これまで当事務所が受けた相談を中心に、コロナウイルスに関する相談をまとめてみました。
労使関係
A 労働基準法26条では、「使用者の責めに帰すべき事由」によって従業員を休業させる場合には、平均賃金の60%の休業手当を支払わななければならないとされています。逆に言えば、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業とは言えない場合には、休業手当を支払わなくてよいということですが、これはどのような場合かというと、
①事業の外部より発生した事故である、
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故である、
の2つの要件を満たす場合とされています。
ところで、「相談・受診の目安」として公表がされた条件である、
1 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱などの強い症状のいずれかがある、
2 重症化しやすい人(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある、
※ 高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患などの基礎疾患がある、透析を受けている人、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている人
3 上記以外の人で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く、
のどれか一つにあたる場合には、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」などで相談をさせるべきですが、相談の結果が出るまでの間、業務命令によって休業させても、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業とは言えませんから、休業手当を支払わなくてもよいと思います。
相談の結果、就労不能と判断されれば、休業手当なしに休業させることができますし、就労可能と判断されたのにかかわらず休業をさせれば、休業手当を支払う必要が生じます。
また、上記の1、2、3にあたらない程度の風邪の症状、発熱、だるさ・息苦しさがあるという場合は、症状の程度、職場の状況(従業員の数が多いかどうか、従業員1人のスペースが広いかどうかなど)などを勘案し、他の従業員のコロナ感染を防ぐために休業を命じる必要があるという場合は、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業とは言えないでしょう。
いずれにしても、上記の「帰国者・接触者相談センター」などで相談をさせた方がよいと思います。
A 業務命令で休業を命じる場合は、前記のQAのような問題がありますが、従業員が自主的に休む場合は、休業手当を支払う必要はありません。
A 使用者は従業員に対して、従業員が安全で健康に働けるよう配慮すべき「安全配慮義務」を負っています。
この従業員に、下記のような症状がある場合は、働かせるべきではありませんし、仮に働かせたことによって、この従業員のコロナウイルス感染の症状が悪化した、あるいは、他の従業員にコロナウイルスが感染してしまったという場合は、使用者に安全配慮義務違反があったということで、従業員に対する損害賠償義務が発生することもあり得ます。
・ 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱などの強い症状のいずれかがある。
・ 重症化しやすい人(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある。
※ 高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患などの基礎疾患がある、透析を受けている人、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている人
・ 上記以外の人で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く。
また、ここまでの症状がない場合でも、症状の程度、職場の状況(従業員の数が多いかどうか、従業員1人のスペースが広いかどうかなど)などを勘案し、働かせるかどうかを決めるべきです。「従業員が働きたいといっているのだから自主性に任せる」という問題ではありません。
いずれにしても、この従業員に、保健所、病院に行くように勧めた方がよいと思います。
A クラスター状態の事務所に従業員を派遣する場合、その施設の状態がひどく、派遣すればコロナウイルスに罹患する可能性が非常に高いというような場合を除いて、派遣を命じることはできると考えられます。ただ、職場の消毒を徹底する、職場の全職員にマスクを支給し、マスクの着用を義務付ける、手の殺菌消毒も徹底する、テレワーク・臨時休業が難しいなどが前提条件になると思います。
職場でコロナに感染した場合、業務上の災害になりますから、コロナウイルスによって肺炎などの病気になったということ(つまり因果関係)を労基署が認定すれば、労災の対象になると考えられます。ただし、コロナによる肺炎でも、職場以外の場所でコロナに感染したと労基署が認定したような場合は、労災は認められません。
