腕神経叢損傷(腕があがらない等)の後遺障害等級と保険金について弁護士が解説します

交通事故は、車やバイク、自転車等、多様なケースがあります。特にバイクと自転車の事故では、当事務所に、交通事故被害で依頼・相談される方の中、「腕神経叢損傷」を負ってしまったという方が多いように思います。

腕神経叢とは、脊髄神経から分岐し頭・首・上肢のうちに鎖骨・上腕・前腕・手へ繋がる神経叢の名称のことです。

バイクや自転車の事故で転倒をすると、腕神経叢が損傷することがあり、機能障害・麻痺・しびら等の症状がでて、後遺障害が残ることが多いようです。そこで、この記事では、腕神経叢損傷(腕があがらない等)の後遺障害等級と保険金について弁護士が解説します。

腕神経叢損傷とは?

腕神経叢損傷とは?

腕神経叢(わんしんけいそう)とは、首から肩にかけて存在する神経の束で、腕や手の運動や感覚を司る重要な役割を担っています。交通事故などでこの神経が損傷すると、腕や指が動かなくなる、しびれが残るなどの症状が発生します。

腕神経叢損傷の症状としては、日本整形外科学会の説明(ホームページより)が参考となります。

引用
オートバイ走行中の転倒、スキーなど高速滑走のスポーツでの転倒、機械に腕が巻き込まれた後などで、上肢のしびれ、肩の挙上や肘の屈曲ができなくなったり、時には手指も全く動かなくなったりします。
骨盤位分娩や肩難産で生まれた乳児が肩の挙上や肘の屈曲をしません。
いずれの場合も、腕神経叢のどの部位が、どの程度損傷されるかにより、それぞれの損傷高位に応じた運動麻痺、感覚障害や自律神経障害があらわれます。肩の挙上と肘屈曲ができないものから肩から上肢全体が全く動かないもの、外傷後徐々に軽快するものから全く回復しないものまで、いろいろあります。

腕神経叢損傷の原因

腕神経叢損傷の原因

原因としては、例えばオートバイの転倒事故やスキーなど高速滑走のスポーツでの転倒で、肩と側頭部で着地した際、また、機械に腕を巻き込まれて腕が引き抜かれるような外力が働くと、神経の束が引き伸ばされて損傷してしまいます。神経根が脊髄から引き抜けてしまうことを、「引き抜き損傷」と言います。

バイクや自転車の転倒事故で特に多いのが、この引き抜き損傷です。腕神経叢損傷は、以下のような原因で発生します。

「主な原因」
・交通事故(特にバイク事故や高エネルギー外傷)
・転倒や強い衝撃
・スポーツ外傷(コンタクトスポーツなど)
・労働災害(工場や建設現場での重機による事故)

腕神経叢損傷の症状

腕神経叢損傷の症状

損傷の程度によって症状は異なりますが、主に以下のような症状が見られます。

・腕や指が動かない、または力が入らない
・感覚の麻痺や鈍さ
・持続的な痛みやしびれ
・筋萎縮(長期にわたる神経損傷による筋肉の衰え)

腕神経叢損傷の治療

・保存療法
・軽度の損傷であれば、安静、理学療法(リハビリテーション)、鎮痛薬の投与、神経ブロック療法(痛みの管理のため)といった保存療法で回復が見込まれる場合があります。
・外科的治療。重度の損傷の場合、神経縫合術、神経移植術、筋移行術、神経移行術(損傷した神経の代替として別の神経を移植)などの外科的治療が必要になることがあります。

腕神経叢損傷で認定されうる後遺障害等級

腕神経叢損傷で認定されうる後遺障害等級

バイクの事故や自転車の事故で転倒し、腕の神経を損傷したという相談が多いです。

例えば、バイクで交通事故に遭って、「右手の腕が全く上がらなくなってしまった。医者には、神経が損傷(断裂)していると言われた」という場合は、後遺障害等級8級6号が想定されます。

可能性のある等級

5級6号:上肢の用を全廃したもの
※肩関節、ひじ関節、手関節のすべての関節が強直、指の全部の用を廃したもの。
※上腕神経叢の完全麻痺も含む。
6級6号:3大関節中の2関節の用を廃したもの
8級6号:3大関節中の1関節の用を廃したもの
10級10号:3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級6号:3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9:局部に神経症状を残すもの  

■用語説明

・「上肢」とは、肩関節から手関節までを言います(手指は除かれます)
・「上肢の3大関節」とは、肩関節、肘関節、手関節を言います。
・「全廃」とは、3大関節の全部が全く動かせないか、それに近い状態(可動域が健側の10以下)になっていることを言います。
・「用を廃した」とは、関節が全く動かせないか、それに近い状態に(可動域が健側の10以下)なっていることを言います。
・「著しい障害」とは、関節可動域が健側の1/2以下になっていることを言います。
・「障害」とは、関節可動域が健側の3/4以下になっていることを言います。

