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本ページは、退職した社員が競業他社に入社し営業したことにより企業の利益が下がってしまうことのリスク管理として、就業規則に競業避止義務に関する条項を組み込もうとする企業向けのページとなっております。
競業避止義務の基本知識
退職後の競業避止義務については、従業員の職業選択の事由を制限するものであり、特に、本来、当該従業員が新しい職業に就くうえで武器となる経験スキルを活用することを困難にするものであるため、競業避止義務の有効性の判断に際しては慎重になされるべきと考えられています。
具体的には、
①競業禁止を必要とする使用者の正当な利益の有無
②競業避止の範囲が合理的範囲にとどまっているか否か
③代表措置の有無
等を総合的に考慮して、競業避止義務規定の合理性が認められない場合、当該競業避止義務は公序良俗に反し無効になると考えられます。
就業規則上に規定された競業避止義務は有効か?
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裁判例を見ますと、就業規則上の競業避止義務条項については、直ちに無効であるとされるわけではなく、競業避止義務合意の有効性に関する一般論に照らし、当該条項の内容と、問題となっている競業避止義務違反の態様に照らして判断されております。
そこで、いくつか裁判例をご紹介いたします。
1 肯定例【大阪地裁 平成21年10月23日付判決】
裁判所は、本件会社にはその技術やノウハウについて、会社独自のものとして維持すべく退職後の秘密保持義務を定める必要があること、また技術やノウハウは無形の存在でありその秘密の流出が必ずしも容易に認識できるものではないことから、秘密保持に実効性をもたせるべく退職後の競業避止義務を就業規則に定める必要性があることを認めました。
その上で、退職後の競業避止義務は、必ずしも使用者と従業員との個別の合意によってしか定められないものではなく、就業規則によって定めることも許されると判断しております。
その理由として、一定の限度では企業の正当な利益を守るために使用者が従業員にかかる義務を課すことが避けられないし、かかる義務について、個別の合意を経ずに企業秩序の維持のために画一的に義務を貸す必要性を否定しがたいからであると判断し、就業規則上に規定された競業避止義務は有効であると判断しました。
2 否定例【東京地裁 平成24年3月13日判決】
就業規則の競業避止義務条項が有効と認められるためには、使用者が確保しようとする利益に照らして、競業禁止の内容が必要最小限にとどまっており、かつ十分な代償措置が施されていることが必要であり、そのような条件が満たされない場合には、就業規則上の条項は公序良俗違反により無効になる。
その上で、原告会社での業務遂行過程において、そもそも競業を禁ずべき前提条件を欠き、また、何らの代償措置を講じないとして、就業規則上の競業避止義務は無効であると判断しております。
退職時の誓約書上に定められた競業避止義務は有効か?
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参考裁判例として、【東京地裁 平成19年4月24日判決】をご紹介いたします。
本件において、退職時の誓約書には「退職後、最低一年間は同業種、競合する個人・企業・団体への転職は絶対にしません」とする競業避止義務条項について、裁判所は競業避止義務に関する一般論を述べた上で、本件では、原告会社の店舗における販売方法や人事管理の在り方を熟知し、その全社的な営業方針、経営戦略等を知ることが出来た当該従業員が、退職後ただちに競争会社に転職した場合には、その会社が利益を得る反面、原告会社が相対的に不利益を受けることを容易に予想されるから、これを未然に防ぐことを目的として、被告のような地位にあった社員に対して、競業避止義務を課すことは不合理でないと解されるとして、競業避止義務の有効性を認めております。
まとめ
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以上、退職後に競業他社に就職してはならないという就業規則及び誓約書の有効性について解説いたしました。
従業員に対して一律に競業避止義務を課すのは、職業選択の自由を過度に制限することになり、公序良俗に反してしまいます。
就業規則や退職時の誓約書に競業避止義務を組み込むことについてお悩みの企業様がいましたら一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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