雇用主には、社員の安全に配慮する安全配慮義務がありますので、この義務に違反したという場合は、社員に対する損害賠償責任が発生することになります。義務に違反したかどうかは、その職場の状況から、コロナウイルスに罹患する可能性が(単にクラスターというだけでなく)非常に高かったかどうか、職場の消毒を徹底したか、職場の全職員にマスクを支給し、マスクの着用を義務付けたか、手の殺菌消毒も徹底したか、テレワーク・臨時休業が難しく職場の勤務を命じざるを得ない状況(職種)だったか、などを考慮して、最終的には、(訴訟になった場合)裁判所が判断することになります。
A 労働基準法上、労働者とは、「職業の種類を問わず、事業所または事務所に使用される者で、賃金を支払われるものという」とされています。したがって、パートタイム労働者、派遣労働者、有期雇用労働者にも休業手当の支払いは必要です。
契約関係
A これに関してつぎのような条文があります。
民法536条1項
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができる。
※ つまり、貴社と業者のいずれの過失にもよらないで、業者が、清掃業務をすることができなくなったときは、業者は業務委託料を請求することができない。
民法536条2項
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
※ つまり、貴社の過失によって、業者が、清掃業務をすることができなくなったときは、業者は業務委託料を請求することができる。この場合、業者が、清掃業務を免れたことによって利益を得たときは(業者が人の手配をする必要がなくなり、その分、費用の支出を免れたなど)、この利益分を貴社に支払わなければならない。
したがって、問題になるのは、今回のコロナウイルス騒ぎによるダンスホールの休止が、「貴社と業者のいずれの過失にもよらないで、業者が、清掃業務をすることができなくなった」のか、「貴社の過失によって、業者が、清掃業務をすることができなくなった」のかということになります。
ところで、新型インフルエンザ対策特別措置法(今回の新型コロナウイルスも、この対策法によって規制されます)45条2項は、「新型インフルエンザなどの蔓延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザなどの潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して、特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設、興行場、その他政令で定める多数のものが利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催し物を開催する者に対し、施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止、その他、政令で定める措置を講ずるよう要請することができる」と定めており、学校、社会福祉施設など多数のものが利用する施設について、使用の制限などを要請することができるとなっています。
このような「多数のものが使用する施設」に該当し、また、使用の制限などの要請が知事からされたときは、上記の「貴協会と業者のいずれの過失にもよらないで、業者が、管理・清掃業務をすることができなくなった」場合にあたるとする考えが強いようです(ただし、反対の考えもあります)。要請であっても事実上の強制力があると考えるからだと思います。
ところで、ダンスホールは上記の「政令で定める多数のものが使用する施設」に該当しますので、貴社が、知事から施設使用の制限、停止などの要請を受けているということであれば、反対説はあるものの、上記の民法546条1項あたり、貴社は、業者に対する業務委託料の請求を免れることになる可能性が高くなります。
ただ、上記のとおり反対説もあることですので、業者が被る損害のある程度はみてあげて、話し合いで解決するのが穏当かもしれません。
A 賃借人が賃料を支払わない場合、賃貸人は、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除でき、明け渡しを求めることができるのですが、賃借人が争うとすると次のようなことが考えられます。
① 賃貸人は、賃貸借物件を使用に適する状態にして賃借人に貸す義務があるが、コロナの影響で、事実上、賃借人は賃貸借物件を使用できないのと同じだから、賃貸人はこの義務を果たしておらず、したがって賃借人には、賃料の支払い義務はない。
② 仮に賃料不払いがあるとしても、貸主が賃貸借契約を解除するには、貸主と借主の信頼関係が破壊されていなければならない。今回は、コロナの影響で売り上げが落ち、それで賃料の支払いができないのだから、賃借人に不払いがあっても、貸主と借主の信頼関係は破壊されておらず、賃貸借契約の解除はできない。
①については、コロナは賃貸人とはまったく関係ないことですし、賃貸借物件自体は、賃借人が使用収益できるのですから、賃料を免除、減額してほしいという賃借人の主張は法的には無理があり、賃貸人は免除、減額を拒否することができます。
