アスベストによる被害を受けた場合、国や自治体からいくつかの補償を受けることができます。

被害者の方の置かれている状況によってどのような補償を受けられるかが変わってきます。

このコラムでは、アスベスト被害の補償ついて詳しく解説します。

1 アスベストについて

アスベスト(石綿)は、天然の鉱物繊維で、「せきめん」や「いしわた」とも呼ばれています。

アスベスト(石綿)は、熱や摩擦、酸やアルカリにも強くて丈夫なため、かつては、ビルなどの保湿断熱やスレート材、ブレーキライニング、ブレーキパッド、防音材、断熱材、保温剤など様々な場所で使われていました。特に、1970年から90年にかけては年間30万トンもの大量の石綿が輸入され、その8割が建材に使用されたと言われています。現在では、石綿に中皮腫や肺がんなどの発がん性があることから、原則として石綿の製造・使用は禁止されています。

もっとも、アスベスト(石綿)関連疾患は、アスベスト(石綿)にばく露してから発症までの潜伏期間が場合によっては数十年等の長期間に及ぶことが多く、現在まさにアスベストによる疾病で苦しんでおられる方もたくさんいらっしゃいます。

このようなアスベスト(石綿)健康被害に対する補償等としては、以下のものがあります。

2 労災保険による給付

仕事が原因で石綿の健康被害が生じた場合は、「労働者災害補償保険制度(労災保険制度)」による補償(いわゆる「労災給付」)を受けることができます。労災保険は、仕事が原因となって生じた負傷や疾病、障害、死亡を被った労働者やその遺族に対して保険給付がされる制度です。

現在、雇用されているかたや過去に雇用されていたかたが、石綿にさらされる業務に従事していたことが原因で、肺がんや中皮腫などの石綿との関連が認められた病気を発症し、療養や休業、あるいは死亡した場合には、労災保険によって、次のような給付を受けられます。なお、労災保険の給付を受けるには、その病気が、仕事が原因で発症したものであると、労働基準監督署長から認定を受けることが必要です。

労災保険による給付

療養補償給付療養の給付(無償で治療を受けられること)又は医療機関で負担した医療費を支給
休業補償給付傷病の療養のため、労働することができず賃金を受けられないときの給付
傷病補償年金療養開始後1年6か月経っても傷病が治らず、障害の程度が障害等級(1級から3級)に該当するときに支給
障害補償給付傷病が治って身体障害が残ったときに、障害の程度に応じて年金(障害等級1級から7級)又は一時金(障害等級8級から14級)を支給
介護補償給付傷病年金又は障害年金の対象となる障害により、介護を受けている場合に支給
遺族補償給付
および葬祭料
労働者が死亡したときに支給

労災保険の給付を受ける権利は、一定の期間を過ぎると時効によって消滅し、労災保険の給付を受けられなくなります。例えば、療養補償給付は、療養の費用を支出した日の翌日から2年、遺族補償給付は、労働者が亡くなった日の翌日から5年で時効になります。

3 石綿健康被害救済制度

石綿にかかわる仕事をしていたかたの家族や、石綿製品の製造工場などの近隣に住んでいたかたなどで石綿に関連する病気を発症したかたは、労災保険の対象とはなりません。また、労災保険の対象となるかたでも、石綿の健康被害は長い潜伏期間を経て発症し、健康被害とその原因の特定が難しいため、労災保険の給付を受けずに本人が亡くなってしまったり、遺族のかたが時効によって労災保険の遺族補償給付を受ける権利がなくなってしまったりすることがありました。

そこで、労災保険の給付を受けられないかたに対し、迅速な救済を図るために、平成18年(2006年)3月に「石綿健康被害救済法」が施行され、「石綿健康被害救済制度」が創設されました。「石綿健康被害救済制度」には、労災保険の対象にならないかたのうち、中皮腫や肺がんなど指定疾病療養中のかたへの医療費や、その遺族への遺族給付を支給する「救済給付」、時効により労災保険の給付を受けられなくなった労働者の遺族に支給する「特別遺族給付金」の2種類の給付が設けられています。

