使用者の方から受けるご相談で意外と多いのが、従業員が何かの事件を起こした場合の対処方法です。その中でも、従業員が痴漢等の性犯罪を起こしたというケースが一定程度あるため、今回は、従業員が「痴漢」で逮捕された場合の会社の対応について解説していきたいと思います。

痴漢行為での逮捕

痴漢をした場合、通常はその場で現行犯逮捕されるケースが多いです。

痴漢行為については、各都道府県の迷惑防止条例違反ということになり、その条例によりますが、多くは6か月以下の懲役か、50万円以下の罰金という罰則かと思われます。

また行為の態様によっては、迷惑防止条例違反ではなく、不同意わいせつ罪などに当たる場合もあります。

具体例

具体例として多いのは、以下のようなケースです。

・通勤途中の電車内で、男性従業員が第三者の女性に対して痴漢行為をした

・会社内で、男性上司が、女性部下の身体を触った

など

従業員が痴漢した場合の対応

従業員が痴漢をして逮捕された場合、会社としてどのような対処、対応ができるのでしょうか。

まず最初に行っていただきたいのが、「事実関係の調査」です。

事実関係の調査

証拠の確保

痴漢による逮捕が不確かなままでは、同従業員に対する処分を明確に決めることができません。そこで、例えば、事件が会社内で引き起こされたものであれば、防犯カメラなどをチェックしたり、会社外の事件で報道等されていれば、その報道内容を確認し証拠として残しておくなどの対応が必要かと思います。

当該従業員との面談

つぎに当該従業員へ事実の確認を行うことになります。

「本当に痴漢行為をしたのかどうか」「事実ということであれば、具体的にどのようなことをしたのか」といった点を確認しましょう。

また面談の際は、やりとりをボイスレコーダーで録音する、当該従業員が事実関係を認めた場合にはその旨を書面に記載してもらうなど、こちらも客観的な証拠として残すという対応がポイントです。これらがないと、後々言った/言わないの水掛け論になる危険性があります。

書面に残す際は、痴漢したこと、いつ、どこで、何をしたかなどを聴取し、その内容を記載してもらいましょう。

また、あらかじめ書類を作って名前だけ書かせるよりは、従業員自身に作成させた方がよいと思います。従業員の直筆で書かれた書面が残るという点で、あとから否定される可能性が相対的に低くなるためです。

以上の事実関係の調査の結果、従業員による痴漢行為が明らかになり、証拠が揃ったら、いよいよ以下の対応策を検討していくことになります。

・解雇などの処分

・再発防止策を講じる

解雇などの処分

考えれる処分

処分内容には、減給や降格、戒告などがあります。最も重い処分としては解雇があります。

解雇

解雇は、大きく普通解雇(整理解雇を含む)と懲戒解雇の2つに分かれます。

普通解雇(整理解雇を含む)

普通解雇とは、従業員の能力不足や協調性の欠如、会社の経営悪化、就業不能など、社員の労務提供が不十分な場合に行われる解雇をいい、懲戒解雇以外の解雇をさします。

普通解雇を行うには、厳しい要件を満たす必要があります。そのため、使用者側にとって非常に高いハードルが課されています。

懲戒解雇

これに対して懲戒解雇は、従業員が就業規則などで定められた懲戒事由に該当することを理由に、懲戒処分として解雇を行うことをいいます。秩序に違反した社員に対して行う制裁的意味合いを持つ解雇です。

普通解雇と懲戒解雇との違い

両者とも解雇であり、結果として使用者と労働者の雇用関係が消えるという点では同じです。

しかし、懲戒解雇の場合、退職金の全部又は一部が受け取れない場合があります。また、失業給付の受給が遅くなるなど、普通解雇に比べて社員に与える影響は大きくなります。

そのため、必然的に懲戒解雇のほうが、普通解雇よりも解雇処分の正当性が厳しく判断されることになります。

解雇が適法といえる場合

解雇の合理性・社会的相当性

解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働基準法第18条2項)。

すなわち、解雇が有効とされるためには、解雇権の濫用とされないだけの①合理的な理由と②社会的相当性が必要なのです。

そこで、解雇を実行する前には、当該事案に①合理的な理由と、②社会的相当性があるかどうかを十分に調査・検討する必要があります。

従業員が、業務とは関係なく、私生活上で痴漢事件を起こした場合は、懲戒解雇の選択は、慎重に判断した方がよいと思われます。懲戒解雇は、企業の秩序違反に対する制裁であって、私生活上の非行は、企業の秩序とは直接的には関係がないためです。

そのため、懲戒解雇が有効といえるためには、痴漢の事件により、会社の業務に影響が及んでいるとか、報道等により会社の社会的信用が毀損されたなど、会社の企業秩序が害されたといえることが必要です。

そのため、そのような事情なく懲戒解雇を行った場合には、後々本人が不当解雇だとしてその有効性を争ってくると、裁判所において解雇は無効と判断されてしまうリスクがあります。

それゆえ、そのような場合は、解雇よりも軽い処分(減給や降格、戒告など)を検討いただいた方が良いかもしれません。

一方、会社内で起こった痴漢事件については、企業の秩序違反に対する制裁としての解雇が認められやすい方向になってくると思います。

再発防止策を講じる

従業員の痴漢は、会社にも大きな衝撃を与えます。

そのため、今後二度と痴漢事件が起きないよう、再発防止策を実施することが大切です。

なお、再発防止として監視体制を整える方法の一つに監視カメラの設置がありますが、設置する場所には注意が必要です。無いとは思いますが、更衣室やトイレなどへの設置は当然プライバシー侵害になってしまいますので、NGです。

また防犯カメラを設置するときは、社内全体に通知することも必要かと思います。

加えて、就業規則の見直しや管理体制の強化も行なうとより安心です。

従業員にも、痴漢などの刑事事件を引き起こすとどうなるか、真剣に考えてもらうきっかけになります。

まとめ

以上に説明した対応は、事案によってその具体的内容は様々あり得るところです。

そのため、当該事案に対して、会社としてどのように対応していけばよいかについては、弁護士とよく相談し決めていくべきです。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅

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