従業員を解雇した場合、ユニオン(合同労組)が解雇撤回を求めて団体交渉を申し入れてくることがあります(解雇に限りませんが、一番多いのが解雇です)。このような場合、会社としてどのように対処したらよいのかをまとめてみました。

一 ユニオン(合同労組)とは

   ユニオンとは、一定の地域を活動の対象としており、何か問題が起きたときに、労働者が1人でも加入できる労働組合のことを言います。加盟するナショナル・センター(労働組合の全国中央組織のことで、日本労働組合総連合会などがあります)の有無や運動方針、組織形態によって様々です。

二 ユニオンの特徴

一般的に言って、次のようなことが言えると思います。

 ① 人、資金に余裕がないところが多い。

 ② 組合員に対する組合の温度差も様々。熱心に動くところもあれば、そうでないところもある。

 ③ 組合員の意見を尊重しますが、組合員の意見と組合の意見が反することもあり、組合員が別の組合に加入することもある。

三 団体交渉には応じなければならないか。

 1 団体交渉に応じなければならないか。

ユニオンを含む労働組合から団体交渉の申しれがあったときは、会社は正当な理由がない限り、これを拒むことができません。

   正当な理由なく団体交渉の申し入れを拒否した場合、ユニオンは地方労働委員会への救済を求めることができ、正当な理由がないと地方労働委員会が判断した場合、同委員会は団体交渉をするよう命じるともに、さらに会社が団体交渉を拒む場合、罰金など科されるとともに、不法行為を原因とする民事上の損害賠償請求を受けることもあります。

 2 団体交渉の議題となり得る事項

   ユニオンから会社に対して団体交渉を求めることができるのは、「組合員である労働者の労働条件やその他の待遇、団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」とされています。例えば、組合員である労働者の賃金、労働時間、休日、労働安全衛生、配置転換、懲戒、労働者の労働条件や待遇などです。

これに対し、会社の事業計画・経営方針、新規事業の立ち上げ、事業撤退、設備投資の決定、株主への配当、会社の財務戦略、昇進・昇格などは、団交交渉事項には入りません。したがって、これらの事項については団体交渉を拒む正当な理由があることになります。

四 団体交渉では妥結をしなければならないか。

  交渉をする義務はあっても、妥結をする義務はありません。したがって、交渉が平行線になり、何の成果が出なくても問題はありません。

五 ユニオンの交渉パターン

  会社にストレスをかけ、会社担当者の楽になりたいという気持ちを利用して譲歩を引き出すというのが基本的な交渉パターンのように思います。

  ストレスのかけ方として、次のようなものが考えられます。

 ① なぜ組合の要求に応じることができないのか理由を示せ、資料を示せと言って、ストレスをかける。理由を整理したり、資料をまとめたりするのは時間がかかりますから、これもストレスになります。

 ② 大声を出したり、なぜそんなことを知らないだというような態度を示して、ストレスをかける。

 ③ 取引先、銀行に面会を求め、会社の組合の要求に応じないということを言って回ったり、会社や社長の自宅近くで、ビラをまいてストレスをかける。

六 ユニオンと組合員

  ユニオンの基本的スタンスは、組合員の要望を尊重するということです。ただ、本音では、ユニオンも時間・費用がかかることはやらず、早く解決したいという気持ちはあります。例えば、ビラまき、銀行・取引先への要請行動、不当労働行為救済申立はできるだけやりたくないでしょうし、団体交渉も、本当に必要があれば別ですが、できれば月1回にしたいというのが本音と思います。

  ビラまき、銀行・取引先への要請行動があった場合、これに困ってすぐに妥協したのでは、効果があると思われて、繰り返される可能性があります。これらの行動があった場合でも、すぐに妥協しないことが大事です。

七 団体交渉申し入れの書面が来たらどうするか。

 1 団体交渉の申入れ

団体交渉の申入れは、多くの場合、ユニオンからファックスでいきなり会社に来ます。会社は、拒否する正当な理由がない限り、団体交渉に応じなければなりません。

  また、団体交渉を行うことによって、そこで解決策が得られるかもしれないのですから、無視したり、適当にあしらうということではなく、会社内で、あるいは会社と弁護士が、事前に打合せをして理論武装し、資料も出すもの出さないものを決め、できるだけ予行演習をして、誠実に対応することが必要です。

 2 協議事項のチェック

   団体交渉には、正当な理由がない限り応じなければなりませんが、すでに述べたように、「組合員である労働者の労働条件やその他の待遇、団体的労使関係の運営に関する事項」でなければ応じる必要はありません。

   ユニオンからファックスで送られてきた協議事項をよくチェックし、上記に当たらないと考えれば、ファックスでその旨を伝え、団体交渉には応じない、あるいはその協議事項には応じないと返事をすることになります。ファックスに書いてある協議事項の意味が分からなければ、意味をユニオンに尋ねることになります。

 3 ユニオンが日時・場所を指定してきたらどうするか。

   ユニオンの指定に応じる必要はありません。

   時間については、こちらの都合のよい日時をいくつか組合に提案します。なお、ユニオンの組合員になっている労働者の就業時間は避けてください。就業時間何に団体交渉を行うと、団体交渉をしている時間中も、組合員である労働者に給料を払うことになってしまいます。

   場所については、組合事務所、会社内は避けてください。時間の制約がある、会社(弁護士に依頼するときは弁護士事務所)の近くの貸し会議室にします。また、団体交渉は、通常は2時間あれば十分なので2時間借りることになります。

