このページは、有責配偶者(例えば、不倫が原因で夫婦関係を壊した配偶者)からの婚姻費用請求が認められるのかについてお悩みの方へ、実際の裁判例を参考に専門家が解説する内容となっております。
婚姻費用とはなに?そもそも有責配偶者からの婚姻費用請求が認められるの?など素朴な疑問をお持ちの方はぜひ読んでみてください。

イントロダクション

「有責配偶者(例えば、不倫により婚姻関係を破綻させた者)からの婚姻費用支払請求なんて、おかしな話なのだから認められるわけないだろう」といった世間の声があると思いますが、実際の裁判例はどのように判断されているのか見ていきましょう。

そもそも、婚姻費用とはなに?

婚姻費用とは、民法760条「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」といった規定に基づき、夫婦のうち収入の多い方が収入の少ない方に支払われる生活費のことを指します。

夫婦に経済力の差がある場合、互いに支え合い、同じようなレベルの生活を相手型にも保障しなければならないことを意味します。

具体的には、
1 衣食住にかかる費用
2 子供の生活費・教育費(学費や学用品の購入費等)
3 医療費
4 出産費
5 冠婚葬祭費
6 必要と考えられる範囲の交際費・娯楽費
等が婚姻費用に含まれると考えられます。

婚姻費用はいつまで支払うの?

婚姻費用は、原則として「請求したとき」から支払い義務が生じ、「離婚が成立するまで」又は、「再び同居するまで」支払わなければなりません。

もし、婚姻費用を支払いたくないという理由で、婚姻生活をやり直すつもりもないにもかかわらず、同居だけ再開し家計に生活費を入れなかった場合、婚姻費用の支払義務はなくなりません。

婚姻費用と養育費の違いはなに?

婚姻費用と似たものとして、養育費があります。
養育費とは、未成熟子を育てるにあたり必要となる生活費や教育費のことをいい、離婚した後に、子を監護していない親から監護している親へ支払われます。
つまり、婚姻費用が離婚する前配偶者と子供の生活費を指すのに対し、養育費は離婚した後子供の生活費を指します。

有責配偶者からの婚姻費用支払い請求がなされたケース

1 横浜家庭裁判所平成29年6月9日審判・東京高等裁判所平成29年9月4日決定

(1)事案の概要

長男とともに生活している妻(申立人)が、別居中の夫(相手方)に対して、婚姻期間中の生活費として、婚姻費用の支払を求めた事案です。

妻の主張
・夫が、「妻と男Bが、不貞関係にあるとし,長男の養育費相当分のみ支払う」と主張しているが、私は男Bと不貞関係にあった事実はない。
・私と夫との婚姻関係は,夫からの性的関係の強要などにより,遅くとも平成28年6月時点で,実質的に破綻していた。

夫の主張
・妻は、平成28年7月下旬以降、外泊をするようになり、ビジネスホテルで男Bとともに夕刻から未明まで一緒にいて、妻のこのような行動から、妻が男Bと不貞関係にあったことは明らかである。
・妻は、長男を連れて一方的に別居し,夫婦としての責任を放棄していることから、妻は有責配偶者であり,妻による婚姻費用分担請求は権利の濫用又は信義則違反であり,自分は申妻の分の婚姻費用を支払う法的義務を負わない。

(2)横浜家庭裁判所の判断

不貞関係の存否及び婚姻関係の破綻原因の特定については,離婚訴訟等においてなされるべきことであり、明らかに不貞関係が認められ、かつ、それが申立人と相手方との婚姻関係の破綻原因であることが明らかな場合を除き、日々の生活費を賄うための金額を定める婚姻費用の分担の審判において、これを積極的に詳細に審理することは相当ではない。

現段階において、明らかに不貞関係が認められ、かつ、それが申立人と相手方との婚姻関係の破綻原因であることが明らかであるとまではいえない。別居の経緯その他についても、現段階において,申立人が一方的に有責であるとはいえない。

したがって、申立人の婚姻費用の分担申立てが、権利の濫用又は信義則違反により、許されないということはできない。
→家庭裁判所は、夫に対し、同月分から平成29年5月分までの84万円及び同年6月から婚姻の解消又は同居まで、毎月末日限り,月額12万円の支払を命じたところ、夫は、これを不服として本件抗告をしました(東京高等裁判所へ)

(3)東京高等裁判所の判断

複数の証拠から認定できる事実によれば、妻の行動は、妻が男Bと不貞関係を持ったことを推認させるものである。
・・・妻と夫の婚姻関係が同年6月ないし9月初めに破綻していたと認めるに足りる資料はない。
配偶者以外の者と男女関係を持つことは、夫婦間の信頼関係を破壊する背信的行為といえ、そうした背信的行為に及んだ者が、別居中の配偶者に対し、婚姻費用として、監護している子の養育費分にとどまらず、自らの生活費に係る部分を加えて、婚姻費用の支払を請求することは、信義に反し、権利濫用に該当する行為というべき。

したがって、夫には、妻の生活費に係る部分を分担する必要はなく、妻は、夫に対し、婚姻費用として、長男を監護養育する費用部分に限り請求できることになる。

高裁は、夫は、妻に対して、婚姻費用として,73万円及び平成29年9月から当事者の婚姻解消又は同居まで毎月末日限り7万3000円を支払うべきであるとして支払いを命じました。

(4)まとめ

結果的に、有責配偶者(妻)からの婚姻費用請求について、子供の監護養育費用部分については認められ、妻自身の生活費の部分については、信義則に反し、権利濫用に当たるため認められないと判断されております。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 安田 伸一朗
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