夫と長年連れ添ってきたが、日々積もり積もった我慢が限界に近くなり、熟年離婚を考えるようになったというケースは少なくありません。
今回は熟年離婚をする場合の財産分与について、基本的な考え方と離婚に備えて今から準備しておくべき事柄について解説をしていきます。

熟年離婚をする場合の懸念事項

夫の日常的な態度等からいずれ離婚を考えているという方の割合は多いはずですが、その考えを実行に移す方は多くはありません。
その最たる原因は夫と離婚をしてしまうことによる経済状況の変化であると思われますが、離婚に伴う財産分与がうまく運べばその懸念事項は解消される可能性があります。

財産分与の基本的な考え方

財産分与は、婚姻期間中に夫婦で形成した財産を離婚時に2分の1にするという制度です。2分の1という分与割合は専業主婦をしている場合でも基本的には変わりません。
財産分与の対象は、現金・預金、不動産、自動車、株式・投資信託、保険解約返戻金、退職金など婚姻期間中に形成された財産であり、基本的に財産の種別を問いません。
ただし、両親から贈与や相続により得た財産、夫婦が婚姻前から持っていた財産など婚姻関係とは関係なく形成された財産については特有財産として財産分与の対象にはなりません。

熟年離婚の際に注目すべき財産

熟年離婚をする場合、婚姻期間が相当程度長期にわたっていることから、一般的な傾向として以下の指摘をすることができます。

不動産

財産分与における不動産の価値は、現在の不動産査定額から住宅ローン残高を差し引いた金額となります。
熟年離婚の場合、夫が住宅ローンを完済している、もしくは、住宅ローンの残高がわずかであるということが多いため、不動産の価値が高く算定される可能性があります。

株式・投資信託

財産分与における株式・投資信託の価値は、株式数もしくは投信信託口数に現在の株価もしくは投資信託の評価額を乗じた金額となります。
熟年離婚の場合、夫が会社の持株会に加入している期間や投資期間が長期にわたっていることが多いため、夫が保有する株式数や投資信託口数が多く存在する可能性があります。

保険解約返戻金

財産分与における保険解約返戻金の価値は、その時点で保険を解約した場合に返金される解約返戻金の金額となります。
なお、掛捨てタイプの保険は解約返戻金がないため財産分与上の価値はないことになります。
熟年離婚の場合、夫が保険に加入している期間が長くなっていることが多いため、解約返戻金が多く存在する可能性があります。

退職金

財産分与における退職金の価値は、定年退職が迫っている場合には満額の退職金額、定年退職まで数年単位の時間がある場合には現時点で自己都合退職をした場合の退職金額をそれぞれ勤続年数と婚姻期間で按分した金額となります。
熟年離婚の場合、夫の勤続年数は相当程度積み重なっていることが多いため、退職金の価値が多く算定される可能性があります。
なお、既に夫が退職しており退職金が支給されている場合には預金口座に入金された退職金額について按分計算をします。
また、会社によっては確定拠出年金制度が採用されている場合もありますが、基本的な考え方は変わりません。

具体的な財産分与方法

実際に財産分与を行う場合には以下の処理を行います。
①不動産や自動車等を含む夫婦双方の保有するすべての財産について金銭評価を行う(住宅ローンや自動車ローン等財産に付随する負債がある場合にはマイナスの金銭評価を行う)。
②夫婦双方が保有する財産の総額を計算する。
③財産の総額を2で割って双方が取得すべき財産分与額を確認する。
④双方が取得すべき財産分与額を超えて財産を保有する側の財産のうち、双方が取得すべき財産分与額を超える部分が他方に対する財産分与額となる。

簡略化したモデルケースを用いて具体的な数字をあてはめると以下のような形になります。

夫の財産

預金500万円、住宅1500万円、住宅ローン200万円、退職金800万円 合計2600万円

妻の財産

預金200万円、保険解約返戻金150万円 合計350万円

夫婦の財産総額

500万円+1500万円-200万円+800万円+200万円+150万円=2950万円

双方が取得すべき分与額

2950万円÷2=1475万円

夫から妻に対する財産分与額

2600万円-1475万円=1125万円

不動産を財産分与してもらう場合

上記のモデルケースにおいて、妻が不動産そのものについて財産分与を希望する場合はどのような処理になるでしょうか?
不動産そのものの財産分与は権利関係の処理等から、夫がその分与方法に理解を示しているということが前提となりますが、モデルケースにおける不動産の価値は1300万円(1500万円-200万円)と評価されます。
夫から妻に対する財産分与額は1125万円ですので、調整をせずに妻が不動産そのものについて夫から財産分与を受けた場合には、通常の財産分与を行う場合と比較して妻は差額の175万円分多く財産分与を受けたという不均衡が生じます。
この点については、妻から夫に対して175万円分の財産が渡れば双方が取得すべき財産分与額の帳尻があいますので、モデルケースにおいて妻が不動産そのものの財産分与を受けようとする場合には、妻は夫に対して差額に相当する175万円分の財産を渡すことで不均衡を解消する必要があります。

なお、実際に不動産そのものについて財産分与を受けようとする場合には住宅ローンの処理等が関係してきますので、別途その手当てについても検討しなければなりません。

財産分与を見据えた準備

熟年離婚の場合、多額の財産が形成されている可能性があることは既に述べたとおりですが、適切な財産分与を実現するためには前準備が肝心です。
財産分与を求めようとする場合、前提となる財産を示す必要があります。
不動産や自動車といった物理的に大きな財産を隠すことは容易ではないですが、預金、株式、保険等の財産は隠す気になれば隠すことができてしまいますので、実際に離婚を切り出す前に夫の財産の行方を把握しておくことが非常に重要です。

家計の管理をどちらが行っているかによっても難易度が変わりますが、預金であれば銀行支店名、株式・投資信託であれば証券会社、保険であれば保険会社程度は最低限把握しておきたいところです。
年末調整等のために自宅に届く書類によって財産を発見できる場合もありますので、その辺りにも注目をしておくとよいかもしれません。

いずれにせよ、夫に離婚を切り出した後は財産関係の新しい情報は入ってこないものと考えるべきですので、情報収入は離婚を切り出す前に終えておく必要があります。
何らか財産に関するヒントがあれば、その後の手続において開示を求めることができる可能性が出てきますが、全く何の手がかりもないという状況ではそれもできなくなってしまいます。

まとめ

今回は、熟年離婚をする場合の財産分与について、基本的な考え方と離婚に備えて今から準備しておくべき事柄について解説をしてみました。
離婚以前の財産状況によりますが、しかるべき前準備を行えば相当程度の財産分与を得ることも可能と思いますので、離婚について経済的な不安をお持ちの方は専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二
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