弁護士 吉田 竜二
先日、ブラック企業問題に関する研修がありましたので、その内容を少しご紹介したいと思います。
ブラック企業という言葉は、元々インターネット上の掲示板で使われていたネットスラングでしたが、最近では流行語大賞にノミネートされるなど、すっかり社会に浸透した言葉になりました。
言葉は拡がるにつれて、様々な意味で使われるようになりますが、ブラック企業被害対策弁護団の定義によれば、ブラック企業とは、「新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」を言います。
企業の究極的な目的は利益の追及です。
目的達成のため、企業にとってもっとも都合のよい人材は、「即戦力で、賃金が安く、会社への忠誠心が高く、要らなくなれば自ら辞めてくれる」人材ということになりますが、そのような人材は基本的には存在しません。
なければ作ればよいという発想がありますが、ブラック企業はそれを地で行きます。
何をやるかといえば、大量に採用した上、過酷な研修やその後の長時間労働(当然ながらサービス残業)で振るいにかけるということをやります。
それらをくぐり抜けた人材は、異常な就業環境を一般的なものと捉え、成績が悪く企業に貢献できないと判断すれば自責の念から自ら退職の途を選ぶようになります。
ここまでの人材を作り上げるためには、洗脳めいた研修が付き物です。
数週間のカリキュラムを合宿形式で行うのですが、スケジュールの中に睡眠時間は含まれません。
当然研修中に居眠りをしてしまいますが、居眠りをしているところを見つかると、研修担当の先輩から暴言を吐かれ暴力を振るわれます。
そのようなことを繰り替えしながら研修が終盤になると、蝋燭が1本立てられているだけの暗い部屋に入れられ、その灯をいつ終わるとも知らされないまま見続けるよう指示されます。そして、ゆらぐ灯を見続け、夢か現か区別がつかなくなった頃合いで突如部屋が明るくなり、「我が社にようこそ。君には期待しているよ。」と会社役員が手を差し伸べるところで研修が終わります。
異常な空間に長時間置かれたことで正常な判断ができなくなっている新入社員には、会社役員が救世主のように思え、この人のため、ひいては会社のために尽力しようとの思考が芽生えるとのことです。
一見冗談のようにも見えますが、実際にこの様な研修が行われた例があります。
ブラック企業を撲滅するためには、使い捨てられた若者のケアをするだけでは十分ではないと言われます。
ブラック企業は利益追及のため理想的な人材を擁しているため必然的に競争力が高くなります。他の企業がブラック企業と競争しようとすれば、企業努力では間に合わず、いずれ自らもブラック化する必要に迫られるはずです。
対症療法は重要ですが、原因療法も同時並行的に行わない限り、ブラック企業問題が終息することはないと考えられます。