不倫の慰謝料請求にも請求できる期間があります。3年で消滅する、20年で消滅するなどと言われますが、どうなのでしょうか。また、いつからその期間が進行していくのか、ご紹介いたします。
不倫(浮気の)慰謝料を請求したい。請求できる期間(時効)とは
1 不倫(浮気)の慰謝料請求の根拠
配偶者が不貞行為を行い、婚姻関係が破綻をするなどし、精神的な苦痛を負うに至った場合、不貞された他方配偶者は、不貞行為をおこなった配偶者及びその相手方(配偶者が不貞をした相手方)に対し、その損害を賠償することができるとされています。
このような請求をすることができる根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条、710条)となります。
この不法行為に基づく損害賠償請求権には、時効があります。つまり、不貞慰謝料の請求権については、請求をすることができる期間が定められています。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
第1号 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
第2号 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
この条文では、第1号に3年とありますが、第2号には、20年とあります。
この期間制限については、不倫(浮気)の慰謝料請求の場合、どのように考えられているのでしょうか。
2 不倫(浮気)の慰謝料請求の3年の消滅時効
3年の時効が進行をするのは、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」からです(民法724条第1号)。
例えば、被害者であるAさんが、Aさんの配偶者Bさんの不貞相手であるCさんに対し、慰謝料の請求をする場合、には、損害を被ったこと(不貞行為の存在を知り精神的な苦痛を被り、損害を被ったことなど)を知ったとき、及び、加害者がCさんであることを知った時からから進行します。
そのため、Aさんが、配偶者Bさんの不貞相手がCさんであると知らなかった場合、Cさんに対する不貞行為の慰謝料請求権の時効は進行しないと考えられます。
他方、Aさんが、配偶者であるBさんに対して損害賠償を請求したいと考えた場合、AさんはBさんがAさんに対する加害行為をおこなっていることは知っていますので、基本的には3年の消滅時効にかかると考えられます。
もっとも、配偶者であるBさんに対し慰謝料の請求をする場合、Bさんの不貞行為が離婚の原因である場合には、不倫の慰謝料請求としてではなく、離婚(Bさんの不貞行為が理由で離婚に至るという離婚の慰謝料)として、評価される可能性もありますので、仮に3年が経過していても、Bさんに対する慰謝料請求は実質的な意味において可能となる場合もありえるかもしれません。
そのため、不倫(浮気)の事実が明らかになっており、不倫相手が誰であるかわかっている場合には、3年の期間制限がありますので、注意が必要です。
3 不倫(浮気)の慰謝料請求の20年の消滅時効(改正前民法では、除斥期間)
20年の時効が進行をするのは、「不法行為の時」からです。
すなわち、不倫(浮気)である、不貞行為をしたとき。から進行します。
改正前の民法では、この期間を除斥期間として、期間の経過とともによって請求できなくなると考えていましたが、改正により「時効により消滅する」との規定になりましたので、この規定も「消滅時効」であると考えられます。
先にかかげた、Aさん(不貞慰謝料の請求を求めたい方)、Bさん(不貞をしたAさんの配偶者)、Cさん(Bさんの不貞相手)として説明しますと、
Aさんが、BさんとCさんとの間で、23年前に1度不定行為があった場合、Aさんが23年後にBさんから聞かされて発覚したとしても、すでに「不法行為の時」から20年の期間を経過してしまっています。
そのため、Aさんは残念ながら、Bさん、Cさんに対し、不倫(浮気)の慰謝料を請求することができません。
他方、Aさんが、Bさんが、10年前にCさんとの間で不貞行為をおこなっていたことを知った場合(Aさんが、Bさんの不貞相手がCさんであることを同時期(不倫(浮気)から10年後)知ったとします)、この場合は、不法行為の時から20年経過しておらず、また、3年の消滅時効の期間の経過の要件も満たしていません。
そのため、Aさんは、Bさん、Cさんに対し、不倫(浮気)の慰謝料の請求をすることができます。
4 不倫(浮気)を離婚をする現在までも継続している場合は?
