従業員を雇って業務を行っていると、どこかのタイミングで従業員との労働問題が生じることがあります。

労働問題の内容は多種多様であり、どのように対処すべきか分からないという場合も多く存在するかと思いますので、今回は、会社側の労働問題に関するテーマごとの弁護士の視点について解説をさせていただきます。

雇用契約書や就業規則がないと指摘された

雇用契約書を作成しないといけないか?

会社が従業員と雇用契約を締結する際、必ずしも雇用契約書を作成する義務はありませんが、従業員に対しては労働条件を書面にて通知しなければなりません。

労働条件通知書には、契約期間、更新基準、就業場所、業務内容、労働時間、休日、賃金、退職などを記載する必要があり、労働条件通知書を交付しないことは罰則の対象となります。

そのため、会社側としては最低限、従業員に対して労働条件通知書を交付すべきということになりますが、従業員との労働問題は労働条件が曖昧なことに起因して発生することがほとんどであるため、後々の労働問題を避けるという観点からは雇用契約書を作成の上、従業員の労働条件を明確しておくべきです。

就業規則を作成しないといけないか?

常時10人以上を雇用する事業所を有する会社は就業規則の作成及び届出が義務付けられており、当該条件を満たすが就業規則を作成していないという場合には罰則の対象となります。

従業員の人数のカウントは事業所ごとに行うため、各事業所は従業員10人未満、会社全体では従業員10人以上という場合、就業規則の作成等義務は課されません。

他方で、就業規則は従業員が会社で働く上でのルールブックとしての役割を担い、雇用契約書や労働条件通知書では網羅できない細かい労働条件についても記載をするものであるため、後々の労働問題を避けるという観点からは就業規則の作成等義務がない場合であっても就業規則を作成し従業員の労働条件を明確化しておくことをお勧めします。

残業代を請求された

残業代の請求に応じるべきか?

雇用契約において従業員と合意した労働時間を超えて従業員を働かせた場合、会社は残業代を支払う必要があります。

割増が発生するのは従業員が1日8時間、週40時間を超えて働いた部分ですが、それらを超えない部分で従業員と合意した労働時間を超える部分についても割増なしの残業代を支払う必要があります。

別途、会社には従業員の労働時間を把握する義務があり、一般的にはタイムカード等で従業員の労働時間を把握しているかと思います。

従業員から残業代の請求がされる場合というのは、単に残業代を支払っていない、タイムカードが従業員の実際の労働時間を示していない、会社は従業員に対して残業代相当の手当を支給しているが当該手当の性質に争いがあるといった場合です。

上記の単に残業代を支払っていないという場合には当然のことながら残業代を支払う必要がありますが、それ以外のケースについては従業員の勤務実態や手当の定め方等を確認した上で対応を検討する必要があります。

なお、現状、残業代の請求期限は各月の給与支払日から3年間であるため、最大で従業員1人につき3年分の残業代請求があり得ます。

異動を命じたが従わない

従業員は異動を拒否できるか?

雇用契約書や就業規則に「状況に応じて異動させることがある」といった定めがある場合、会社は内部の人員配置等を勘案の上、従業員に異動を命じることができます。

他方、会社が従業員との間で、職種や勤務地を限定する合意をしていた場合、当該合意が優先されるため、会社が従業員の同意を得ずに一方的に異動を命じることはできません。

また、異動が従業員に対する嫌がらせ等の不当な目的で行われる場合、異動により従業員に過大な負担がかかる場合には会社の異動命令が違法と判断されることがあります。

そのため、従業員が異動を拒否できる場合というのは、そもそも会社に異動を命じる権限がない場合、職種・勤務地の限定がある場合、異動が不当な目的により行われる場合、異動が従業員に過大な負担をかける場合ということになります。

業務上の必要から異動に関しては会社側に相当程度の裁量が認められているため、従業員が異動を拒否できる場合は多くはないというのが現状です。

職場でのハラスメントの報告を受けた

ハラスメント事案にどのように対応すべきか?

会社は従業員との雇用契約上、従業員が安全に勤務できる環境を整備する義務を負っているため、ハラスメント事案については適切に対応する必要があります。

ハラスメントによりハラスメント被害者に損害が発生した場合、ハラスメント被害者はハラスメント加害者に対してその損害賠償を請求することができますが、会社に対しても上記の義務違反を理由に損害賠償を請求することができます。

会社としてはハラスメントが発生しないよう定期的に研修を行うなどの事前準備に加え、ハラスメントが発生した場合の事後処理についても気を配る必要があります。

従業員からハラスメントが発生したという報告を受けた場合、会社は実態把握のための調査を行い、調査結果をもとにハラスメントに該当するか否かの判断を下し、ハラスメントに該当すると判断した場合には人事異動や懲戒権の行使などの再発防止策を講じるというのが一般的な処理の流れとなります。

労働組合に加入し団体交渉を申し入れてきた

団体交渉に応じないといけないか?

昨今、会社内に労働組合が存在するというケースは少なくなってきましたが、従業員が地域単位で組織されている労働組合に加入して団体交渉を申し入れてくるということがあり得ます。

労働組合は法律により強く保護されているため、会社側の労働組合であることをもって一切、団体交渉に応じないという対応をとることは禁物です。

そのような理由で団体交渉を拒否すると、不当労働行為として損害賠償請求をされたりする一方、結局、団体交渉に応じるよう命じられるため、会社にとってはデメリットしかありません。

団体交渉はあくまで交渉事であるため、従業員の言い分をすべて受け入れる必要はありませんが、要求を拒む場合には相応の理由や資料を提示して労働組合に対する説明を行う必要があります。

なお、労働組合は団体交渉中であってもビラ配りや街宣活動を行う可能性があり、それをされたくないという場合にはどこまで争うかを検討することになります。

労働審判や訴訟を起こされた

裁判所手続にどのように対応すべきか?

労働問題について従業員との協議で折り合いがつかない場合、従業員が裁判所に労働問題を持ち込むことがあります。

労働問題に関する裁判所のメニューとしては労働審判と訴訟の2つがあります。

労働審判は労働問題の迅速な解決を目指す手続であり原則3回の期日で結論が出ます。

訴訟はいわゆる裁判であり労働問題について厳密な審理を行うため結論が出るまでに1年以上かかることもざらです。

いずれの手続も裁判所に会社の言い分を伝えないまま放置してしまうと従業員の言い分に沿った結論が出てしまうことになりますので、対応は必須です。

裁判所手続は基本的には書面でのやり取りとなりますので、従業員の言い分と会社の言い分が対立する部分について証拠を前提とする主張を行うことになります。

まとめ

今回は、会社側の労働問題に関するテーマごとの弁護士の視点について解説をしてきました。

従業員を雇用する上で一定の労働問題が発生することは避けられないというのが実情ですので、いざ労働問題が発生した場合に会社側としてどのように対応するかを予め想定しておく(可能であれば予防策を講じておく)ということが重要となります。

そのためには労働問題が発生した早期の段階で労働問題に明るい弁護士に相談しておくことをお勧めいたします。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二

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