こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。

東京オリンピック・パラリンピックにて、談合があったというニュースは記憶に新しいところですが、今回新たに、当該談合事件について、電通グループと同社元幹部に対し、検察側が罰金3億円を求刑したという報道がありました。

報道によれば、電通グループと同社元幹部は、東京オリンピック・パラリンピックの運営業務をめぐり、広告大手などと不正な受注調整をした疑いがあるとのことです。

このような受注調整についての談合は、独占禁止法が禁止する「不当な取引制限」(同法2条6項、3条)にあたる可能性があります。

そして、「不当な取引制限」にあたる行為を行った行為者や法人に対しては、排除措置命令や課徴金納付命令だけでなく、刑事罰が科されてしまうこともあります。

そこで、この記事では、「不当な取引制限」がどういった場合に成立するかなどを説明したのち、独占禁止法違反に対して科される刑事罰をわかりやすく解説していきます。

「不当な取引制限」とは

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる「独占禁止法」)は、「不当な取引制限」を禁止しています(同法第2条6項、第3条)。

冒頭の事件で問題となったのは、不当な取引制限の一類型である「入札談合」になります。

例えば、国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際して、事前に、受注事業者や受注金額などを決めてしまう行為がこれにあたります

「不当な取引制限」が成立する条件

不当な取引制限が成立する要件は以下の5つです。

① 「事業者」が「他の事業者」と
② 「共同して」
③ 「相互に拘束して」、「共同遂行」
④ 「一定の取引分野における競争を制限する」こと
⑤ 「公共の利益に反する」こと

なお、一定の取引分野における競争の実質的制限とは、判例上、「市場が有する競争機能を損なうことをいい、談合における基本合意で競争制限が行われる場合には、その当事者である事業者らがその意思で落札者や落札価格をある程度自由に左右できる状態をもたらすことをいう」とされています。

独占禁止法違反に対する刑事罰

「不当な取引制限」に当たる行為を行った場合、公正取引委員会より、排除措置命令や課徴金の納付命令が課されることとなります。

また、場合によっては、別途刑事罰が科されることもあります。

独占禁止法上、刑事罰が規定されているものとしては、「私的独占」、「不当な取引制限」、「事業者団体による競争の実質的制限」等が挙げられ、「不公正な取引方法」については、現時点では刑事罰は規定されておりません。

そして、上記の違反行為者に対しては、「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」、法人に対しては、「5億円以下の罰金」が科されることとなっています(独占禁止法89条)

公正取引委員会の刑事告発方針について

もっとも、刑事罰の対象となる行為があった場合に、必ず、公正取引委員会により刑事告発がなされるわけではありません。

公正取引委員会は、刑事告発に関する方針(「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」)を公表しております。

それによれば、公正取引委員会は、概要、①国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重要な事案、及び、②事業者が違反行為を反復しており、公正取引委員会が行う行政処分によっては独占禁止法の目的を達成できないと考えられる事案について、積極的に刑事処分を求めるとしているようです。

東京五輪の入札談合事件について

公正取引委員会の上記方針からすれば、東京オリンピック・パラリンピックという国家的プロジェクトにおいて入札談合が行われたことから、国民生活に広範な影響を及ぼすものとして、今回刑事告発がなされたものと思われます。

また、東京オリンピック・パラリンピックという巨大な国家プロジェクトにおいて、総額400億円を超える事業について談合で受注したという事案の悪質性に鑑み、公正取引委員会の行政処分だけでは独占禁止法の目的を達成できないと判断されたものと考えられます。

なお、同事件で、東京地裁は、博報堂に対して罰金2億円、元局長に対して懲役1年6か月・執行猶予3年を言い渡しています。

今回、起訴された電通グループと元幹部に対して、どのような刑が下されるかについては、続報が待たれます。

まとめ

入札談合の成立要件を説明したのち、公正取引委員会が刑事告発を行う場合について解説をしていきました。

入札談合は、国民生活に影響を与える重大な案件が多いと思われますので、事案の悪質性や重要性によっては、刑事告発がなされ、刑事罰を受ける可能性が高まると言えるでしょう。

当然ながら、入札談合など独占禁止法に違反する行為を行ってはいけません。

独占禁止法は専門的な知識が必要な分野ですので、お困りの際は、独占禁止法に強い弁護士に相談することをお勧めいたします。

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