腕が動かない・曲がらない場合

腕が完全に動かせない場合、「上肢の用を全廃したもの」として、後遺障害等級5級が認定される可能性があります。

部分的な麻痺が残る場合は7級や9級、12級、14級になることもあります。

指が動かない・曲がらない場合

7級7号一手の五の手指又はおや指を含み四の手指の用を廃したもの
8級4号一手のおや指を含み三の手指の用を廃したもの又はおや指以外の四の手指の用を廃したもの
9級13号一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの
10級7号一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの
12級10号一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
13級6号一手のこ指の用を廃したもの
14級7号一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの

指の機能が失われると、8級や10級の後遺障害に認定されることがあります。

痛み・しびれが残る場合

持続的な痛みやしびれが残る場合、12級または14級が認定されることがあります。

腕神経叢損傷の主な賠償金の計算方法と相場

腕神経叢損傷の主な賠償金の計算方法と相場

交通事故折で、受け取れる賠償金には、以下のような項目の金銭があります。

・治療費:治療にかかった費用
・休業補償:仕事を休んだ場合に支払われる費用(主婦も含む)
・交通費:通院にかかった費用
・入院雑費:入院したときにかかる諸費用
・入通院慰謝料:通院や入院による精神的慰謝料
・後遺障害慰謝料:後遺症が残ったことに対する慰謝料
・逸失利益:事故に遭わなければ今後得られるはずだった収入の補償

これらを漏れなく計算して、その合計が、賠償金となります。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、通院日数や治療期間に基づき算出されます。基準には「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判基準」があり、裁判基準が最も高額になります。例えば、自賠責基準では1日あたり4,300円、裁判基準では1日あたり約8,000円~15,000円程度とされることが一般的です。

こちらで詳しく解説しています。

簡単にご説明しますと、慰謝料は、通称「赤い本」(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準・財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行)と言われる専門書に記載されている表が、基本的に基準として採用されています。

以下では、裁判基準の表を公開します。

表は、ⅠとⅡがありますが、原則として別表Ⅰを使います。

●表の見方
・入院のみの方は、「入院」欄の月に対応する金額(単位:万円)となります。
・通院のみの方は、「通院」欄の月に対応する金額となります。
・両方に該当する方は、「入院」欄にある入院期間と「通院」欄にある通院期間が交差する欄の金額となります。

(別表Ⅱの例)
①通院6か月のみ→89万円
②入院3ヶ月のみ→92万円
③通院6か月+入院3ヶ月→148万円

休業損害

休業損害は、事故によって仕事を休まざるを得なくなった場合の収入減少を補償するものです。給与所得者の場合、「事故前の収入×休業日数」で算定されます。自営業者の場合、確定申告の収入額や帳簿の記録をもとに計算されます。また、主婦(主夫)についても、家事労働の経済的価値を考慮して賠償の対象となる場合があります。

後遺障害慰謝料

後遺障害等級に応じて、慰謝料が算定されます。例えば、以下の通りです。

5級:約1,400万円
7級:約1,000万円
9級:約690万円

以下の表で、すべて

後遺障害等級 裁判基準 労働能力喪失率
第1級 2,800万円 100/100
第2級 2,370万円 100/100
第3級 1,990万円 100/100
第4級 1,670万円 92/100
第5級 1,400万円 79/100
第6級 1,180万円 67/100
第7級 1,000万円 56/100
第8級 830万円 45/100
第9級 690万円 35/100
第10級 550万円 27/100
第11級 420万円 20/100
第12級 290万円 14/100
第13級 180万円 9/100
第14級 110万円 5/100

逸失利益

逸失利益は、後遺障害が残ったことによって将来の収入が減る場合の損害を補償するものです。

計算式は以下の通りです。

1年の基礎収入 × 労働能力喪失率 × 就労可能年数に応じたライプニッツ係数

こちらで詳しく解説しています。

交通事故を弁護士に依頼するメリット

交通事故を弁護士に依頼するメリット

後遺障害が残ると保険金額が大きくなるので保険会社と争いになることがほとんどです。

特に、慰謝料や逸失利益は金額が大きくなります。

弁護士に依頼するのとしないのでは、数十万~事案によって数千万円の違いがでる可能性もあります(実際に当事務所でありました)。

弁護士に依頼をすることによって、保険会社との交渉や手続、裁判を代理で行うことができます。

また、弁護士特約に加入されている場合は、弁護士費用が原則として300万円まで保険ででます。

こうした事がメリットになります。

弁護士特約に加入している場合は、法律相談費用もでますので、まずは相談ください。

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ご相談 ご質問

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弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

交通事故においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。

入院中でお悩みの方や、被害者のご家族の方に適切なアドバイスもできるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀

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