自転車やバイクに乗っているときに交通事故に遭い、手首を骨折してしまうことは珍しくいことではありません。一口に手首の骨折と言っても、後遺障害が問題になることもあります。このコラムでは、手首を負傷してしまった場合、どのような賠償を受けることができるのか解説します。

1 手首を構成する骨

手首は下記のように複数の骨で構成されています。

(1)前腕骨
前腕骨は手首から肘までの2本の骨です。前腕骨は、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)で構成されています。

(2)橈骨(とうこつ)
橈骨(とうこつ)は、親指側につながる骨です

(3)尺骨(しゃっこつ)
尺骨(しゃっこつ)は、小指側につながる骨です。

(4)橈骨遠位部(とうこつえんいぶ)
橈骨遠位部(とうこつえんいぶ)とは、橈骨(とうこつ)の手首付近の部分をいいます。

2 手首の骨折の種類

一口に骨折と言っても、下記のように様々な種類があります。

(1)単純骨折
皮膚表面から折れた骨が露出していない状態の骨折のこと。

(2)圧迫骨折
骨が潰れたように変形してしまった状態の骨折のこと。

(3)粉砕骨折
骨が粉々に砕けた状態の骨折のこと。

(4)剥離骨折
外部からの衝撃により靭帯や腱の結合部分から骨が剥がれた状態の骨折のこと。

(5)解放性骨折
骨が折れると同時に、同部位の皮膚も損傷して皮膚から骨が露出した状態の骨折のこと。

(6)橈骨遠位端骨折
手首のところで前腕の2本の骨のうちの橈骨が折れる骨折のこと。

骨折とは、いわゆる「骨がポキっと折れた状態」のことをイメージしますが、実は「ヒビ」も骨折に含まれます。
診断では「ヒビ」といわれると少し安心されるかもしれませんが、実際には“ズレていない骨折”の呼称に過ぎません。
例えば、骨の一部が欠ける・潰れる・凹むなどの状態も「骨折」と呼びます。
放っておくと、後遺症などが残る可能性がありますので、適切な治療やリハビリが必要不可欠です。
手首の骨折により「腱が切れる」「手根管症候群」などの神経障害や合併症が起こることが懸念されますので、治療に専念することが何よりも大切です。

3 手首骨折による後遺障害

ある程度の治療を行ったものの何らかの症状が残り、これ以上の改善は見込めないと医師が診断した状態を、「症状固定」といいます。残ってしまった症状については、後遺症として後遺障害認定の申請を行うことになります。
手首骨折で生じうる代表的な後遺障害としては、骨折部に痛みやしびれが残る「神経症状」、手首の関節(手関節)の可動域に制限が生じる「機能障害」、骨折部の高度な変形や偽関節が残る「変形障害」などが挙げられます。ここからは、それぞれの後遺障害について、該当する等級と具体的な内容を紹介します。

(1)神経症状

一定の治療を行っても患部に痛みやしびれなどの「神経症状」が残ってしまった場合に、認定を受ける可能性があります。

後遺障害14級9号:局部に神経症状を残すもの
後遺障害12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

14級9号は、いわゆるむち打ち等のように他覚症状がなく自覚症状のみの場合をいいます。後遺障害等級は、骨折の状態や治療状況、骨癒合状態などから、総合的に評価されることになります。

(2)機能障害

手首の骨折により、手首の運動に制限を残した場合に認定される可能性があります。

後遺障害12級6号:1上肢の3大関節の1関節の機能に障害を残すもの
後遺障害10級10号:1上肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの
後遺障害8級6号:1上肢の3大関節の1関節の用を廃したもの

手首の機能障害は原則として、「患側(骨折した側)」の手首の可動域角度と、「健側(骨折していない側)」の手首の可動域角度の比較で認定されます。手首においては、手首を屈曲(手のひら側に曲げる動き)、および伸展(手の甲側に曲げる動き)させる運動の合計可動域角度を対象として、健側と比較して患側の可動域が、3/4以下に制限されていれば「12級6号」、1/2以下に制限されていれば「10級10号」、強直状態(おおむね1/10以下の制限)であれば「8級6号」が認定されます。