 4 貸し会議室の料金はどちらが負担するか。

   貸し会議室の料金はユニオンにも負担してもらって当然なので、会社、ユニオンで、折半で負担します。

 5 オンラインの団体交渉

   最近はコロナも下火になりましたが、コロナを理由として、ユニオンがオンラインでの団体交渉を求めてくることがあります。しかし、これに応じると、組合の団体交渉の場所への往復の時間の節約になり、(組合員が要求するときは)より頻繁に団体交渉を求めてくる可能性がありますから、お互いに顔を合わせて、会議室で行うのがよいと思います。

 6 会社からは誰が出席するのか。

 社長が出席する必要はありません。社長がストレスに負けて即決してしまっても困るので、団体交渉の議題を説明できる役員、部長などが出席すればよいと思います。

   なお、弁護士がいても、本来は、主として交渉するのは会社担当者になり、弁護士は法的な見地から意見を述べることになります。ただ、会社担当者が慣れてない場合も多いので、事前打合せをきちんとやったうえで、弁護士が主として交渉し、ただ、細かいところまでは分からないので、細かいところを会社担当者にしゃべってもらうということも多いと思います。

   

会社から出る人がおらず、弁護士だけが出席するというのは、それ自体、組合から付け込まれることになりますし、弁護士も細かいところまでは分からないので、このような事態は避けた方がよいです。また、弁護士だけが出席するということでは、依頼を受けない弁護士も多いと思います。

 7 ユニオンからは誰が出席するのか。

   団体交渉にくるのは、通常は組合役員1〜2と本人(労働者)です。上部団体の役員が出席することもありますが、拒否はできないので出席を認めることになります。

   大きな事件になると、組合役員が5名以上くることもあります。

   会場の都合もありますし、こちらの心づもりもありますから、ユニオンから来る人数は、団体交渉を開く前に確認しておいた方がよいと思います。  

ただ、大人数だと収拾がつかなくなることがありますから、ユニオンから来る人数は、多くても4〜5名にしてもらった方がよいですが、ほとんどの場合は、来るのは1〜2名程度です。また、本人は来ないこともあります。

 8 ユニオンが大声を出すときはどうするか。

   冷静に話すよう言って下さい。それで大声を出し続けるときは、当日の団体交渉は終了としてよいと思います。

 9 録音をしてもよいか。

   ユニオンの了解なしに録音してもよいですが、通常は、録音する旨を言えばユニオンは拒否しません。反対に、ユニオンから録音させて欲しいと言ってくることもあります。

 10 何回やればいいのか。

   回数のきまりはありません。話し合いが成立する、あるいいはユニオンから次の団体交渉の日の連絡が来なくなるまで行ないます。

   話し合いが膠着状態になったからとして、こちらから団体交渉を打ち切ると、それを口実として不当労働行為だと言ってきます。膠着状態が続いていくだけなのですが、ユニオンの要求があるなら団体交渉につきあうという覚悟が必要です。  

だた、組合員も、組合費の負担がたいへんだし(月数千円程度)、会場費を負担させられるかもしれず、また、ユニオンも成果が出ないまま、団体交渉の数だけ重ねていたのでは、組合員との関係が悪くなりますから、実際上、いつまでも団体交渉が続くということは少ないと思います。

 11 その日の会議の内容をまとめたのでサインしてほしいと言われたら。

   このような場合、会社に持ち帰って検討するといい、その場ではサインをしない方がよいです。

ユニオンは、今日の話し合いの内容をまとめただけだからサインしてくれというかもしれませんが、よく検討しないとサインできないと言って断ってください。ざっと見て、その日の協議したことが書いてあるようでも、簡単にサインをしてしまうと、会社と組合との労働協約になることあり、撤回することができなくなることがあります。

 12 賃上げ、ボーナス要求の場合、どの程度の資料を出すべきか。

   会社の経営状況、賃金・ボーナスの支払い状況などが分かる資料を作成して出せばよく、決算書そのものを出す必要はありません。出した資料は、ほかに流れる可能性があることを考慮する必要があります。損益計算書も、そのものを出さなくてよいですし、まして貸借対照表は出す必要はありません。

   ユニオンから要求がある資料は、団体交渉におけるその書類の必要性、出した場合の会社の不利益などを考えて、出すかどうかを決めることになります。

 13 軽率な言動

 「前向きに検討する」など、ストレスに負けて、その場を早く終わらせようとする言動は言わないことが大切です。検討結果が前向きでなかった場合、次回の団体交渉で、かえって組合に付け込まれることになります。

 14 組合員のみの待遇改善

 ユニオンの要求が厳しいからと言って、組合員の待遇だけをあげるのはもちろんだめです。組合員が増えるだけの結果になります。 

八 組合員の言動に問題がある場合

  組合員の言動に問題がある場合(業務命令を無視する、勤怠不良など)、就業規則を検討し、就業規則に基づいて懲戒をします。

  ただし、これまでの組合の言動について、詳細なメモ、あるいは現場から管理者への報告書、目撃者の報告書などの証拠をそろえておく、懲戒対象の組合員の言い分を聞く機会を設けるなどします。

  懲戒撤回を求めて組合が団体交渉の要求をしてくるかもしれませんが、その時は、(組合が納得するはずはありませんが)就業規則のどの条文に基づき、どのような行為があったから懲戒するのかを説明できるようにしておきます。

  団体交渉が怖いから懲戒しないというのでは、組合員が図に乗り、職場の雰囲気が悪くなりますし、組合に参加する従業員も多くなります。

  懲戒処分を争っても勝ち目がないと組合が判断すれば、組合が組合員を説得し、団体交渉も次回からは申し入れてこなくなります。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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