マンションについて規定をしている区分所有法は、共用部分の「管理」についてその内容を示しています。老朽化したマンションの「修繕」についても、この「管理」として管理組合の扱う業務となりますが、その「修繕」に先立つ総会決議ついて、区分所有者から有効性が争われることもあります。今回は、そのような紛争について、具体的にどのようなことが争われ、裁判所がどのように判断しているのかという点を、実際の裁判例を挙げて解説していきます。

マンションの管理に関する近時の裁判例 その4

マンションの「管理」とは

マンションの「管理」といっても、実はその中にはマンションの「①変更(形状または効用の著しい変更を伴うもの)」、「②狭義の管理(その形状または効用の著しい変更を伴わない物・軽微変更)」、「③保存行為(当該部分の滅失・毀損を防止して現状の維持を図るもの)」の三つに分かれています。

管理の意義

「①変更」は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会(多くのマンション管理組合でいうところの「総会(定時総会・臨時総会)」、以下単に「総会」といいます。)の決議(特別決議)、つまり区分所有者の「頭数」と「議決権」という2つの要素が揃っていることを前提とします。この2つの要素のうち、管理規約にて「頭数」については過半数にまで減らすことは可能ですが、「議決権」については要件を緩和することはできません。

これに対し、「②狭義の管理」については管理規約に特別の定めがない限り、総会の「普通決議」、つまり区分所有者及び議決権の過半数で決することになります(ただし、多くの管理規約では、頭数及び議決権の各過半数とする法律上の要件を、「議決権の半数以上の出席で,出席者の過半数で」という形に緩和しています。)。

最後の「③保存行為」については、各区分所有者が単独で行うことができ、総会決議が不要であるとされます。

マンションの老朽化に伴い共用部分の交換工事を行う場合、どのような決議が必要か

以上の「管理」の意義を踏まえると、共用部分の構成部分を交換工事(電球等の消耗品などは含まれません。)する場合、①の「変更」に当たり、特別決議を要するものと考えられます。

この決議につき、どの程度詳細な決議案として上程し、決議を得ればよいのか、参考となる裁判例を紹介します。

ベランダ手摺りの老朽化のために行った、パネルタイプのアルミ製手摺り交換工事実施の特別決議に対し、反対する区分所有者が、受忍限度を超え、専有部分に特別な影響を及ぼすと原状回復を求めたが、受忍限度を超えていないとした事例(請求棄却)(東京地方判所令和5年4月18日判決)

事案の概要

 原告は、修繕工事を実施することとなったマンション(以下「本件マンション」といいます。)の一室を所有する組合員となった者で、被告は、本件マンションの管理組合でした。

原告は本件マンションのベランダの「柵状」の手摺りを、アルミ製「パネル」型の手摺りに取り替える工事をしたことによって、原告の日照、通風及び眺望が害されたとして、人格権ないし環境権に基づく原状回復請求として、工事後のアルミ製パネル手摺りを撤去し、従前の柵状の手摺りに戻すことを求めました。

 工事に至るまでに本件マンションでは臨時総会を開き、各住戸のベランダの手摺りをアルミ製手摺りにする工事について決議をはかり、特別決議にて承認されたので、マンション管理組合はベランダの柵状の手摺りを撤去し、新たにアルミ製パネル手摺りを設置する本件アルミ製手摺設置工事を実施しました。

被告となったマンション管理組合の管理規約では「敷地及び共用部分等の変更(改良を目的とし、かつ、多額の費用を要しないものを除く。)又は処分」に関する総会の議事は、「組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。」と定め、本件のような修繕工事には「特別決議」が必要となること、また「敷地及び共用部分等の変更及び処分が、占有部分又は占有使用部分の使用に特別の影響を及ぼすときは、その専有部分を所有する組合員又はその専用使用部分の専用使用を認められている組合員の承諾を得なければならない。この場合において、その組合員は正当な理由がなければこれを拒否してはならない。」と定めていました。

本件の争点

以上の管理規約の下、原告はパネル状の手摺に変更することが、原告の人格権(日照・通風・眺望の利益)を侵害する違法なものであると主張し、原状回復請求として、被告らに対し、本件工事によって設置されたアルミ製パネル手摺りを撤去し、従前の柵状の手摺りを設置するよう求めることができると主張しました。その理由としては、

「決議の欠缺(不足)」があることが指摘されました。

この「決議の欠缺」の内容について、具体的には「決議の内容に不足があること」、そして「特別な影響を受ける区分所有者の承認がなかったこと」を挙げています。

前者は、本件工事の総会決議では「アルミ製手摺りによって日照、通風及び眺望が著しく悪化することの事前の説明」がなく、「パネルにするか柵状にするか」の決議は行われなかったことであり、後者は手摺りの形状によっては、ベランダの一部専用使用者(本件マンションの高層階など)に、日照、通風及び眺望の悪化という「特別の影響」を及ぼすところ、そのような影響を受ける組合員の承認がなかった、と原告は指摘しました。