②ですが、通常は3ヶ月の滞納で契約解除ができ、それでも明渡しをしない場合は、訴訟になって賃貸人が勝訴するということになるのですが、今回は、賃借人が賃料を払えないのは、コロナの影響ということがあるので、3ヶ月の賃料不払いでは信頼関係が破壊されたとはいえず、それ以上(5か月とか6か月)の賃料不払いが必要だと裁判所が判断する可能性はあります。ただ、その場合でも、3ヶ月の時点で契約を解除し、その後も不払いは続いて、5ヶ月、6ヶ月になるのでしょうから、3ヶ月で解除するということでもよいと思います。
以上、賃料不払いがある場合には、法律的には、解約を解除し、原状回復してもらって退去してもらうということも可能と思います。
ただ、政府も、コロナの影響で賃借人が賃料を払えない場合は、賃料支払の猶予に応じるなど柔軟な措置の実施を不動産団体に要請しているようですし、また、原状回復費用を賃借人に負担させるとしても、賃借人がそれだけのお金を持っていない場合は、結局賃貸人の負担になってしまいます。また、新たな賃借人をすぐに発見できるのかの疑問も残ります。そこで、賃料の支払い猶予に応じるなど、ある程度の妥協をしてあげることも必要かと思います。
A 国土交通省の要請は、あくまでも要請ベースであり、賃借人がこれを根拠に、賃貸人に対して、支払い猶予を強制できるというようなものではありません。また、これは支払いを延ばすという意味での要請であり、減額まで要請しているものではありません。
ただ、支払いの猶予に応じず、賃借人が経済的に破綻してしまった、賃借人が退去してしまったということでも困ると思います。コロナウイルスが問題になっている期間だけのことですから、賃料の支払い猶予をしてあげるというのも一つの方法と思います。
支払い猶予、賃料の減額をする場合の文書ですが、タイトルは、「覚書」でも「合意書」でも、合意した旨の書面であることが分かればそれで構いません。
内容については、
・ 誰と誰の間で(賃貸人と賃借人は誰か)
・ 何の契約について(〇年〇月〇日付の〇〇所在の〇という目的物にかかる賃貸借契約についてなど)
・ どのようにする(〇年〇月分から〇月分までの合計賃料〇円の支払いを猶予し、猶予した賃料は、〇年〇月から〇年〇月の〇ヶ月にわたって、均等分割したものを通常の賃料に上乗せして支払う、月額〇円とする賃料を〇年〇月分まで月額〇円に減額するなど)
という点を明確にしておけばよいと思います。
下請法
A 貴社が下請法上の下請事業者、甲社が親事業者にあたる場合、法4条1項1号(下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと)に反するかどうかが問題となりますが、コロナ騒ぎで甲社の売り上げが落ちているといっても、それは下請事業者の責めに帰すべき理由にはならないので、部品の受け取り拒否は下請法に違反する行為になります。
A 下請法4条1項3号(下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること)に反するかどうかが問題となりますが、コロナ騒ぎで甲社の売り上げが落ちているといっても、それは下請事業者の責めに帰すべき理由にはならないので、前問同様、下請代金の減額を要求することは下請法に反する行為になります。
会社整理
A 事業者が活用できる行政からの支援策を検討する(本サイトの「事業者が活用できる支援策」をご覧ください)、金融機関から借り入れをする、金融機関と交渉して返済を猶予してもらう、あるいは金利だけの返済にしてもらう、無駄な経費がないかチェックする、売掛金などの回収をきちんと行う、従業員を自宅待機にする・解雇するなどの措置をとっても資金繰りができない場合は、民事再生手続き、あるいは自己破産手続きを検討する必要があります。
民事再生手続きとは、経済的に窮境にある事業者について、その債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めることにより、事業者の事業の再生を図ることを目的とする制度です。再生計画によって、債務の額を減額し、それを分割払いにして債権者に支払っていくのですが、今後の事業の黒字分から債権者に対する払いをしていくのですから、黒字が出ないのでは民事再生手続きを利用することはできません。
これまで黒字で順調だったのに、今回のコロナウィルスによって資金繰りに行き詰ったという場合は、民事再生手続きの利用を検討すべきですし、もともと不振で赤字続きだったところに、今回のコロナウィルスがあって資金繰りに行き詰まったという場合は、自己破産手続きを検討せざる得ないと思います。
補助金関係
A 小学校休業など対応助成金という制度があります。
令和2年2月27日から6月30日までの間に、臨時休業した小学校などに通う子供の世話を、保護者として行うことになった従業員に対して、有給の休暇をさせた事業者は助成金と対象となります。
※ この有給休暇は、労基法上の年次有給休暇とは別の特別の有給休暇になります。
※ この助成金の対象となるためには、対象となる従業員(子供の保護者)に対して賃金全額を支払うことが条件になります。
※ 助成金の対処となるのは、賃金全額の支払いをした使用者です。
有給休暇を取得した対象従業員に支払った賃金全額が助成金の対象となります。ただし、日額8330円が上限になります。
この助成金は比較的使いやすく、小学校の子供などを持つ従業員を雇用する使用者は、助成金の活用を考えてみるとよいと思います。