【事案の概要】
訴外Aは、ツイッターにおいて、Xの名誉を棄損する投稿(ツイート)を行った(以下、この投稿を「本件元ツイート」とする。)。
※本件では、リツイートされた本件元ツイートの内容が名誉棄損に当たるかという点も争点となっているが、本報告ではこの議論を省略し、判決通り名誉棄損に当たるとする。
Yは、本件元ツイートを、ツイッターにおいて引用する形式で投稿(リツイート)した(以下、この投稿を「本件リツイート」とする。)。
Xは、本件リツイートがXに対する名誉棄損に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び弁護士費用等を求める本件訴えを提起した。
【争点】
・本件リツイートの行為主体(責任帰属主体)は誰か
【裁判所の判断】
「…そこで検討するに,ツイッターにおいては,投稿者は,自己の発言を投稿するのみならず,他者の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿(リツイート)することができるところ,リツイートの際には,自己のコメントを付して引用することや,自己のコメントを何も付さずに単に元ツイートをそのまま引用することもできる。そして,投稿者がリツイートの形式で投稿する場合,被告が主張するように,元ツイートの内容に賛同する目的でこれを引用する場合や,元ツイートの内容を批判する目的で引用する場合など,様々な目的でこれを行うことが考えられる。
しかし,他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合,何らのコメントも付加しないで元ツイートをそのまま引用することは考え難く,投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく,当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。したがって,ツイッターが,140文字という字数制限のあるインターネット上の簡便な情報ネットワークであって,その利用者において,詳細な説明や論述をすることなく,簡易・簡略な表現によって気軽に投稿することが想定される媒体であることを考慮しても,上記のような,何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは,ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,例えば,前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など,一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り,リツイートの投稿者が,自身のフォロワーに対し,当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である。」
(※Y控訴)
【検討】
SNSなどのウェブサービスは今や人々の生活に浸透し、中でもツイッター(Twitter)は、リアルタイムであること、気軽に全世界に対して呟けること(=投稿・発信できること)、他人と交流できる機能(コメントへの返信機能、お気に入り機能等)があることなどから、多くのユーザーが利用している。
一方で、昨今、いわゆる「炎上」「祭り」「拡散」と呼ばれるような状況によって、謂われなき被害を生じたり、凄惨な結末を迎えたりした事件などが注目されている。
本判決は、ツイッターの特徴的な機能である「リツイート」に関する裁判例であり、上述の状況に関連する事例のため、紹介したい。
「リツイート」とは、他人がツイッターに投稿したコメントを引用する形で、自己のアカウントから再投稿する機能である。
その最大の特徴は手軽さであり、リツイートしたいコメントを見かけたら、クリック(タップ)2回、全部でほんの1~2秒ほどで、リツイートして全世界に対して再発信することができる。
そこには、自分でツイート(投稿)するときのように、コメントを考えて、自分で入力するといったような、手間や時間的コストがほとんどない。
そのため、多くの人によって手軽に、あるいは立ち止まってそのツイートの真偽や適否を考えることなく安易に、利用されている機能であるともいえる。
リツイートについては、その発言の責任主体が、元ツイート者にあるのかリツイート者にあるのか、議論があり得るところである。
この点について、東京地判平成26年12月24日は、リツイートは、内容は他人のツイートであるものの、その内容をそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言(=ツイート、投稿)と同様である旨述べ、元ツイート者によるツイート行為とは別に不法行為が成立するとしている。
さらに、東京地判平成27年11月25日は、リツイートが既存のツイート内容を引用形式によって発信する「主体的な表現行為」である旨述べている。
本件裁判例でも「…リツイートの投稿者が,自身のフォロワーに対し,当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である」として、リツイート者の表現行為であるとしている。
このように、あるツイートを自身のリツイートによって再生産し発信することは、責任の対象となる表現行為となると考えられているようである。
そのため、リツイートする元ツイートの内容が、名誉棄損に当たるような表現であれば、リツイートによって名誉棄損に当たるような表現を自分もしたということとなり、責任を負うこととなるのである。
しかしながら、人々がリツイートする場合の目的は、賛同目的のみならず批判目的など様々な目的でこれを行うことが考えられる。
この点につき、本件裁判例は、自身のリツイートに対してさらにコメントを付すことができることを指摘し、「他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合,何らのコメントも付加しないで元ツイートをそのまま引用することは考え難く,投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく,当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常である」とし、反対に「何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは,ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,例えば,前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など,一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り,リツイートの投稿者が,自身のフォロワーに対し,当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である」とした。
本件裁判例はこの議論を責任の帰属主体の論として述べているが、その実質は、リツイートに関わる前後のツイート、すなわち文脈を含めて、当該リツイートが名誉棄損行為に当たるかどうか判断しているのだと思われる。その上で、何らコメント等を付さないで行われたリツイートについては、ツイッターの一般の閲読者を基準としたときに、元ツイートの内容に賛同する趣旨で同じ内容を表現する行為だと述べていると考えられる。
なお、賛同行為そのものについては、あるSNSにおいて、名誉棄損に当たる元投稿に対して賛同を示す機能(いいね、等)を使用しただけでは、元投稿と同視することはできないとして、不法行為の成立を否定している裁判例がある(東京地判平成26年3月20日)が、ツイッターとはその機能・挙動が異なる可能性があるため注意が必要である。
SNSなどのウェブサービスは便利で簡単であることに一定の価値があるが、その中で行われる自分の「ほんの少しの行為」が、どのような影響をもたらし、どのような責任を生ずるおそれがあるのかについては、意識する必要があると言えよう。