【事案の概要】
⑴ 平成12年 X・Y 婚姻
⑵ 平成29年 X・Y 離婚
⑶ 平成30年 X→Y 財産分与の審判申立て
申立対象財産のうち、X名義建物(本件建物)にYが居住して占有。
本件建物はアンダーローンであり、XがYに対し209万円支払うこと及びYが財産分与として本件建物をXに明け渡すことについては原審から同様の判断がなされている。
【争点】
財産の分与に関する処分の審判において当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき当該他方当事者に分与しないものと判断した場合に家事事件手続法154条2項4号に基づきその明渡しを命ずることの許否
家事事件手続法第154条(給付命令等)
1 家庭裁判所は、夫婦間の協力扶助に関する処分の審判において、扶助の程度若しくは方法を定め、又はこれを変更することができる。
2 家庭裁判所は、次に掲げる審判において、当事者(第二号の審判にあっては、夫又は妻)に対し、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
四 財産の分与に関する処分の審判
【裁判所の判断】
3 原審は,抗告人名義の本件建物等の財産を相手方に分与しないものと判断した上で,抗告人に対し相手方への209万9341円の支払を命じたが,要旨次のとおり判断して,家事事件手続法154条2項4号に基づき相手方に対し抗告人への本件建物の明渡しを命ずることはしなかった。
財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産を他方当事者が占有する場合に当該不動産を当該他方当事者に分与しないものとされたときは,当該一方当事者が当該他方当事者に対し当該不動産の明渡しを求める請求は,所有権に基づくものとして民事訴訟の手続において審理判断されるべきものであり,家庭裁判所は,家事審判の手続において上記明渡しを命ずることはできない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
財産分与の審判において,家庭裁判所は,当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して,分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることとされている(民法768条3項)。もっとも,財産分与の審判がこれらの事項を定めるものにとどまるとすると,当事者は,財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため,審判後に改めて給付を求める訴えを提起する等の手続をとらなければならないこととなる。
そこで,家事事件手続法154条2項4号は,このような迂遠な手続を避け,財産分与の審判を実効的なものとする趣旨から,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者に対し,上記権利関係を実現するために必要な給付を命ずることができることとしたものと解される。そして,同号は,財産分与の審判の内容と当該審判において命ずることができる給付との関係について特段の限定をしていないところ,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき,他方当事者に分与する場合はもとより,分与しないものと判断した場合であっても,その判断に沿った権利関係を実現するため,必要な給付を命ずることができると解することが上記の趣旨にかなうというべきである。
そうすると,家庭裁判所は,財産分与の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき,当該他方当事者に分与しないものと判断した場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,当該他方当事者に対し,当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができると解するのが相当である。
【検討】
給付命令は必ずしも財産分与で命じられる権利変動そのものに直接対応しているものに限定されるわけではない。そのため、分与しないものと判断した場合(本件建物を元妻に分与しない)であっても、その判断に沿った権利関係(元夫が元妻に対して金銭を支払い、元妻は本件建物を明け渡す)を実現するため、必要な給付を命ずることができるとしたものである。
そうすると、財産分与対象とならない特有財産であった場合には、本決定の射程は及ばず、特有財産の明渡請求を給付命令(家事事件手続法154条)によって実現することはできない。