単純に数値として認定要件に達していれば認定されるというわけではなく、骨折状況や治療経過、骨癒合状態(変形の有無や関節面の状態)などから、総合的に評価されます。
可動域制限のほかにも機能障害として評価される障害は多く、以下で紹介します。

① 人工関節・人工骨頭

後遺障害の認定において、関節自体を人工関節・人工骨頭に置き換えた場合には、「10級10号」で評価されます。さらに、可動域が1/2以下に制限されていれば、「8級6号」で評価されます。ただし、手首においては人工手関節がほとんど普及していないため、目にする機会はほぼないものといえるでしょう。

② 回内・回外運動

手首を内側・外側に回す運動ですが、これは手首ではなく、前腕の機能障害として評価されます。健側と比較して、1/2以下の制限で「12級」、1/4以下の制限で「10級に準じた等級」として評価されます。

③ 動揺関節

可動域制限とは逆に、骨折などにより関節が異常な運動(ぐらつき・緩み)を示す場合、常に硬性補装具を必要とするものは「10級10号」、ときどき硬性補装具を必要とするものは「12級6号」で評価されます。

(3)変形障害

後遺障害12級8号:長管骨に変形を残すもの

長管骨とは、上肢における上腕骨・前腕骨(橈骨・尺骨)、下肢における大腿骨(だいたいこつ)・下腿(かたい)骨(こつ)(脛(けい)骨(こつ)・腓(ひ)骨(こつ))を指します。すなわち、手根骨の骨折については、変形を生じていても認定対象とはならないのです。以上のことから、手首骨折で変形障害の対象となる変形とは、長管骨の骨端部に癒合不全(偽関節)を残したとき、もしくは、骨端部のほとんどを欠損したときが想定されます。
「主な手首骨折の種類」でご説明したように、特に「尺骨茎状突起骨折」は、骨癒合が得られないことが多く、変形障害を残しやすいといえます。そのほか、橈骨・尺骨の両方が15度以上屈曲して、変形癒合した場合も認定対象となりますが、現代の医療事情ではそのレベルの変形を残すことは少ないようです。

※手首に近い前腕の骨(橈骨・尺骨)が正常に癒合しなかった場合は「8級8号:1上肢に偽関節を残すもの」、常に硬性補装具の装着が必要となった場合は「7級9号:1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」に該当する場合があります。

(4)欠損障害

骨折により、骨折した部位の周囲組織を激しく損傷すると、受傷部(事故に遭って、ケガをした部位)を修復しても血流が回復せず、患部が壊死してしまうことがあります。そうなると生命に危機がおよぶため、患部の切断が選択される可能性もあります。

後遺障害2級3号:両上肢を手関節以上で切断したもの
後遺障害5級4号:1上肢を手関節以上で切断したもの

手関節以上で切断したものとは、肘関節と手関節との間を切断したもの、手関節において橈骨・尺骨と手根骨とを切断(離断)したものを指します。

4 後遺障害による賠償金

手首骨折による後遺障害が認められた場合、治療期間に対応して発生する損害(通院慰謝料含む)とは別に、後遺障害に関連する損害を請求することができます。
後遺障害に関連する損害とは、主に「後遺症慰謝料」と「後遺障害逸失利益」の2つを指します。症状や後遺障害の等級によっては、将来発生することが見込まれる介護費用や手術費用などの請求も可能です。

(1)後遺症慰謝料

後遺症慰謝料は、治療期間に発生する損害として請求できる慰謝料(通院慰謝料)とは別に、請求することができます。後遺障害の各等級ごとに支払金額が基準化されています。
手首骨折によって見込める後遺症慰謝料は、以下の表のとおりです。

① 神経症状(手に痛みやしびれを残した状態)

等級 自賠責基準 裁判基準
12級9号
(局部に神経症状を残したもの)
32万円 ~110万円
12級13号
(局部に頑固な神経症状を残したもの)
94万円 ~290万円

