月31日)

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣

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