中小企業の社長は住宅ローンを組みにくいと言われます。多数の書類を提出し、厳しい審査を通って住宅ローンを組んだとしても、「変動金利型」で金利が上がった場合、住宅ローンの返済額が増加し、引いては会社経営に悪影響を及ぼす可能性もあります。

会社社長は住宅ローンが組みにくい?

今回は、会社を経営している社長が、個人で住宅ローンを組む場合のことを考えてみたいと思います。

皆さんには、「社長さんは高収入だから、住宅ローンでも何でも簡単に組めるでしょう」というイメージがあるかもしれません。

しかし、それは大企業の経営者や、経営年数の長い(かつ経営状態の安定している)一部の会社の話で、実は、多くの中小企業の社長の場合、住宅ローンを組む場合の審査は厳しくなると言われています。

特に、小規模な会社の社長の場合、会社の業績と個人の収入が連動しやすく、“会社の利益≒社長個人の報酬”と言っても過言ではないため、社長個人の収入も時代の趨勢に合わせて不安定になりがちです。

金融機関は、住宅ローンの返済が途中で焦げ付くことを恐れますから、中小企業で、かつ、経営年数も浅い会社の社長の場合、「この人の経営する会社は、これから先何十年も、果たして安定的な経営を続けていけるのか」を疑問視してかかります。

給与所得者である会社員と違って、「安定」の要素がどうしても少ないですから、向こう何十年に渡って、住宅ローンを返済していけるだけの報酬を取ってこられるのかどうか、審査の目は厳しいものになるのです。

また、会社社長の場合、一般の会社員よりも、審査で必要とされる書類が格段に多くなります

つまり、一般的なイメージと異なり、多くの会社社長は、実は住宅ローンが組みにくいのです。

会社の業績が赤字だとまず審査は通らないと思った方がよい

上記のとおり、「安定」の要素がどうしても少なく、会社の業績と個人の収入が連動しやすい中小企業の社長の場合、住宅ローンを受ける際の金融機関の審査は、一般の会社員と異なり、厳しいものになります。

特に民間の金融機関では、経営する会社の決算書の提出は必須で、経営状態をチェックされますし、(本来は社長個人の債務とは言えないはずの)会社としての借入金の有無・残額まで考慮して審査が行われることもあるようです。

このため、会社の業績が赤字の状態だと、民間の金融機関での審査はまず通らないと思った方がよいでしょう。

また、最初から、中小企業の社長向けの融資を行っていないことを明確に謳っている住宅ローンもありますので、審査を申し込む際には注意が必要です。

一方、政府系の独立行政法人である住宅金融支援機構が実施している「フラット35」では、そこまで厳しく審査されることはないようですので、どうしてもという場合には「フラット35」を利用することも検討してみましょう。

雇われ社長でも同じく審査は厳しいのか?

「自分はオーナー社長ではなく、いわゆる雇われ社長に過ぎないから、一般の会社員と同じように見てもらえて、住宅ローンの審査に通りやすいのでは?」と考える方もいるかもしれません。

しかしながら、雇われ社長に過ぎないとしても、一般の会社員と異なり、社長は雇用保険に入ることができませんし、労災の適用もありません

また、“雇われ”の身分であることから、会社が業績不振に陥った場合、役員報酬を減額されたり、役員自体を解任されたりするリスクもあります。

このため、たとえ雇われ社長に過ぎないとしても、やはり、収入面や雇用維持の面での不安定さは否めず、住宅ローンの審査も、オーナー社長同様、厳しくなってしまうのです。

会社社長は金融機関に提出する審査書類も格段に多い

中小企業の社長は住宅ローンの審査に通りにくいだけでなく、金融機関に提出を求められる書類も、一般の会社員と比べて格段に多くなります

「3期分の会社の決算書」はほぼ必須であり、この他にも、

■確定申告書の控え(2~3年分)
■所得税の納税証明書(2年分)
■法人税の納税証明書(3年分)
■住民税決定通知書または課税証明書(1年分)

などの提出書類があります。

必要となる書類は、金融機関ごと、申し込む住宅ローンの種類ごとにまちまちですが、それでも、一般の会社員が申し込むのとは異なり、格段に多く、用意するのも大変です。

このような書類の提出を通じて、社長個人の継続的・安定的な住宅ローンの返済がかなうのかどうか、経営している会社の中身まで吟味されるというわけです。

金利の変動で影響を受ける会社社長の住宅ローン

会社社長の住宅ローン返済も金利の変動と無縁ではいられない?