4 救済給付

救済給付は、日本国内で石綿を吸い込むことによって、中皮腫や肺がんなどの「指定疾病」にかかり、現在療養しているかたの医療費や療養費、また、これらの疾病で亡くなったかたの遺族に葬祭料や弔慰金などを支給するものです。救済給付の内容は次のとおりです。

救済給付による給付

医療費医療費の自己負担分を支給
療養手当治療に伴う医療費以外の費用負担に対する給付(支給月額103,870円)
葬祭料指定疾患に認定された患者の葬祭に伴う費用負担に対する給付(199,000円)
救済給付調整金指定疾病に認定されたかたが亡くなるまでに給付を受けた医療費と療養手当の合計が特別遺族弔慰金の額に満たない場合に、認定患者の遺族に支給される給付
特別遺族弔慰金指定疾病が原因で亡くなったかたの遺族に対する給付(2,800,000円)
特別葬祭料指定疾病が原因で死亡した人の葬祭に伴う費用負担(199,000円)
指定疾病 (救済給付の対象となるアスベスト健康被害)
(1)中皮腫  (2)肺がん(気管支または悪性新生物)  (3)著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺  (4)著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

救済給付に関する手続きは、独立行政法人環境再生保全機構が行います。救済給付を受けるためには、同機構から、石綿が原因で発症した指定疾病にかかった患者であると認定を受ける必要があります。

5 特別遺族給付金 

特別遺族給付金は、石綿による健康被害を生じた労働者や特別加入者が、労災保険の給付を受けずに石綿による疾病で亡くなったとき、その遺族に対する救済措置として設けられた制度です。対象となるのは、石綿により疾病で亡くなった労働者の遺族で、時効により、労災保険の遺族補償給付の支給を受ける権利がなくなった方です。

特別遺族給付金

特別遺族年金原則、年額240万円を支給
特別遺族一時金1,200万円

6 石綿健康被害救済法の改正

石綿によって健康被害を受けた方々の救済を充実するため、令和4年(2022年)6月に石綿健康被害救済法が改正されました。これにより、「救済給付」のうち、遺族のかたに支給される「特別遺族弔慰金」と「特別葬祭料」、「特別遺族給付金」の請求期限がそれぞれ延長されるとともに、特別遺族給付金については、「令和8年(2026年)3月26日までに亡くなった労働者等の遺族」に支給対象が拡大されました。

救済給付
特別遺族弔慰金
特別葬祭料
中皮腫・石綿による肺がんにより亡くなった場合(請求期限) 平成18年(2006年)3月26日以前に亡くなったかた 令和14年(2032年)3月27日まで 平成18年(2006年)3月27日以降に未申請で亡くなったかた 死亡した翌日から25年以内。ただし、平成18年(2006年)3月27日から平成20年(2008年)11月30日までに未申請で亡くなったかたは、令和15年(2033年)12月1日まで
疾病が著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚により亡くなった場合(請求期限) 平成22年(2010年)6月30日以前に亡くなったかた 令和18年(2036年)7月1日まで 平成22年7月1日以降に未申請で亡くなったかた 死亡した日の翌日から25年以内
特別遺族給付金(請求期限) 令和14年(2032年)3月27日まで
(受給対象) 令和8年(2026年)3月26日までに亡くなった労働者の遺族

請求期限が延長され、支給対象が拡大されたことで、これまで「特別遺族弔慰金」と「特別葬祭料」、「特別遺族給付金」を受けていないかたも、給付を受けられる可能性があります。

石綿による疾病と診断された場合、これらの給付を受けるためには、主治医の診断書や石綿のばく露に関する申告書などを提出して申請し、石綿による疾病であることの認定を受ける必要があります。認定には時間がかかる場合がありますので、少しでも早く給付を受けるために、できるだけ早く申請手続きを行うことをお勧めします。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 権田 健一郎

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