
配偶者が他の人物とキスをしていたことが判明した場合、それ自体は衝撃的なことですが、キス=不倫という認識でよいのか、不倫と不貞行為は異なるのかといった点は疑問があるところです。
今回は、キスは不倫となるか、また、不倫と不貞行為は何が違うのかというテーマについて解説していきます。
「不倫」と「不貞行為」の違い

既婚者が不倫をすると配偶者と離婚をすることになったり慰謝料を支払うことになったりすると言われることがありますが、まず「不倫」という概念は法律上の概念ではありません。
法律上、明確な離婚原因や慰謝料発生原因となるのは配偶者に「不貞行為」があった場合とされており、ここでいう「不貞行為」は既婚者が他者と肉体関係を持つことを指します。
いわゆる「不倫」という言葉には「不貞行為」がある場合とない場合のいずれをも含むと考えられますので、「不倫」と「不貞行為」とを比較した場合、「不倫」の方が広い概念であると言えます。
キスは「不倫」になるのか?

何をもって「不倫」と評価するかについては明確な基準がなく、個々人の考えに依存するところが大きいものと思われます。
ただ、既婚者が他者とキスをする関係性にあればいわゆる「不倫」の状態にあると考える方が多数派かもしれません。
キスが「不倫」であるとして法的な責任を問えるか?

既婚者が他者とキスをしていたことがいわゆる「不倫」に該当するとして、肝心なのはそのことを原因としてキスをしていた配偶者または他者に慰謝料を請求することができるかという点です。
先に、法律上、明確な慰謝料発生原因とされているのは「不貞行為」があった場合であるということに触れましたが、「不貞行為」の定義にはキスは含まれていないため、キスをしたこと=「不貞行為」があるとして法的な責任を問うことは難しいということになります。
そうなると配偶者が他者とキスをしたことについて、配偶者または他者について一切法的な責任を問えないのかという疑問が生じますが、配偶者と他者の不適切な接触状況をもって平穏な夫婦生活を送る権利利益を侵害されたと評価して一定の金銭の支払いを命じる裁判例も存在するため、配偶者が他者とキスをしていた状況やその前後の行動によっては法的な責任が認められる場合があります。
裁判例における事実認定

不貞行為の存在は否定したものの配偶者と他者の不適切な接触状況をもって法的な責任を認めた裁判例の一部を紹介します。
結論として、以下の裁判例は慰謝料50万円の支払いを命じています。
「被告とAが肉体関係を持っていた事実の存否について検討すると,両者は,平成25年12月以降,二人で食事やカラオケに出かけ,また,休日に自動車に乗って外出し,その際に,腕を組んだり,手をつないだりして歩いていたのみならず,平成27年5月または6月ころに交際を終了するまでの間に,抱き合ったり,キスをしたりしたほか,Aが服の上から被告の体を覗き見し,または,服の上から被告の体を触ったこともあったのであるから,その交際は相当親密なものであったと考えられる。
しかし,Aと被告の双方が肉体関係を持ったことを明確に否定している上,原告が探偵に依頼して300万円程度をかけて繰り返し行った調査によっても,肉体関係の存在を明らかにする事実は確認されなかったことなどからすると,前記のとおり,被告とAとの交際が相当親密なものであったことを十分に斟酌しても,両者が肉体関係を持っていたと断じるには,なお合理的な疑いが残るというべきである。この点,原告がAの携帯電話の予測変換機能を用いて再現したという電子メールの文面には,「脱ぐと近くに感じる」という被告がAの面前で服を脱いだことを想起させる文言が存在するが,予測変換機能を用いて作成されたという作成経過自体が,真にAが当該文面を作成していたのかにつき重大な疑義を生じさせる。Aは,そのようなメールを作成した記憶はない旨の証言をしており,当該文面が真にAによって作成されたものであるのか否か判然としないというほかない。 結局のところ,被告とAが肉体関係を持っていた疑いは払しょくし切れないものの,肉体関係が存在したとまで認めるに足りる証拠は存在しないといわざるを得ない。
もっとも,被告とAとの交際は,平成25年12月以降,1年半近くにわたって継続していた上,肉体関係が存在していたとまでは認められないものの,前記のとおり,抱き合ったり,キスをしたりしていたほか,Aが服の上から被告の体を触ったこともあったのであるから,その態様は,配偶者のある異性との交際として社会通念上許容される限度を逸脱していたといわざるを得ない。被告は,Aに配偶者がいることを認識しつつ,Aとの交際を継続していたのであるから,被告の行為は,交際相手の配偶者である原告との関係において,不法行為を構成するというべきである。」
まとめ

今回は、キスは不倫になるか、また、不倫と不貞行為は何が違うのかというテーマについて解説をしてきました。
一般的な見方としてキスはいわゆる「不倫」に該当すると言えても純然たる「不貞行為」とは異なり、ただ、キスの背後の接触状況によっては法的な責任が生じうるという複雑な結論ですので、配偶者が他者とキスをしていたことについて責任追及をしようとする場合にはキスをしていたこと自体のほか、両者のその前後の接触状況についても証拠を収集しておく必要があるということになります。
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