通勤中や勤務中に事故・ケガをした場合、通常は労災の問題となります。しかし、事情により労災を使用しないケースもあります。そのような場合、どうすべきか、デメリットはありか等について詳しく解説をしていきます。

労災申請は必ず行わなければならないのか

会社での勤務中にケガをしたり、交通事故にあった場合は、一般に労災の申請をすることが多いと思います。労災認定を受けることができれば、労災保険から様々な補償を受けることができます。例えば、治療費や、休業損害、後遺障害が残った場合は、逸失利益に相当する補償などです。

しかし、労働者の中には、「労災を使うと会社が嫌がる」とか「労災を使うまでもないケガ」「ほかに保険がある」など、様々な理由で労災の使用を控えたい場面があるかもしれません。
実は、労災保険を請求する権利はありますが、労働者が申請するかどうかは自由です。

したがって、会社での勤務中にケガをしたり、交通事故にあった場合でも、必ずしも労災扱いにしないといけないわけではありません。
それによる制限もあるので、以下見ていきます。

労災保険を使用しないことによるデメリット

労災保険を使用しないということは、労災からの補償が無いことになります。ケガをした場合どうすればよいでしょうか。

労災の場合健康保険が使用できない

労災事故の場合は、健康保険は使用できません。
したがって、業務中や通勤中に発生したケガや病気について、労災申請を行わない場合は、治療費等は全額自己負担となります。
誤って健康保険を使用してしまうと、後から健康保険が立替えた分の全額返還を求められる可能性もあります。

健康保険を使用すると、一般的に、1割負担や3割負担で済むので、1万円の治療費がかかっても、1000円・3000円などの自己負担で済みます。それが、この例ですと1万円全額を病院で支払わなければならなくなります。
健康保険を使用できないと、かなりの経済的負担になりますので、最大のデメリットと言えます。

※誤って健康保険を使用した場合の対応について厚生労働省の回答を引用します。

健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei26.html
(回答 厚生労働省)

治療費以外に十分な補償が受けられない

労災保険では、労災と認められれば、以下のような補償を受けることができます。

療養補償給付
→診察、薬剤や治療材料の支給、処置・手術その他の治療、居宅における看護、病院等への入院や看護などの療養の給付

休業補償給付
→療養中の休業4日目から給付基礎日額の80%が支給されます。

障害補償給付
→後遺障害が残った場合には、一定額の年金または一時金が支給されます。

遺族補償給付
→労災により労働者が死亡した場合には、遺族の方へ、遺族補償年金が支給されます。

その他の給付
→葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付などがあります

例えば、ケガで会社を休んだ時に会社が休業補償を出してくれなくても、労災から、給与の80%は支給を受けることができます。

また、後遺障害が残ってしまった場合も、等級により、障害補償給付を受けることができます。労災申請をしないと、これらを受けることができなくなってしまいます。
これが労災申請をしないデメリットになります。

労災を使用するメリット

上に書いたことの裏返しになりますが、

・治療費の負担がゼロになる
・各種補償がある

という点がメリットになります。

しかも、労災を使用しての治療は、期間を、比較的、緩やかに見てくれる傾向にあると思います。例えば、交通事故でむちうちにあった場合は、保険会社に頼ると3か月くらいで治療費を打ち切られることもありますが、労災の場合は、6か月以上通っても特になにも言われないというケースをよくみます(もちろん、症状や事案によります)。

労働者からすれば、労災は、「使った方がよい」制度になります。

労災を使用すると会社の評価が下がるということを気にする方もいるようです。
たしかに、会社によっては、手続きがめんどくさいから使わせないようにする会社もあると聞きます。

しかし、労災保険を使用したからといって評価を下げるのは不当な評価といえますし、いわゆる労災隠しにあたる可能性もあります。

労災隠しについて

会社としても労災を使用しないほう良いのでしょうか。

結論として、労災事故(休業を伴う)を認知したのに労働者死病報告を提出しない場合は、労災かくしにあたる可能性があります。仕事中の負傷等により労働者が休業したり死亡した時は、事業主は、所轄の労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出しなければなりません。

労災申請をしたら保険料が上がるのではないかと考えている方も多いようです。

この点、保険料があがるかどうかは、「メリット制」が適用される事業かどうかによって異なります。
メリット制の説明は、以下の厚労省のページをご覧ください(リンク先下部)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/gyousei/index.html

メリット制の適用がない場合は、労働保険料はあがりません。

会社としては、労災事故にあたる場合は、労働者のためにもきちんと労災申請をするべきでしょう。

※「労災かくし」とは、事業者が労災事故の発生をかくすため、労働者死傷病報告(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)を、
(1)故意に提出しないこと
(2)虚偽の内容を記載して提出すること
をいいます。
(罰則)
→50万以下の罰金
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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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