例えば、Aさんは、BさんがCさんと不倫(浮気)をしていることを知ったが、その当時は、BもCも別れると述べていたので、慰謝料の請求をしなかったとします。
その後、5年後に現時点でも、不倫(浮気)の関係を継続しているという場合にはどうでしょうか。
この場合には、継続的に不倫(浮気)をしていたといえる場合には、現時点でも不倫をしていますので、時効により消滅することはないと考えられます。
5 期間が間近に迫っている場合の対処方法
上記のように、時効がありますところ、時効期間が間近に迫っている場合、どのようにすれば、この期間制限を延長することができるのでしょうか。
民法では、時効の「完成猶予」と「更新」(旧民法ですのと、時効の「中断」などと述べていました。)の事由が定まっており、民法所定の行為を行えば、完成猶予(すなわち、時効が消滅しようとしていたところ、一定期間完成しない(期間の計算がストップする状態)となり、その後の経過により、新たに時効が進行する(新しい期間が進行する)という形になります。
そのため、時効期間が間近に迫っている場合には、次のような行為をする必要があります。
(1)裁判上の請求等(民法147条)
民法147条には、「裁判上の請求」をしたときには、時効は完成しない(=時効の完成が猶予する)としています。そして、確定判決等によって権利が確定した場合には、その事由が生じたとき(=裁判上の請求の事由が終了したとき)から、時効が進行する。としています。
つまり、裁判上の請求である、訴訟等をおこなった場合には、時効は完成しませんが、判決などで集結した場合には、新しく時効が始まるということになります。
そのほか、支払督促等も裁判上の請求等に記載がありますが、不倫(浮気)の慰謝料請求をする場合には、訴えを提起することが多いと思います。
(2)強制執行等による時効の完成猶予及び更新
強制執行等を行う場合も、時効の完成猶予がされ、終了したときに、新しく時効がいちからカウントし始めます(取り下げなどで終了した場合は除く)。
(3)仮差押え等による時効の完成猶予
仮差押等を行う場合も、仮差押等を行い、それが終了してから6ヶ月が経過するまでは、時効の完成が猶予されます。(この場合は更新はありません。)
(4)催告による時効の完成猶予
催告をした場合は、催告から6ヶ月の間は時効の完成が猶予されます。
ただし、時効の完成が猶予されるだけですので、催告をした結果、6ヶ月の間に何も結論がでないと、時効が完成してしまいます。
そのため、内容証明などを送付し、支払いの催告をし、時効をとめた上で訴訟を起こすということになることが多いと思われます。
(5)協議を行う旨の合意による時効の完成猶予
協議を行う旨の合意を書面でおこなった場合には、合意から1年、あるいは、合意によって定めた期間(1年未満)などには、その間は時効は完成しません。
(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第151条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
第1号 その合意があった時から一年を経過した時
第2号 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
第3号 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
(第2項 以下省略)
(6)債務の承認
債務者が債務があることを承認した場合には、新しく時効が進行します。
6 対応方法(まとめ)
時効の完成をさせないための方法としては、上記のような方法がありますが、訴訟等の準備ができるだけの時間的余裕がある場合には、訴訟を起こすこともあります。
他方、消滅時効の期間経過がギリギリである場合には、催告(内容証明郵便等を送付)をし、完成をさせないようにしておき、訴訟を行うということが多いように思われます。
7 まとめ
消滅時効には、3年と20年の期間があります。
ご自身が、どのような立場に置かれているかにより、急ぎ3年の時効消滅前に対応をしなければならないときもあります。
もちろん、どのように判断をするべきかは、迷うことも多いと思います。また、時効完成が直前となっている場合には、上記のような対応(訴訟、内容証明郵便を送付して催告)をしなければなりません。
本件では、一般的なお話をしました。基本的なベースは、3年、20年となりますが、一度時効について危ないと思った場合には、弁護士などに相談することをおすすめいたします。
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