※令和2年4月1日以降の事故の場合

② 機能障害(運動機能に制限を残す、脱臼しやすくなった等)

等級 自賠責基準 裁判基準
12級6号
(1上肢の3大関節の1関節の機能に障害を残すもの)
94万円 ~290万円
10級10号
(1上肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの)
187万円 ~550万円
8級6号
(1上肢の3大関節の1関節の用を廃したもの)
324万円 ~830万円

※令和2年4月1日以降の事故の場合

③ 変形障害(手首の骨が変形している)

等級 自賠責基準 裁判基準
12級8号
(長管骨に変形を残すもの)
94万円 ~290万円
8級8号
(1上肢に偽関節を残すもの)
324万円 ~830万円
7級9号
(1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの)
409万円 ~1,000万円

※令和2年4月1日以降の事故の場合

④ 欠損障害(患部の切断が必要)

等級 自賠責基準 裁判基準
5級4号
(1上肢を手関節以上で切断したもの)
618万円 ~1,400万円
2級3号
(両上肢を手関節以上で切断したもの)
998万円 ~2,370万円

※令和2年4月1日以降の事故の場合

このように、裁判基準は、自賠責基準よりも総じて金額が高く、場合によっては自賠責基準の倍以上の金額となることもあります。
また、上記の表は、手首骨折によって後遺障害等級の認定を受けた場合を想定したものです。手首骨折以外の症状がある場合、その症状に対しての後遺障害が認められ、手首骨折と併合した後遺障害として認定を受けることで、結果的に等級が上がるケースもあります。

(2)後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合、その被害者は、今後改善が望めない後遺症を負ってしまい、治療が終わったあとも日常生活に影響が残ってしまっていることから、労働能力にも影響があると考えられています。
そこで、労働能力が制限される度合いと、制限されると見込まれる期間、収入能力から、得られなくなる(逸失してしまう)であろう収入(=利益)を計算したものを、「逸失利益」として請求することができます。

上記の表で紹介した「裁判基準」と呼ばれる賠償金の計算方法等を記載している「損害賠償額算定基準」、通称“赤い本”と呼ばれる参考資料では、逸失利益の算定方法を以下のように記載しています。

「逸失利益の算定は労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行う」

まず、逸失利益は、「基礎収入」を基に計算されます。基礎収入とは、直近の年収を用いることが一般的です。直近の年収を採用することは不適切とされる、家事従事者(主婦・主夫等)を始め、金銭を受け取っていない労働者など、具体的な年収を示すことが困難である場合は、賃金センサス(厚生労働省が発表している日本の賃金に関する統計)と呼ばれる「平均賃金」を用いて算定することがあります。

次に、労働能力が制限される度合いは、「労働能力喪失率」と表現されます。後遺障害の程度によって、5%~100%の制限を受けるとされています。

続いて、労働能力が制限されると見込まれる期間は、「労働能力喪失期間」といいます。
労働能力喪失機関は、基本的には、症状の改善を見込めなくなった時期(症状固定日)における年齢から67歳までの期間で計算します。

そして、それぞれの数字を確定したところで、すべてを掛け合わせることで後遺障害逸失利益を計算することになります。

(3)こちらもご参照ください

後遺障害の認定から後遺障害に基づく損害項目等については、当事務所の専門サイト上のコラム(下記URL)でも詳しく解説していますので、そちらも併せてぜひご覧ください。
https://www.g-koutujiko.jp/koisho/

5 まとめ

手首の骨折等の傷害を負った場合、これまで解説してきたように、様々な種類の後遺障害を負う可能性があります。
適切な賠償を受けるためには、お医者さんとご相談されながらしっかりと通院していただくことが大切です。
そのうえで、弁護士が裁判基準に基づき損害額を計算し、保険会社と交渉することで、事故に遭われた方にとって最も大きな利益となる賠償を受けることができます。
そのため、交通事故でこのような被害に遭われた場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 権田 健一郎
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