労災が発生したときの病院での手続きについて

「仕事中に怪我をしてしまったけど、病院はどうすればいいんだろう?」

労災に遭われた方は、このような不安を抱えているかもしれません。

労災保険は、仕事中に負ったケガや病気に対して、治療費や休業補償などの給付を受けられる制度です。

しかし、労災保険をスムーズに利用するためには、病院での適切な手続きが重要となります。

この記事では、労災が発生した場合に病院で行う手続きについて詳しく解説します。病院での手続きを円滑に行い、労災保険を正しく利用する方法を理解しましょう。

安心して治療に専念できるよう、病院での手続きについて詳しく解説していきますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

病院での手続きを行うことで労災保険で治療ができます

労災が発生した場合、まずは専門の医療機関での治療が必要です。たとえば、いきなり接骨院にいくのではなく、病院に行きましょう。

事故や疾病が労働に起因するものであれば、労災保険を利用することができます。

1. 労災保険を使用するための基本的な手続き

労災保険制度では、業務上の事由または通勤による負傷・疾病について、必要な療養の給付を受けることができます。この療養の給付を受けるためには、適切な手続きを行う必要があります。

具体的には、以下の2つの方法があります:

①労災指定医療機関での治療(原則的な方法)

・ 療養の給付として、医療機関で直接診療を受ける方法
・ 医療費の自己負担は発生しない
・ 様式第5号「療養補償給付たる療養の給付請求書」の提出が必要

②労災指定医療機関以外での治療

・ いったん自己負担で治療費を支払い、後日その費用の請求を行う方法
・ 様式第7号「療養の費用請求書」による請求が必要

なお、これらの手続きは事業主(会社)を通じて行うことが一般的です。

ただし、事業主が請求に協力しない場合であっても、被災労働者自身で請求することは可能です。

次の項目では、労災指定医療機関での受診について、より詳しく説明いたします。

労災保険を使用する場合は労災病院で手続きが必要です

4 労災で指に障害が生じた際に、受けられる補償は?

労災保険を適用するためには、労災病院での診察と治療が必要ですが、すべての病院が労災対応であるわけではありません。

労災指定医療機関でない病院で治療を受けた場合、労災保険の適用が受けられないこともあるため、事前に確認が必要です。

労災指定医療機関とは、労働者災害補償保険法第29条に基づき、都道府県労働局長が指定した病院、診療所等を指します。

【労災指定医療機関の特徴】
・労災保険診療費算定基準に基づく診療が可能
・労災特有の症状に対する診療実績がある
・労災保険に関する事務手続きに精通している

【労災指定医療機関の探し方】
・勤務先の産業医に相談
・労働基準監督署で情報を得る
・厚生労働省のホームページで検索
・各都道府県労働局に問い合わせ

※労災指定病院かどうかは、こちらから検索できます。

【受診時に必要なもの】
・様式第5号(療養補償給付たる療養の給付請求書)
・本人確認書類
・労災では社会保険は適用されません。したがって、受診時に健康保険証は提示せず、労災であることを必ず伝えてください

※通常、上記があれば、医療機関の窓口で診療費を支払う必要ありません

なお、緊急その他やむを得ない理由により、労災指定医療機関以外で受診せざるを得ない場合もあります。その場合の対応については、後述いたします。

様式5号について

病院での診察後、医師は「様式5号」に記入します。

この様式は、労災の発生状況と治療内容を記録したものです。この手続きを済ませることで、労災保険の請求が可能となります。

労災病院での診察を受けた後、医師は「様式5号」と呼ばれる書類を作成します。この様式は、発生した労働災害の状況や医療行為の内容を記録した文書で、労災保険の請求に必要なものです。

様式5号について、こちらで詳しく解説しています。

労災病院以外を受診すると労災保険を使用できない?

緊急時や特殊な治療が必要な場合など、労災指定医療機関以外で受診せざるを得ないケースがあります。このような場合の対応について解説いたします。

【労災指定医療機関以外を受診する場合】
・休日・夜間の緊急受診が必要なとき
・近隣に適切な労災指定医療機関がないとき
・専門的な治療が必要なとき
・既に別の医療機関で治療を受けているとき など。

【手続きの方法】
1. 一旦、自己負担で治療費を支払う
2. 様式第7号(療養の費用請求書)を作成
3. 領収書等の必要書類を添付
4. 労働基準監督署に請求

【必要な添付書類】
・医療機関の領収書(原本)
・診療報酬明細書
・事業主証明書
・その他災害の発生状況を証明する資料

【注意点】
・請求は2年以内に行う必要がある(労災保険法第42条)
・医療費は労災保険診療費算定基準に基づいて算定される

事後的な手続きは複雑になりがちですので、可能な限り早期に労働基準監督署に相談することをお勧めいたします。

健康保険を使用している場合にはどうする?

