遺言者は、遺言により「相続分の指定」をすることができます。一方、相続債務の債権者は相続人に法定相続分に従った請求が可能であるなど、注意するべき点も存在します。この記事では、民法第902条の2の紹介も交えて、相続分の指定について解説します。

民法の定める「相続分の指定」

遺言者は、法定相続分とは異なる割合での「相続分の指定」をすることができます。
一方、相続債務の債権者は法定相続分に従った請求が可能であるなど、注意するべき点も存在します。
この記事では、新設された民法902条の2の紹介も交えて、相続分の指定について解説します。

相続分の指定とは

遺言では、相続財産を誰にどう相続させるか(あるいは遺贈するか)を指定することができます。
「自宅を配偶者に残す」といったような、特定の財産を特定の人物へ相続させるといった内容を遺言することもできますが(これを「特定財産承継遺言」と呼ぶこともあります。)、特定の財産を指定するのではなく、「相続財産のうち、半分を長男へ、4分の1を二男へ、4分の1を三男へ」といったように、割合を指定することもできます。これを「相続分の指定」といいます。

第902条第1項
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。

もともと民法は、法定相続分という「原則的な割合」を定めています(民法900条)。
例えば、相続人が配偶者、子Aおよび子Bの計3人である場合には、法定相続分は、原則、配偶者が2分の1、子らが各4分の1となります。

ここで、遺言者が「配偶者は自分と同じでもう高齢だから、若い2人の子で財産を分けるようにして欲しい」と希望したとすると、遺言で「相続財産の2分の1を子Aへ、2分の1を子Bへ相続させる」という相続分の指定をすることが考えられます。

なお、相続分の指定によって相続人の遺留分が侵害される場合には、相続開始後、遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。遺された相続人や受遺者の間のトラブルを避けたい場合には、遺留分にも配慮した遺言を残すようにしましょう。

遺留分に関する詳しい解説はこちら
→参考:遺留分について

相続分の指定は遺言で行う

相続分の指定は「遺言」で行うこととされています(民法902条1項)。
したがって、例えば被相続人が生前に「相続財産は全部(100%)長男にやってくれ」と言っていたとしても、そのような内容の遺言が無い限りは、相続分の指定としては無効ということになります。

これは、民法の定めた原則(法定相続分)と違う割合を指定する以上、「言った」「言わない」などの相続人間の無用な紛争を回避するためにも、方式に則った遺言で被相続人の意思を明確にすることが必要と考えられたからです。
法定相続分とは違った相続財産の分け方をして欲しい希望がある場合には、必ず遺言というかたちで、その意思を遺すようにしましょう。

相続分の指定を第三者に委託することもできる

遺言を作成する段階で遺言者が相続分の指定をしない場合でも、遺言によって相続分の指定を第三者に任せることもできます(民法902条1項)。

遺言をした時期と遺言が効力を持つ時期(相続開始時)は時間的に離れていることもありますから、事後を任せられる人物に、相続開始時の状況を踏まえて相続分の指定をするように託すということもできるのです。

法定相続分を超える場合には登記等が必要

相続分の指定を受けて、法定相続分を超える特定財産を取得した相続人は、登記等の対抗要件を備えなければ、その法定相続分を超える部分について第三者に対抗することができません(民法899条の2第1項)。
したがって、遺言で相続分の指定を受けて、多く相続財産を取得することになった相続人は、なるべく急いで登記などを行うようにしましょう。

相続人に相続債務(借金など)があった場合は注意――改正後の新民法902条の2について

相続分の指定では、相続財産に対して、割合的にそれぞれの相続人の取り分を定めますが、相続財産の中にはプラスの財産のほかにマイナスの財産(相続債務)が含まれることがあります。
典型的なものは金銭債務(借金など)です。
このような相続債務の義務の負担については、民法改正前から、判例(最判平成21年3月24日)によって下記のように処理されることが示されていましたが、この度、新設された民法902条の2によって明文化されることとなりました。

民法902条の2
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

以下、詳しく解説します。

①債権者は法定相続分に従って請求できる(相続人は相続分の指定があるからといって法定相続分に従った支払いを拒否できない)

まず、被相続人が相続開始時において有していた債務(相続債務)の債権者は、遺言により相続分の指定があった場合でも、各相続人に対して、法定相続分に応じてその権利を行使して、請求をすることができます。
これは、遺言という債権者の関与しないところで債務の帰属先や割合が決められてしまうとすると、債権者にとって不公平であるためです。
したがって、例えば、相続人のうち1人が100%の相続財産を相続するよう相続分の指定があった場合でも、相続債務の債権者は、各相続人に(すなわち相続財産を相続しない相続人にも)、法定相続分に従って支払いを請求できることになります。

②債権者が指定相続分の割合による債務の承継を承認した場合には、指定された相続分に応じた支払いをすれば良い

①で法定相続分に従った権利行使を可能としたのは、債権者にとって不公平が生じ得るからです。

したがって、債権者が、指定相続分の割合に従って債務についても各相続人が承継したことを承認した場合には、債権者を保護する必要性はないということになります。また、債権者にとっては、相続分の指定によって多くの相続財産を取得した相続人に、割合的に多く請求して債権を回収できる可能性もあります。

このことから、902条の2の但し書では、「債権者も相続分の指定に従う」という選択肢を与えることになりました。
なお、一度債権者が「相続分の指定に従う」と相続人に対して承認をした場合には、債権者は法定相続分に従った請求はできないようになりますので、注意が必要です。

③法定相続分を下回る相続分を指定されていた相続人が、法定相続分に従って支払いをした場合には、その超過分を、他の相続人に対して請求する(求償する)ことができる

上記①のとおり、債権者が法定相続分に従って支払いを請求した場合、相続分の指定によって法定相続分より少ない財産しか得られなかった相続人は「不公平だ。相続財産をいっぱいもらった相続人に負担させたい」と思うことでしょう。

ここで、相続人同士の間では、遺言があり、その相続分の指定に従うことになっています。このことから、法定相続分を下回る相続分を指定されていた相続人が、法定相続分に従って「多く」支払いをした場合には、その超過分を他の相続人に対して請求することができると考えられています(この請求を「求償」といいます。)。

このような求償を行うことによって、相続人の間では、相続分の指定の通りにプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐことになるのです。

まとめ

この記事では、遺言による「相続分の指定」と、相続分の指定があった場合の相続債務の負担の規律について解説してきました。
特に相続債務がある場合には、債権者による法定相続分に従った請求がなされる場合もあり、遺言者も相続人もそれぞれ注意する必要があります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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