仕事が原因で心筋梗塞を発症し、心臓の機能に影響が生じしてしまうことがあります。特に、長時間労働となりやすい運送業などでは、このようなケースが起こってしまうことはは事実です。
このコラムでは、心筋梗塞を伴う労災について詳しく解説します。
1 心筋梗塞も労災に含まれる?
心筋梗塞により心機能が低下した場合、後遺障害として認定される可能性があります。
以下では、心機能の低下を伴う後遺障害の代表的なものをご紹介します。
(1)心機能の低下による運動耐容能の低下があるもの
低下の程度が中程度であるものは、第9級の7の3に該当します。
具体的には、平地を健康な人と同じ速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動が制限される状態です。
低下の程度が軽度である場合、第11級の9に該当します。
具体的には、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動には支障がないものの、それ以上激しいか、急激な身体活動が制限される状態です。
(2)除細動器又はペースメーカーを植え込んだもの
除細動器を植え込んだものは、第7級の5に該当します。
ペースメーカーを植え込んだものは、第9級の7の3に該当します。
除細動器又はペースメーカーを植え込み、かつ、心機能が低下したものは、併合の方法を用いて準用等級を定めることになります。
(3)房室又は大動脈弁を置換したもの
継続的に抗凝血薬療法を行うものは、第9級の7の3に該当します。
それ以外のものは、第11級の9に該当します。
(4)大動脈に解離を残すもの
偽腔開存型の解離を残すものは、第11級の9に該当します。
2 心臓疾患の認定基準について
以下のいずれかの「業務による明らかな過重負荷」を受けたことにより発症した心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われます。
(1)認定要件1
長期間の過重業務
発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
(2)認定要件2
短期間の過重業務
発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと
(3)認定要件3
異常な出来事
発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異
常な出来事に遭遇したこと
3 「業務による明らかな過重負荷」とは?
(1)業務による明らかな
発症の有力な原因が仕事によるものであることがはっきりしていることをいいます。
(2)過重負荷
医学的経験則に照らして、心臓疾患の「発症の基礎となる血管病変等」を、その「自然経過」を超えて「著しく増悪」させ得ることが客観的に認められる負荷をいいます。
ア 発症の基礎となる血管病変等
もともと本人がもっている動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病
態のことです。
イ 自然経過
加齢、生活習慣、生活環境等の日常生活の諸々の要因や遺伝等の個人に内在する要因によ
り血管病変等が徐々に悪化していくことです。
ウ 著しく憎悪
血管病変等の悪化が著しいことをいいます。
4 認定の方法1(認定要件1「長期間の過重業務」)
具体的な判断要素は、以下のとおりです。
(1) 評価期間(発症前の長期間)
評価期間は、発症前おおむね6か月間です。
(2) 疲労の蓄積
恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」
が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心
臓疾患を発症させることがあります。
このことから、発症との関連性について、業務の過重性を評価するに当たっては、発
症前の一定期間の就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であった
かという観点から判断します。
(3) 特に過重な業務
日常業務※に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認めら
れる業務をいいます。
※ 「日常業務」とは、通常の所定労働時間内の所定業務内容をいいます。
(4) 過重負荷の有無の判断
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かは、業務
量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者※にとっても、特に過重な身体的、精
神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断しま
す。
業務の過重性の具体的な評価をするには、疲労の蓄積の観点から、労働時間のほか、労働時間以外の負荷要因について十分検討します。
※ 「同種労働者」とは、脳・心臓疾患を発症した労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいい、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者を含みます。
(5)労働時間
ア 労働時間の評価
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間
が長いほど、業務の過重性が増します。
具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間について、以下の①~③
を踏まえて判断します。
① 発症前1か月間ないし6か月間※1にわたって、1か月当たりおおむね 時間を
超える時間外労働※2が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価で
きること
② おおむね 時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性
が徐々に強まると評価できること
③ 発症前1か月間におおむね 時間又は発症前2か月間ないし6か月間※3にわ
たって、1か月当たりおおむね 時間を超える時間外労働が認められる場合は、業
務と発症との関連性が強いと評価できること
イ 労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合的な評価
労働時間以外の負荷要因において一定の負荷が認められる場合には、労働時間の状況をも総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかを適切に判断します。
具体的には以下のとおりです。
上記③の水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められる場合には、特に他
の負荷要因の状況を十分に考慮し、そのような時間外労働に加えて一定の労働時間以
外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できること
5 認定の方法2(認定要件2「短期間の過重業務」)
(1)評価期間(発症に近接した時期)
評価期間は、発症前おおむね1週間です。
(2)過重負荷の有無の判断
特に過重な業務に就労したと認められるか否かは、業務量、業務内容、作業環境等を
考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であ
るか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
業務の過重性の具体的な評価をするには、労働時間のほか、労働時間以外の負荷要因
について十分検討します。
ア 業務と発症との時間的関連性
短期間の過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合、業務による過重な負荷は、
発症に近ければ近いほど影響が強いと考えられることから、次に示す業務と発症との時
間的関連を考慮して判断します。
① 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるか否か
② 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であって
も、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務と発症
との関連性があると考えられるので、この間の業務が特に過重であるか否か
イ 業務の過重性の具体的評価
「労働時間」の長さは、業務量の大きさを示す指標であり、また、過重性の評価の
最も重要な要因です。評価期間の労働時間は十分に考慮し、発症直前から前日までの
間の労働時間数、発症前1週間の労働時間数、休日の確保の状況等の観点から検討
し、評価します。
次の場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断しま
す。
① 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合
➁ 発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長
時間労働が認められる場合 等
(いずれも、手待時間が長いなど特に労働密度が低い場合を除く。)
※ なお、労働時間の長さのみで過重負荷の有無を判断できない場合には、労働時間
と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮して判断します。
6 認定の方法3(認定要件3「異常な出来事」)
(1)評価期間
評価期間は、発症直前から前日です。
(2)異常な出来事
具体的な判断項目は以下のとおりです。
ア 精神的負荷
極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起
こす事態
① 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合
② 事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に
携わった場合
③ 生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合
イ 身体的負荷
急激で著しい身体的負荷を強いられる事態
上記①、②のほか、
④ 著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を
行った場合
ウ 作業環境の変化
急激で著しい作業環境の変化
⑤ 著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境
下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合
(3)過重負荷の有無の判断
異常な出来事と認められるか否かは、以下のような事項について検討し、これらの出
来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的か
つ総合的に判断します。
(検討の視点)
出来事の異常性・突発性の程度、予測の困難性、事故や災害の場合にはその大きさ、
被害・加害の程度、緊張、興奮、恐怖、驚がく等の精神的負荷の程度、
作業強度等の身体的負荷の程度、気温の上昇又は低下等の作業環境の変化の程度等
7 弁護士に相談・依頼するメリット
以上見てきたように、心筋梗塞などの心疾患に関する労災は、認定が複雑であり、専門的な知識も必要とします。
一般の方では判断が難しい点が多く、その点では、専門家である弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。
また、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。
これらを請求するには、自分が所属する会社などを相手に損害賠償請求を行う必要があります。
ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。
会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。
弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。
また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。
そのため、労災でお悩みの方は、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。