半年間の身柄拘束後、無罪になった事例
「被告人は無罪」
法廷でこの判決主文を聞いた時、私は落涙しそうになりました。
詐欺未遂事件で逮捕・勾留・起訴されたこの事件の被告人Aさんは、私が国選弁護人として最初に面会に行った時から、「自分はやっていません。『やった』『やっていない』というより、事件のことは知らないんです。」と私に話し、無罪を訴えてきました。
Aさんの場合、起訴されるまで、接見禁止と言って、家族との面会を禁止する処分もされていましたから、その間の孤独は想像もできません。起訴後は、接見禁止はなくなったものの、身柄拘束は、半年近くににわたって続きました。
判決までの間、Aさんのご苦労は他の誰にも想像することはできないですし、私を含め、他の誰もが、この人の苦労を判る、理解できると言ってはならないと私は思っています。
判決に不服がある場合、言渡しの翌日から14日以内に控訴しなければ、有罪の場合には有罪判決が、無罪の場合には無罪判決が確定します。
Aさんの場合、判決言渡しの翌日から14日以内に、検察官から控訴されることはありませんでした。
数日の間に、2件のひき逃げ事件を起こしたトラックドライバーが執行猶予の判決を得た事案
Aさんは、当時、運送会社に勤務して、まだ2か月のトラックドライバーで、職業運転手として仕事をするのは、この会社が初めてでした。
Aさんは、運転技術も高くなく、運送経路にも慣れていなかったため、これまでの何回か、小さな接触事故を起こしていました。しかし、会社からは、軽い注意程度しかなく、特に処分はありませんでした。
その後、Aさんは、仕事で運転中、人身事故を起こし、頭が真っ白になってしまい、被害者を救護することもなく、走り去りました。その数日後にも、同じような人身事故を起こしたにもかかわらず、やはり、停車することもなく、走り去りました。
Aさんは逮捕され、その後、保釈されましたが、その間に、保険会社を通じて、被害者と示談し、また、交通安全協会の指導のもと、小学生らを相手にした、交通指導の補助や児童の登下校の際の交通ボランティアに参加して、交通安全活動に協力しました。
その結果、情状が認められ、被告人には、執行猶予付き判決が下されました。
犯行当時、心神耗弱の状態にあったとして、刑の減刑が認められた事例
Aさんは、数年前から、被害妄想や強迫観念にとらわれて、心療内科や精神科に通院していました。
これまで他人を傷付けるような行動に出たことはありませんでしたが、事件の数日前から、誰かに追われているという被害妄想が激しくなり、ついに、家族や自分の身を守るためだと言って、病院で、他の入院患者の胸を、包丁の刃先で数回突き刺しました。
ただ、包丁が、先の尖ったものではなく、菜切り包丁だったため、刃先が丸く、殺傷能力があまり高くなかったと判断されて、殺人未遂罪ではなく、傷害罪で起訴されました。
そして公判となり、弁護人は、Aさんは、犯行当時、心神喪失(判断能力がない状態)にあったとして、無罪を主張しました。
裁判所で精神鑑定を行ったところ、鑑定結果は、心神喪失とは認められませんでしたが、心神耗弱(判断能力が不十分な状態)となりました。
そして、裁判所も、その鑑定結果を重視して、被告人の責任能力が、事件当時、心神耗弱だったと認定し、刑を減軽して、執行猶予付き判決を下しました。
無免許運転の故意が認められず、無罪の判決が下された事例
外国人Aさんは、所持していた国際運転免許証の効力がないにもかかわらず、保有していた国際運転免許証で車の運転をし、無免許運転の疑いで逮捕されました。
Aさんは、来日して以来、検問や職務質問でも、自分の持っていた国際運転免許証が、日本では無効だといった説明を受けたことがなかったこと、日本以外の国では、有効な国際運転免許証として通用していたことなどから、自分が無免許だとは知らなかった、無免許運転をしたことの故意がなかったという主張をしました。
そして、Aさん自身も、後日、警察からの呼出しを受けた際も、自ら自動車を運転して、警察署へ出頭したという事情がありました。また、この自動車も、数ヶ月前に購入したばかりで、任意保険にも加入していました。
結局、裁判所は、自分が無免許であることを知っていたら、Aさん自ら運転して、警察署に赴くことは通常考えられず、合理的な説明が付かないとし、Aさんには、無免許運転罪の故意が認めらないとして、無罪の判決を下しました。
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