
遺言者が話す内容をビデオで録画したり、録音したりしても、それらは法的に有効な遺言にはなりません。本稿では、高齢や病気、事故などで手書きが困難な人が有効な遺言を作成する方法と合わせて弁護士が解説します。
遺言をビデオで残したいが・・・
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■高齢で手が震えるので、文字が上手く書けない
■病気や事故で自筆が難しい
■何となく書くのは億劫
理由は様々ですが、「手書きではなく、自分の希望する内容を口頭で発話し、それをビデオや録音に残すことで遺言書にできないか」と考える方もいらっしゃると思います。
最近では、エンディングノートからさらに一歩進んで、葬儀社などで遺言ビデオメッセージといった動画撮影サービスを提供しているところも増えています。
確かに、ビデオなら、録画した時の遺言者の表情や声の調子、身振り手振りなどもよく分かりますので、遺言者の真意が相続人に伝わりやすいという利点がありますし、何よりも、「いちいち手書きするより簡単」です。
しかしながら、ビデオで残した遺言は法的に有効と言えるのでしょうか?
ビデオで残した遺言は有効なのか?
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遺言の方式には、
■自筆証書遺言
■公正証書遺言
■秘密証書遺言
の3種類があり、さらに特別な方式として危急時遺言などがあります。
ところが、ビデオで残した遺言は、上記のいずれにも当てはまりません。
つまり、ビデオで残した遺言は、残念ながら、法的には無効となります。
これは、ボイスレコーダーなどを使用した録音でも同様です。
第三者を一切介在させずに、自分だけで遺言を作成しようと考えた場合、自筆証書遺言を選択することになります。
しかし、この自筆証書遺言は、添付する財産目録だけが自筆によることを要しない(=パソコンなどで作成してOK)とされているだけで、あとの本文、日付、氏名は手書きで自書しなければなりません。
このため、自筆証書遺言を作るつもりで、喋った内容をスマートフォンで録画・録音しても、有効な遺言にはならないのです。
手書きが難しい人はどうすればよいの?
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それでは、高齢や病気、事故などが原因で手書きが難しい人はどうすればよいのでしょうか。
単独で文字を書くことが困難な人が、それでも何とかして自筆証書遺言を作成しようとして、家族に代筆してもらったり、添え手をしてもらったりすると、遺言は原則として無効となってしまいます。
このような場合、最も安心なのは、公正証書遺言を作成することです。
なぜなら、公正証書遺言の場合、遺言者が話した内容を公証人が文章にまとめてくれるので、遺言者自身が手書きする必要はないからです。
もちろん、公正証書遺言を作るとなれば、第三者(公証人や2名の証人)が関わることになりますし、手数料もかかります。
しかし、それらを嫌って無理に自筆証書遺言を作成したとして、それが無効になってしまうリスクを考えれば、たとえ手間や費用はかかっても公正証書遺言の方が安心です。
なお、入院や寝たきりで公証役場まで出向くのが困難という場合は、公証人に、病院や施設まで来てもらって、その場で公正証書遺言を作成することも可能です(別途、出張日当がかかります)。
視覚障害のある人はどうすればよいの?
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例えば、全盲の方が使い慣れた点字で遺言を作成したとしても、手書きによる自書という自筆証書遺言の要件を満たしませんので、法的には無効となってしまいます。
そこで、この場合も公正証書遺言を作成することが有効です。
公正証書遺言であれば、遺言者が話した内容を公証人が文章にまとめてくれるので、遺言者自身が手書きする必要はありません。
従って、視覚障害のある人で手書きが難しい場合にも、法的に有効な遺言が作れます。
ビデオで遺言を残しても全くの無駄なのか?
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先に述べたとおり、遺言者が口頭で話しているところをビデオで録画したり、あるいは録音したりしても、遺言として有効にはなりません。
しかしながら、そのような録画・録音のデータが、全く役に立たないかというとそうではありません。
ビデオなら、録画した時の遺言者の表情や声の調子、身振り手振りなどもよく分かります。
このため、その内容が遺言者の真意であることが相続人に伝わりやすいですし、「誰かの言いなりになって書かされたのではないこと」や「誰かに偽造されたものではないこと」を証明する証拠にもなります。
また、認知症を患っていた人が遺言を作成した場合には、一部の相続人から「遺言作成当時、すでに判断能力(正確には、遺言を作成する能力)が失われていたのだから、無効だ」という主張がなされることが往々にしてあります。
このような時も、もしビデオが残っていれば、その映像や音声を確認することで、遺言作成当時に判断能力(正確には、遺言を作成する能力)が保たれていたことを証明できるかもしれません。
このように、ビデオで遺言を残しても、それは法的に有効な遺言とはなり得ないものの、いわゆる「争続」を避けるための一助となります。
その意味で、全くの無駄というわけではないのです。
有効な遺言を残すために
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これまで見てきたとおり、ビデオや録音で遺言を残しても法的には無効です。
民間事業者のサービスを利用する際にも、このことをよく理解したうえで、「争続」を避けるための一助として上手に利用して下さい。
せっかく苦労して遺言を作成したのに、方式が間違っていたばかりに無効となってしまっては、遺言者の遺志が実現できません。
法的に有効な遺言を作成し、確実に遺志を実現できるようにするためにも、遺言作成をお考えの方は、是非、相続問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。