  被告となるマンション管理組合は上記の指摘をいずれも否定しましたので、本件の争点としては、

①本件工事が管理規約に定める特別決議を欠いているか、

②原告を含む本件マンションの高層階の区分所有者の承諾を要するものといえるか、いえるとして承諾なしに強行されたといえるか(特別の影響の有無)、

の2点となりました。

判決要旨

 上記の各争点に対し、裁判所は以下のとおりの判断をしました。

(1)争点①本件工事が管理規約に定める特別決議を欠いているか について

裁判所は

「本件臨時総会の本件招集通知には『アルミ製手摺設置工事』が議事事項とされることが明記され、また、「パネルタイプ」と明記された同工事の見積書も添付されていること、本件招集通知が原告を含む各区分所有者に配布された上で本件臨時総会が行われたこと、本件臨時総会では、手摺りをアルミ製とした理由やデザインについて質問が出され、…『デザインはこれから理事会で決定していく』と回答した上で、アルミ製手摺設置工事についての議決がされ、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上の賛成により承認された」

ということが認められるとして、この総会で本件マンションのベランダについてアルミ製のパネルタイプの手摺りを設置することまでの特別決議を得たと認められる、としました。

(2)争点②本件工事が「特別な影響」があるといえるか について

 裁判所はまず、「特別の影響を及ぼすとき」について

共用部分の変更等の必要性と合理性これによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう」

とし、本件工事については、

「本件マンションのベランダの手摺りが老朽化により腐食等が生じていることから耐久性に優れたアルミ製の手摺りに交換する必要性があることが認められ、また、柵状よりもパネル状の方が飛来物の窓ガラスへの衝突回避、周囲から本件マンションの室内が見えることの防止並びにベランダからの落下物の防止という防犯及び防災の点で優れており、区分所有者のアンケートでもパネルタイプを希望する住戸が過半数を超え、7階から10階までの住戸でも柵状を希望する住戸は6、パネルタイプを希望する住戸は14であったことも併せ考えると、パネルタイプによる手摺りを選択したことについては合理性があるものと認められる。
 他方で、原告宅を含む本件マンションの7階から10階までの住戸は、・・・本件アルミ製手摺設置工事によって柵状手摺りの隙間から差し込んでいた日照や通風がパネル状手摺りによって差し込まなくなり、柵状手摺りの隙間から見えていた眺望がパネル状手摺りによってみることができなくなったのであるから、従前よりも原告宅の日照、通風及び眺望が悪化したことについては推認される。しかしながら、手摺りの高さに変化はない上、原告は、従前と比べて、日照時間や日影の態様にどのような変化があったか等、日照、通風及び眺望についてどの程度悪化したのかについて具体的に主張立証をすることはないのであるから、原告の受ける不利益が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものであるとまでは認められない
 したがって、管理規約・・・の「特別の影響を及ぼすとき」には該当するとは認められない」
として、「特別な影響」は生じず、原告を含めた高層階の区分所有者らの「承諾は不要」としました。

本裁判例のポイント

 以上のとおり、本裁判例は、「本件工事が、適正な手続を経ずに強行され原告の日照、通風及び眺望の利益が受忍限度を超えて侵害されたとの原告の上記主張は認められず、原告の請求は理由がないから棄却する」との結論を導いていますが、この裁判例の要点をまとめると、以下のようになるかと思います。

☑特別決議を要するような修繕工事につき、その決議に不足がないというためには、工事の内容が明確になっており、その工事の内容が招集通知に見積書の添付をするなどして組合員に示されていること、そして総会内でも質疑応答を適切に行い、決議を取っていること

☑決議のみならず「特別な影響」があるとして修繕工事に一部の組合員の承諾が必要となるのは、「共用部分の変更等の必要性と合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量して、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合」になること

☑上記受忍限度の判断に関する必要性と合理性・不利益については、具体的に当事者にて当該マンションの実態に即して主張立証する必要があること

 マンション管理組合の中で、組合員全員の意思を統一するということは非常に困難であり、そうであるからこそ修繕工事であっても「全組合員」の同意を要求せずに、普通決議または特別決議によるものとしています。

本件裁判例のように、特別決議を超えて一部組合員の承諾を得る必要まではない、と判断されるようなケースであっても、その最終的な決議を取る過程には、有効性に疑義が生じないように可能な限り丁寧な準備や質疑応答の機会が与えられることが必要であると考えられます。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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