労災による怪我にもかかわらず、健康保険を利用して治療を受けた場合、労災保険に切り替えるための方法についても説明していきます。

労災の場合、健康保険を利用することはできません。したがって、健康保険を使ってしまったら申出をする必要があります。

健康保険で医療費の一部を支払っている場合は、 いったん医療費全額を支払った上で、 労災保険に請求することができます。

加入している健康保険組合又は協会けんぽへ労働災害であったことを報告し、医療費返納の通知と納付書が届いたら金融機関で納入してください。

その後、療養(補償)等給付たる療養の費用請求書(業務災害であれば様式第7号(1)、通勤災害であれば様式16号の5(1)) に所定事項を記載した上、事業主と診療した担当医師の証明を受け、 返納金の領収書と病院の窓口に支払った窓口一部負担金の領収書を添えて、 事業場の所轄の労働基準監督署へ提出して下さい。

 なお、 健康保険から給付された医療費の返納が難しい場合、請求人に多大な経済的負担が生じることも少なくないことから、健康保険に対する返納が完了する前であっても労災保険へ請求できます。

 その他、労災認定された傷病等に関し、一時的に医療費の全額を自己負担するのが困難な場合の手続についても用意されています。

療養給付以外で労災保険で受けることができる主な給付の種類

労災保険で受けることができる主な給付の種類としては以下のものがありますので、ご説明します。

休業(補償)給付

労働災害によって仕事を休んだときには、給付基礎日額の60%相当に相当する金額の支給を受けることができます。加えて、社会復帰促進等事業として、給付基礎日額の20%が「特別支給金」として支給されます。したがって、休業期間中であっても、合計給付基礎日額の80%の収入が補償されることになるのです。

なお、給付基礎日額とは、原則として、労働災害が発生した日以前の3か月の賃金(ボーナスや臨時に支払われた賃金を除く)の総額を、その期間の総日数で除した金額となります。複数の事業場で働いている労働者の給付起訴日額については、原則として複数就業先に係る給付起訴日額に相当する額を合算した額となります。

療養(補償)給付

療養(補償)給付とは、労働者が労働災害により病気やケガをしたときに、病院で治療費などを負担することなく治療を受けられる給付です。療養(補償)給付には、治療費、入院費用、看護料など、療養のために通常必要なものは、基本的にすべて含まれます。

障害(補償)給付

障害(補償)給付とは、障害(補償)年金や障害(補償)一時金等からなる給付です。障害(補償)給付は、労災によって病気やケガが治癒の状態に至ったのちにも障害が残ったときに、その障害等級に応じて年金または一時金の支給が受けられる給付のことをいいます。障害等級が1級から7級のときは年金が支給され、8級から14級のときには一時金が支給されます。

遺族(補償)給付

遺族(補償)給付は、遺族(補償)年金や遺族(補償)一時金等からなる給付金です。労災によって労働者が亡くなったときには、労働者の死亡当時に労働者の収入で生計を維持していた遺族に対して、遺族(補償)年金が支給されます。また、もし遺族(補償)年金の対象となる遺族がいないときには、一定の範囲の遺族に遺族(補償)一時金が支給されることになります。

傷病(補償)給付

労災により病気やケガをして、療養開始後1年6か月を経過しても病気やケガが治癒しない場合には、傷病等級に応じた傷病(補償)年金等が支給されます。

休業給付を受けている方が、1年6か月を経過した時点で、傷病等級第1級から3級に該当するという場合には、休業(補償)給付から傷病(補償)年金に切り替わります。

会社への損害賠償もご検討ください

労災に該当した場合、労災保険以外に受け取れるものはないの?

労災保険以外に受け取れる可能性があるもの 

上記の通り、労災保険から、治療費や休業損害に相当する給付を受け取ることができます。

しかし、それがすべてではありません。

会社は従業員の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っていることから、労災給付で不足する場合は、この安全配慮義務違反に基づき、賠償を請求する余地があります。

労災給付で不足する典型例は休業損害ですが、その他には、慰謝料が挙げられます。

慰謝料とは

慰謝料という言葉は、テレビを始め日常で非常に頻繁に見られる言葉と思われます。

最も頻繁に使われる場面は離婚の慰謝料では無いかと思いますが、労災に会ってしまった場合も、慰謝料を請求することができます。

慰謝料とは、不法行為や安全配慮義務違反を行った者が、不法行為や安全配慮義務違反により被害を被った相手方に、その被害における精神的苦痛を慰藉するための金銭として支払うべき金員を言います。

労災事故に遭遇した場合、労災申請の他に会社に対し、上記慰謝料等損害賠償請求を行える場合があります。
具体的には、会社に過失(安全配慮義務違反)があった場合、つまり、会社がするべきことをしていなかったと証明できれば、会社の責任を問うことができます

※安全配慮義務とは、雇用関係に基づいて使用者が労働者に対して負う義務の一つです。 労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務、と定義されています。

安全配慮義務を一人で追求するのは難しいです。労働審判や裁判も視野に入れて動く必要があります。

最後に見ていただきたい労災サポートのこと

ぜひ、上で解説したような、労災申請をしていただきたいのですが、わからない場合は弁護士にご相談ください。

どれだけ調べてみても、実際に申請するとなるとやはり不安が残ってしまいますよね。

私たちとしても、1人でも多くの給付を受け取る権利がある方に給付を受け取っていただき、みなさまの未来への不安解消と前を向くきっかけづくりをお手伝いさせていただきたいと思っております。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀

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