交通事故の示談書(免責証書)は、多くの被害者の方にとっては初めて目にするものではないでしょうか。
そのため、「これにはどのような意味があるのか」「あとで困ったことにならないか」など、不安や戸惑いもあるかもしれません。
この記事では、交通事故の示談書について、知っておくべきポイントや注意点を解説します。

交通事故の示談書における知っておくべきポイント・注意点

1 交通事故における示談書とは

交通事故が発生し、被害者に損害(ケガをして通院による治療を余儀なくされた、車が壊れた、など)が発生すると、被害者は、加害者に対して、損害賠償を請求することができます。
これを、民法という法律では「不法行為」といいます。

そして、この損害賠償は、日本では原則として金銭により行うとされています。
そのため、例えば交通事故で自分の車が壊れてしまったときに、「代わりに同等の車を用意してほしい」と言うことはできません。

加害者が被害者に対して、損害賠償としていくらの金銭を支払うかの話し合いをするのが、「示談交渉」です。
そして、示談交渉の結果、加害者と被害者の双方が合意に達すると、合意した証として「示談書」というものを作成し、加害者と被害者がそれぞれ保有することになります。
示談することを、民法では「和解契約の成立」と言います。
つまり、示談は一種の契約ということになります。

2 免責証書と示談書の違いは

加害者が任意保険に加入している場合には、通常、示談交渉は加害者側の任意保険会社と行います。
そして、示談交渉がまとまると、保険会社からは「免責証書」という書類が送られてきます。

保険会社との間で取り交わす「免責証書」は、名前は違うものの、示談書とほぼ同一の効果を有するものと考えてよいでしょう。
免責証書には、被害者のみが署名・捺印し、加害者の署名・捺印はありません。
もっとも、保険会社が間に入っていますので、免責証書に署名・捺印したのに、保険金が支払われないということはまず考えられません。
多くの場合、免責証書を保険会社に送り返してから数日~2週間程度の期間のうちに、保険金が支払われている印象です。

一方で、加害者が任意保険に入っていないような場合には、加害者本人との間で、直接示談交渉をすることもあります。
そのような場合、賠償額で合意した際には、当事者のどちらかが、自分自身で示談書を作ることになります(弁護士に依頼している場合には、通常は、弁護士に作成してもらうことが可能です。)。
この場合には、被害者と加害者の両方が署名・捺印することになります。

3 示談書に記載されていること

示談書(免責証書)の書式は、保険会社によって異なりますが、一般的には次のような事項が記載されています。
・示談の対象となる事故の特定(日時、場所、当事者の氏名・住所・車両など。)
・合意した示談金の額
・示談金の支払い方法(振込口座の指定など)
・清算条項(今回の交通事故については解決したので、賠償金を受領した後は、裁判上・裁判外問わず一切の請求をしないという趣旨の文言)

上記の情報を記載した上で、当事者の署名・捺印(免責証書の場合は、被害者の署名・捺印)をもって、完成します。
なお、人身事故か、物損事故かによっても、書式や内容は若干異なってきます。

4 示談書の書き方

保険会社が免責証書を作成する場合には、被害者がしなければならないことは、あまりありません。
基本的には、免責証書の内容を確認し、問題がなければ署名・捺印するだけですので、簡単に終わります。

一方、保険会社が間に入っていない場合には、当事者同士で示談書を作らなければなりません。
市販されている書籍やインターネット上の掲載されている書き方やひな形を参考にして作成することも可能ですが、過不足ない示談書を作ることは簡単ではありません。
そのようなときには、交渉段階から弁護士に依頼して、最後の示談書も作成してもらうことも検討した方が良いかもしれません。

5 示談をするときに注意すべき点

示談書は、和解したことの証明となります。
そして、当事者である加害者と被害者は、示談で合意した内容に、法的に拘束されます。
したがって、示談書を交わした後に、「やはり慰謝料が少ない」と思って再交渉を持ち掛けたとしても、相手側が応じる可能性はほぼありません。
したがって、示談書に署名・捺印をする前には、弁護士に妥当な金額か確認することをおすすめします。

特に、保険会社から提示される賠償額は、弁護士から見て低いと感じることが多いです。
例えば、以下の項目などは、保険会社と被害者の方の情報量に大きな差があるため、被害者の方が何も知らないまま、不利な内容になっていることがあります。

ア 慰謝料

慰謝料の計算では、保険会社は、弁護士や裁判所が使う基準とは異なる、保険会社独自の基準(自賠責保険の基準に近い基準)を用いています。
そのため、慰謝料の項目だけ見ても、裁判所が採用している相場より非常に低いということが多いです。
保険会社も、上記の基準は知っていますので、弁護士が入っただけで、慰謝料が増額されることも多くあります。

イ 過失割合

交通事故の過失割合についても、一般的に被害者本人には知識がありませんので、被害者に不利な割合を持ち出される場合があります。
保険会社の担当者の方から、「今回のような交通事故では、過去の事例から過失割合はこのようになります。」と言われてしまえば、一般の方が反論することは難しいのではないでしょうか。

もっとも、後遺症が残ってしまった事故や死亡事故といった大きな事故の場合には、5パーセント過失割合が違うだけでも、受け取ることができる賠償金が大きく違ってしまいます。
過失割合は、交通事故の具体的な状況に照らして、慎重に考えなければなりません。

ウ その他(休業損害や逸失利益など)

その他、休業損害(特に、主婦の方の休業損害)や、後遺障害が残ってしまった場合の将来分の逸失利益などの項目で、被害者にとって不利な内容になっていることがあります。
そのような場合に、いったん示談してしまえば、本来受け取ることができた賠償金が大きく減ってしまい、損をすることになりかねません。

6 示談の後、予期していなかった後遺症が生じたら?

これまで述べてきたように、通常は、いったん示談をしてしまうと、あとから追加して損害賠償を請求することはできません。

もっとも、示談をした際に、当時予想できなかった不測の再手術や後遺症が発生した場合において、例外的に再度の損害賠償の請求を認めた判例もあります。

最高裁昭和43年3月15日判決

「一般に、不法行為による損害賠償の示談において、被害者が一定額の支払をうけることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上廻る損害については、事後に請求しえない趣旨と解するのが相当である。
しかし、…全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもつて満足する旨の示談がされた場合においては、示談によつて被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。」

ただし、交通事故と後遺障害の因果関係の立証なども含め、ハードルが高いのは間違いないと思われます。

7 交通事故の示談の際は、ぜひ弁護士へ相談を

以上のように、示談書(免責証書)に署名・捺印することは、重要な意味を持ちます。
安易に署名・捺印してしまうと、あとになって後悔することになってしまいます。

弁護士費用特約を利用できる場合、法律相談の費用は保険会社が負担してくれますので、実質的に無料で弁護士のアドバイスを受けることができます。
また、弁護士費用特約を利用して、弁護士に依頼をすることもできます(通常は、弁護士費用特約を使っても等級は下がりません。詳細につきましては、ご自身の加入する保険会社へお問い合わせください。)。

示談の前に、ぜひ一度、弁護士に相談し、納得した上で示談をされることをおすすめします。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 赤木 誠治
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