続財産をめぐる協議は決して簡単なことではありません。遺産分割協議から離脱する方法としての、相続分の譲渡について詳しく解説していきます。さらに、相続分を譲渡する方法と、それに伴う法的問題についても詳しく説明します。
相続分の譲渡とは?
自身の相続分は譲渡できるのでしょうか。
結論として、相続分は譲渡できます。
自身の相続分を譲るのですから、他の相続人の了承は特に不要です。
法律的に言うと、「遺産全体に対する共同相続人の包括的持ち分または法律上の地位を譲渡すること」となります。
つまり、「相続分の譲渡」は、プラスもマイナスも含めた遺産全体に対して、譲渡人となる相続人の持つ割合的持分の移転を言います。
どういう方が相続分を譲渡しているのか。
たとえば、
「最近、疎遠の親族が亡くなり自分が相続人であることを知らされた。他の相続人と遺産の相談をするのも気が引ける。そこで、親を助けてくれた兄弟に遺産を譲りたい」
「自分は、遺産を少しだけもらえれば良いので、相続分を有償で譲渡して、●円だけもらう」
このような状況で、相続分を譲渡することがあります。
相続分の譲渡の民法上の根拠
→民法905条1項
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
相続分の譲渡がされる主な2つのケース
1 第三者への譲渡
たとえば、内縁の妻(夫)などの、本来的に相続人として扱って良いような第三者に対し、相続人の一人が相続分を譲渡し、その者が遺産分割協議に参加することが考えられます。
2 多数の相続人を整理するため
相続人が、5名も10名もいる等、遺産分割協議が難しいケースがあります。そのような場合に、相続分を有償で譲渡し、遺産分割協議に参加する当事者を減らして整理することが考えられます。
たとえば、A、B、C、Dの4名が相続人の場合、AとBとCグループとDという構図で争いがあるとします。そうした場合、AとBは、「もうこの争いから抜けたい、少しだけ相続分をもらえれば良い。あとはCに任せる」という場合は、Cに相続分を譲渡することによって、この状況から抜けることが可能です。そうすると、あとは、C(AとBから相続分をもらった)と、Dの争いになり、当事者の整理ができます。
相続分を譲受けた人の地位はどうなるか
1.譲受人は、譲渡人が持っていた持分割合をそのまま「承継取得」することができます。
そして、遺産分割協議に関与することになります。
2.また、債務(借金)も承継することになります。
ただし、債権者の意思とは関係なく債務を付け替えることはできないので、対外的には、譲渡人が債務を負った状態になります。
相続分を譲り渡した人の地位はどうなるか
1.実務では、相続分を譲り渡した者は、遺産分割の当事者にはなれないとされています。
2.債務については、上で触れたとおり、対外的には債務を負うことになります。
相続分の譲渡と相続放棄は何が違うのか
相続分の譲渡も、相続分の放棄も、わずらわしい遺産分割協議に参加しなくてもよくなるという点では、同じような効果があると言えます。
ただし、法律的には異なりますので、それぞれの状況に応じて、どちらを選択するか判断する必要があります。
相続放棄について
まず、「相続放棄」を見てみましょう。
相続放棄の条文は、以下のようになっています。
民法939条
「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」
つまり、相続放棄は、はじめから相続人ではないと扱われるので、財産も継げませんが、債務を負うこともありません。プラスの相続分よりも、マイナスの相続分(負債)が多い場合に、遺産分割協議から抜けたいという場合は、相続放棄をまず検討することが多いです。
また、相続放棄は、家庭裁判所での申述が必要です。
相続放棄について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご参照ください。
相続分譲渡について
相続放棄との比較で言えば、必ずしも裁判所で手続きをする必要はありません。実務では、「相続分譲渡証明書」というような書面を作り、それに押印して印鑑証明書を添付すれば、大体の手続きはすることができます。
また、相続放棄の場合は、その方が放棄した場合、その方の持っていた相続分が、自動的に他の相続人に回ることになります。ご自身が相続放棄したからといって、特定の方に相続分を渡すことができません。
他方で、相続分の譲渡は、ご自身が選ぶ特定の方に譲渡をすることができます。
相続分の譲渡で一番気をつけることは、上でも述べたように、マイナスの財産すなわち、債務は支払う義務が残る点です。
何も考えずに譲渡すると、プラスの相続財産は何も得られなかったのに、債権者から請求をされるという事態も考えられるところです。
相続分の放棄
まぎらわしい概念として、「相続分の放棄」があります。「相続放棄」ではありません。
相続人としての地位は保ちつつ、相続分だけを放棄する場合です。
遺産分割調停に巻き込まれた相続人が、これをする場面が多いと思われます。
調停での相続分の放棄は、契約ではなく放棄者の一方的意思表示で効力が生じる単独行為ですので、放棄する人だけの署名押印(書面作成)でできます。
相続分の放棄は、相続放棄の申述(民法915条)とは異なり、遺産分割における取得分をゼロとするものであるので、相続債務はそのまま負担することになります(相続人たる地位を失わない)ので、注意が必要です。
相続分の譲渡と調停の関係について
Q:遺産分割調停の申立て前に、他の相続人に対して相続分を譲渡した相続人は、調停手続の当事者として参加しなくても良いですか?
A:実務では、調停申立時に、譲渡人が譲受人に相続分を譲渡したことを証する文書の原本(譲渡証書等)を提出すれば、譲渡人は,当事者として手続に参加する必要はありません。
(譲渡人には当事者適格がなくなる)
譲り渡したのに、調停を申し立てられた方は、家庭裁判所に、譲渡証書を提出すれば、「排除」してもらうことが可能です(必ず排除されるわけではない)。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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