皆さんもご存じのとおり、住宅ローンには、大きく分けて、「固定金利型」と「変動金利型」の2種類があります。

提出書類の少なさや審査の通りやすさの観点からすると、会社社長に適していると思われるのは住宅金融支援機構の「フラット35」ですが、こちらは「固定金利型」です。

しかし、その他の諸条件から、「変動金利型」の住宅ローンを組んでいる社長もいらっしゃると思います。

日本では長期に渡って低金利の状態が続いていますが、昨今、日銀が政策金利を引き上げるという方針を打ち出したことが話題になりました。

日銀が政策金利を引き上げると、会社社長が組んでいる「変動金利型」の住宅ローンの金利も上がって、月々の返済額が増加する、ということになるのでしょうか。

実は、話はそう単純ではありません。

基本的には、

①日銀の政策金利が上がると、短期プライムレートが上がる
②短期プライムレートが上がると、住宅ローンの金利が上がる

という流れがあります。

ここで、正確には、

「短期プライムレートとは、平たく言えば、銀行が企業に融資をする際の基準金利のようなもので、これが住宅ローンの変動金利の基準ともなる」

「金利優遇幅の動きを見ないことには、実際に、月々の住宅ローンの返済額が増えるかどうかは見極められない」

といった話があるのですが、これらの点は経済の専門家に譲ることにします。

本稿では、今後の日銀の金融政策によって、「変動金利型」で住宅ローンを組んでいる社長の、毎月の返済額が上がる可能性があることを前提に説明を続けたいと思います。

「金利が上がる=直ちに住宅ローンの返済額が上がる」というわけではないけれど・・・

政策金利が上がり、短期プライムレートも上がったからといって、直ちに、すでに組んでいる住宅ローンの変動金利も上がる、というわけではありません

多くの「変動金利型」住宅ローンの場合、変動金利の見直しは半年に1回、つまり年2回となっています。

さらに、返済額の見直し自体は5年に1回となっています。

例えば、2024年に住宅ローンを組んだ社長の場合、返済額の見直しは、2029年、2034年、2039年…と、5年ごとになるということです。

つまり、2025年に変動金利が上昇したとしても、次の返済額の見直しの年に当たる2029年までは住宅ローンの月々の返済額は同じです。

「あれ?それじゃ、金利が上がるって言っても、何も気にすることはないんだ。『変動金利型』でも安心だ」

と思う社長もいらっしゃるかもしれません。

しかし、これも違います。

「変動金利型」の金利が上がっているにもかかわらず、毎月の返済額が同じということは、毎月の返済額の内訳が変わっているということです。

そうです。

実は、金利の上昇によって増加した利息の分だけ、元本の返済に回っている金額が減っているということなのです。

つまり、「変動金利型」で金利が上がった場合、直ちに慌てる必要はないものの、実際には元本の返済が一部先延ばしになっているようなものであり、次回の返済額の見直し時以降、負担が重くなる可能性があるということです。

会社社長の住宅ローン返済がきつくなると起こること

このように、長期的な視点で見れば、「金利変動型」の住宅ローンの金利が上昇すれば、住宅ローンの返済額(総支払額)は増加する可能性があります。

「変動金利型」で住宅ローンを組んだ会社社長の返済計画にも、今後、影響が生じかねません。

近年では、情報技術を含めた技術革新のスピードが速く、大企業でさえ先が見通しにくい状況にあります。

中小企業ではなおさら、その時々の景気の影響を受けやすく、会社の業績が下がってきたタイミングと、金利の変動により社長個人の住宅ローンの負担が増えるタイミングが折悪く重なってしまうこともあり得ます。

特に、小規模な会社の場合は“会社の利益≒社長個人の報酬”と言っても過言ではないため、社長は、「減った収入の中から、増額された住宅ローンを支払う」といった状況となり、家計が回らなくなるかもしれません

その場合は、社長個人の債務整理を検討しなければなりませんが、会社を経営している立場上、問題はもっと複雑になってきます。

社長であれば、ほとんどの方は会社債務の連帯保証人になっているでしょうから、金融機関から経済的信用のおける新たな連帯保証人を求められることになります。

また、中小企業だと、社長個人がカードローンなどで借り入れた金銭を、事業資金として会社に注ぎ込んでいるケースが多々あります。

このような場合、社長が追加で資金を投入できないとなると、極端な話、会社の経営自体が一気に傾いてしまうこともあるのです。

こうなると、社長個人の債務整理だけではなく、会社自体も債務整理(すなわち破産申立て)を考えなければならないことになります。

このように、社長の住宅ローンの返済が順調かどうかは、経営する会社自体にも重大な影響を及ぼしかねないのです。

変動金利の影響で個人としての住宅ローンの返済がきつくなり、ご自身の家計が苦しくなってしまった、また、その影響で連鎖的に会社の経営も厳しくなってしまったという社長は、是非一度、債務整理の経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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