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近年共働きの夫婦が増えてきたとはいえ、現在も様々な事情から主婦・主夫として婚姻生活を過ごされる方もいると思います。主婦・主夫が配偶者との離婚を考えるときに、どのようなことに注意をすればよいのか、解説していきます。
専業主婦・主夫が離婚するときのポイント
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通常の離婚において決めるべき事項としては、
・離婚するか否か
・(未成年の子がいる場合)親権者となる者の決定
・(未成熟子がいる場合)養育費
・財産分与
・慰謝料
・年金分割
が挙げられることが多いと思われます。
主婦・主夫が当事者となる離婚とそうでない離婚での異なる点
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夫婦のうちいずれかが主婦・主夫だからといって、離婚に当たり決めるべき点が変わるわけではありません。ただ、主婦・主夫が離婚をするという場合は、今後の子の生活に大きく関わる親権や養育費について争いになるということが多く、また主婦・主夫自身では収入を得ていないのですから、財産分与・年金分割の請求ができるのか、という点はより大きな問題となるでしょう。
そこで、今回は主婦・主夫の離婚に当たっての親権・養育費・財産分与・年金分割について、詳しく見ていくことにしましょう。
親権について
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親権とは、子どもを監護・教育をする権利、子どもの居住地を決める権利、子どもの財産を管理する権利、子どもの法律行為を代理する権利等をいいます。
裁判所による判断基準
もし協議離婚で親権につき争いが生じた場合、調停あるいは訴訟で親権について話し合い、あるいは裁判官により判断することになります。
裁判所における親権者の判断基準としては、大まかにいって、
・母性優先の原則
・監護実績の尊重
・子の意思の尊重(※15歳以上の子については、その意見を聞かなければならないとされています)
・面会交流の許容性
・きょうだいの不分離
・監護能力(健康状態、生活状況、監護を補助する者の有無・程度等)
・経済的能力(資産、収入、住居、教育環境 等)
といった要素が挙げられることがあります。
このうち、「母性優先の原則」は近年あまり重視されていないと思われ、「監護実績の尊重」や「子の意思の尊重」、「監護能力」といった要素がより重視されているのではないかと考えられます。
主婦・主夫の場合、働いている配偶者よりも、子と一緒に過ごす時間が長いことが多く、離婚前の「主たる監護者」として監護実績があるというケースも多いと思われます。これに対して、「経済的能力」という要素は、収入を得ていない分、働いている配偶者に劣る、と言われてしまうかもしれません。
しかし、実際には、「主婦・主夫だから、経済的に頼れず、親権者になれない」と判断されるとは考えにくいと思われます。
なぜならば、今は主婦・主夫であって収入を得ていなくても、子がある程度大きくなっていれば自分自身で働くことも可能になるでしょうし、仮にその上で収入が配偶者よりも劣っていても、その分配偶者だった非親権者となる者から後に述べる「養育費」を貰えばよい、となるに過ぎないからです。
したがって、主婦・主夫であっても、親権を判断するに当たって不利ということにはならないというのが一般的かと思われます。
養育費について
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養育費とは、子どもが成長・自立するまでに要する必要な費用のことです。親権を得て、非親権者に対し養育費を請求する側のことを「権利者」、請求される側のことを「義務者」と呼んでいます。
父母双方の収入状況、生活状況によって金額が決まり、裁判所も参考としている算定表を基準とすることが多いと思われます。
主婦・主夫の収入はどう評価される?
専業主婦・主夫の場合は、収入を得ていないので、算定表上権利者となったとすればその分義務者の支払うべき養育費は大きなものになります。
ただし、専業主婦・主夫でも、実際には子どもがある程度大きくなっており、パートなどで就労できるのではないかとして稼働能力を踏まえた算定となる場合もあります。
既に述べた通り、主婦・主夫だからといって親権者になれないわけではなく、主婦・主夫が親権者になればその分働いている非親権者から「養育費」を払ってもらえばよい、と考えられます。
財産分与について
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財産分与とは、夫婦が離婚したときに、夫婦が婚姻中に形成した財産を清算するため分与をすることをいいます。
その趣旨は、夫婦が婚姻中に築いた共有財産を清算分配すると共に、離婚後の配偶者の生活の維持に資することにあるとされています。これを受けて、財産分与の内容には「清算的要素」及び「扶養的要素」があります。
ただ、単に「財産分与」といった場合には、このうちの「清算的要素」を指していることがほとんどですので、このコラムの中ではこの要素の意味での財産分与について扱うことにします。
主婦・主夫が離婚するときの財産分与の重要性について
上記のとおり、財産分与は夫婦の財産を清算することが中心の作業です。
主婦・主夫は、収入を得ていないのですから、「清算」といっても、清算をしてもらえるような財産を築けるはずもなく、分与は認められないとも考えられます。
しかし、財産分与というのは、夫婦間の公平を重視するため、実際に働いて収入を得、預貯金等を築いていない主婦・主夫でも、家事や育児をしてその分働いている配偶者を支えていたということであれば、その点を財産形成の寄与と考えることが可能です。
したがって、主婦・主夫であっても財産分与を求めることは当然可能ですし、その場合の分与の割合も、原則的には5:5であると考えられています。
年金分割について
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年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金や共済年金部分を分けることです。
主婦・主夫が年金分割を求める意味
主婦・主夫は、自身では厚生年金や共済年金を納めていません。
しかし、財産分与と同じように、配偶者の厚生年金・共済年金の納付実績を原則、婚姻期間中の分につき2分の1ずつ分けるということが可能になります。
注意点としては、配偶者が自営業者等で、国民年金しか納めていない場合は年金分割できません。
国民年金しか払っていないという夫婦であれば別として、収入を得ておらず、貯蓄や退職金もない主婦・主夫は、自身に収入がないからこそ、配偶者から年金分割をしてもらい、老後の年金をもらうということが非常に重要だといえるのです。
年金分割は、「しなければならない」というものではないので、配偶者と年金分割について決めずに離婚をしている主婦・主夫の方もいるかもしれませんが、年金分割には、「合意分割」という話し合いや調停・審判を通じて、分割の割合を決める方法と、「3号分割」という当事者間の合意がなくても、一律2分の1ずつで分割する制度があります。
配偶者と話し合い、年金分割について合意をするのは難しそうだ、という主婦・主夫の方でも、ひとまず3号分割をしておく、ということで最低限の年金を得ることは可能かもしれません。3号分割は対象となる記録が平成20年4月1日以後の国民年金第3号被保険者期間中の記録に限られますが、まだ離婚をした日の翌日から起算して2年を経過していない場合は、必ず手続をするようにしましょう。
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