ハーグ条約の基本的な考え方とは?国内の連れ去りの場合はどうなる?
ハーグ条約について
ハーグ条約とは
ハーグ条約とは、正式には「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」といいます。国境を越えて子の連れ去りが生じた場合、子どもにとっては生活環境が突然大きく変わることとなり、そのような自体が子に与える様々な悪影響の可能性を考慮し、子の福祉に鑑みて、連れ去りを防止し、元の居住国に迅速に返還されるための国際協力の仕組みや、国境を越えた面会交流のための協力を定めた国際的なルールといえます。
ハーグ条約では、基本的には子の監護権・親権の紛争について、子が従前居住していた国において判断するのが望ましく、その観点から元の国に連れ戻すことを原則としています。
これは、「子どもにとって生活環境が突然大きく変わる」こと、つまり国境を越えることにより、子どもにとってはそれまでの生活から一変し、かつ一方の親や親族・友人とのかかわりが断絶されてしまう可能性が高いこと、そして言葉や文化も異なる環境に順応しなければならなくなるということを踏まえ、そのような影響から子を守るために原則的には元の居住国に子を迅速に返還することを定めています。
ハーグ条約のこの原則は必ずしも絶対的ではなく、子の返還により子の身体又は精神的な危険があるという場合や、子自身が返還を拒否している場合、連れ去りから1年以上経過して新たな環境に適応している場合などは、返還拒否ができることになっています。
ハーグ条約の規定とは
ハーグ条約が定める子の返還命令の適用対象は、
・16歳未満の子
・監護権の侵害を伴っていること
・国境を越えた移動があること
が前提です。
したがって、国内における子の連れ去りには、当該ハーグ条約の適用はありません。
国内における子の連れ去りについて
子どもの引渡しを請求する手続
上記のとおり日本国内における子の連れ去りについては、当該ハーグ条約の適用はありませんから、「原則的に元の居場所に子を迅速に返還する」ということは絶対的な要請ではありません。
仮に子どもが元の居所から移動することになったとしても、父母の状況・子の状況・監護方針その他の事情から、子の利益を最優先して、その監護については判断をすべきといえます。
したがって、「連れ去り」といえるか否かも、その態様や経緯などにより、安易に判断することは難しいこともあろうかと思われます。
仮に、国内における子の連れ去りがあり、子を返してもらいたいという場合には、
①家事事件手続法に基づく請求
②人身保護法に基づく請求
③その他の手続
があります。
家事事件手続法に基づく請求について
家事事件手続法に基づく請求としては、
・調停
・調停前の処分
・家事審判手続
・審判前の保全処分
があります。
「調停」は、家庭裁判所で調停という方法で当事者双方にて話し合いをし、子の引渡しを求めるというものです。緊急性がそこまで高くない場合に検討すべきもので、具体的には「子の監護者指定・子の引渡し」の調停を想定しています。
もし調停が不成立となれば、調停申立て時に審判申立てがあったものとみなされ、自動的に審判手続に移行します。
これに対して、「調停前の処分」というのは、裁判所が構成する調停委員会において、調停事件係属中に、調停のために必要であると認める処分を命ずることができるということを受けて、「処分」として子の引渡しを命ずる、ということを想定しています。
ただ、「命ずる」といっても、一種の勧告に過ぎないため、強制的に実現するための「執行力」はありません。ただ、正当な理由なくこの処分に応じないときには、10万円以下の過料があります。
次に、「家事審判手続」は、話し合いである調停とは異なり、裁判所に子の監護に関する処分として決定してもらうことを求めるものです。
最後の「審判前の保全処分」は、前記の審判の申立では、申立から終局審判が効力発生するまでの間に権利の実現が困難になることを回避するため、また関係人の生活が危険の直面することを防止するために、仮に保全処分を求めるものです。
こちらは、「調停前の処分」とは異なり、その申立が認められれば、強制執行が可能になるものです。
非常に緊急性が高い場合には、審判申立と併せて、この保全処分の申立も行います。
人身保護法に基づく請求について
人身保護法とは、あらゆる種類の不当な人身の拘束から被拘束者を開放するためにある法律で、他の救済方法では目的を達することができない場合における例外的な救済方法です。
実際にこれが認められるためには、高速の違法性が顕著であることが必要であり、審理の手続も厳格になっています。そこで、裁判所は、被拘束者の身柄確保・判決後の引渡し担保のために、勾引・勾留・刑罰の規定も備えられています。
子の請求が認められるためには、
・身体の自由が拘束されていること
・拘束が法律上正当な手続によらないで行われていること
が必要です。
最高裁判所の判例によれば、人身保護法に基づき共同親権(つまり離婚前の父母の親権)に服する幼児の引渡しについて拘束者による幼児に対する監護・拘束が権限なしになされていることが顕著であるとして当該請求を認めるためには、「幼児が拘束者の監護の下に置かれるよりも、請求者の監護の下に置かれることが子の幸福に適することが明白であること、いいかえれば、拘束者が幼児を監護することが、請求者による監護に比してこの幸福に反することが明白であることを要する」としています。
具体的には、既に仮処分などにより拘束者に対し親権行使が実質上制限されているのにその処分に従わない場合や、拘束者の監護の下において著しく健康が害されたり、満足な義務教育が受けることができないなどの例外的な場合がこれに当たるとされているのです。
単に、「どちらの親の下で監護される方が幸福であるか」というだけでは決められるものではありませんから、要件としては相当厳しいものといえます。
その他の手続について
その他にも、民事訴訟による請求(既に親権や監護権がどちらにあるか決められていて、それを侵害されているという場合の妨害排除請求)や、離婚訴訟における附帯請求(離婚訴訟の中で、併せて子の引渡しを請求するもの)、刑事事件(一方の親が強引な方法で他方親権者から子を連れ去ったというような未成年者略取罪等の追及)があります。ただ、最後の未成年者略取罪の成立には、裁判官の中でも意見が分かれた判例もあり、親権者の一方の下で養育されている子を他の親権者が連れ去った行為について、その経緯や手段・方法を社会通念上許されるか否かという観点から判断されるべきものとされ、必ず犯罪の成立を認めるものではないということは注意をする必要があります。
最も、犯罪の成否と関係なく、実力行使で子を自らの支配下に置こうとすることは、それ自体が子の福祉に反するのではないかと考えられるところで、慎重な姿勢が求められます。
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