相続が発生した際に、その相続をめぐる関係から抜け出したい、相続放棄をして面倒なことにはなるべく関わりたくないという場合もあるかと思います。しかし、相続は生きていくなかで何度も経験することではありませんから、手続きの遂行に戸惑いがちです。
そこで、相続放棄とはそもそもどういう手続きであるか、どうやってやるのか、その流れについてご案内致します。

そもそも相続放棄とは?

相続とは、亡くなった方(相続される人という意味で被相続人といいます)の権利や義務について引き継ぐことをいいます。相続放棄とは、そのような被相続人の一切の権利義務を引き継ぐことのできる地位を放棄するという手続きです。

これは権利と義務と書かせていただいたように、被相続人の持つプラスの財産(不動産や預貯金など)もマイナスの財産(借金など)もすべて一律に放棄するという手続きです。そのため、被相続人に借金があるから相続放棄をしたが、実は被相続人には多額の預貯金があったという場合、その預貯金について権利を主張することはできないこととなるのです。

相続放棄の流れは?

では、相続放棄をするとしてもどのような流れになるのでしょうか。

①相続人の調査

まず、前提として相続が問題となるのか、自分がそもそも相続人となっているかということを検討する必要があります。また、誰が相続人かを知っておくことで今後のトラブルを避けることにもつながるので、相続人の調査を行うことは必須です。

②被相続人の財産の調査

相続人が確定して、自分が相続人となっていた場合、相続放棄をするべきか検討します。先に述べたように、相続放棄は、被相続人の一切の財産についての権利を失う手続きですから、被相続人の財産を調査することは何よりも重要です。相続人にはどういう財産があるのかをしっかりと調査する必要があります。

③書類集め

相続放棄は、原則として、裁判所に対して書類を提出して申立てをすることで行いますので、裁判所に提出することが求められている書類を集める作業が必要です。
相続人が被相続人とどのような関係にあるかにもよりますが、被相続人の住民票除票もしくは戸籍の附票、申立てする人の戸籍謄本、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本などを提出することが求められます。
こうした書類を整える作業を行います。

④相続放棄申述書の提出

必要な書類が整ったら、いよいよ相続放棄しますということを裁判所にいうために、相続放棄申述書という書類を作成します。

これは、相続放棄をこういう理由でしますということを裁判所に伝えるための書類で、集めた戸籍謄本などの書類と一緒に裁判所に提出する必要のある書類です。
この際、収入印紙を800円、予納郵券として地方によって異なりますが、いくらかの切手を納める必要があります。

なお、相続放棄申立ては郵送で行うことも裁判所に実際に提出しにいくことでも行えますが、申立てをする裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所となっていますから、管轄裁判所についても調べる必要があります。

⑤相続放棄照会書の送付

必要な書類をすべてそろえて裁判所に提出しても、相続放棄の手続きはまだ終わりません。相続放棄照会書という書類と一緒に回答書という書類が届きますので、回答書に必要な事項を記載して、裁判所へ送付する必要があるのです。

相続放棄は被相続人の一切の財産を放棄するという重大な手続きであり、その後の撤回が基本的に認められていないことから、本当に本人の意思で行ったものであるのか、相続放棄をできる状態か、ということを確認する必要があります。
そのため、相続放棄について確認する内容の照会書と、それについての回答を記載する回答書が送られてくるのです。

回答書自体は、簡単なチェックボックスで回答をするものですので、作成が大変なものではありません。
しかし、不備があると最悪の場合、相続放棄が認められないということになりかねないので、しっかりと作成する必要があります。

⑥相続放棄申述受理通知書の受領

相続放棄照会書の回答に不備がない場合、裁判所から、相続放棄申述受理通知書というものが届きます。
これでようやく相続放棄の申立てが裁判所によって受理されたということになり、相続放棄の手続きが完了します。

⑦相続放棄申述受理証明書の発行

相続放棄の申立てが受理された後、その旨を表示する証明書が欲しいということもあろうかと思います。そうした場合、裁判所に相続放棄申述受理証明書の発行をしてもらうために、申請書を提出する必要があります。

これは、裁判所に備え付けられた申請用紙に必要な事項を記載して、裁判所に提出することで行います。郵送でも行えますが、その場合には、返信用の切手を添える必要があります。申請用紙に記載することは、住所や名前などのごく簡単な事項です。
なお、申請する際には、1通につき収入印紙150円分を貼付する必要があります。

申請書を提出すると、証明書が発行されて申請書に記載した住所へ届けられます。

相続放棄ができない?

相続放棄の流れについて把握したとしても、相続放棄ができない場合に該当するなら、相続放棄をすることはできません。
法律では、一定の場合には相続をすることを承認したものとみなすという制度があり、これを法定単純承認といいます。法定単純承認にあたる事由があれば、相続放棄をすることが基本的にはできません。

法定単純承認にあたる事由としては、法律で、①相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、②自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月の期間以内に放棄などの手続きをとらなかった場合、③相続放棄をしたあとでも、相続財産の全部または一部を隠匿し、私に消費し、または悪意で相続財産の目録中に記載しなかった場合のいずれかに該当するときとされています。

そこで、相続放棄をすることのできない場面についてご案内致します。

①について

「相続財産の処分」とは、相続財産についての権利関係や性質を変えることなどを指します。例えば、相続財産である預貯金を解約したり、不動産を売却したりするのは処分にあたります。もっとも、保存行為(相続財産の価値を守るために手を尽くすことなど)や、ごく短期間賃貸することについては「処分」から除外されています。

②について

相続放棄は、いつまでも期間の制限なくできるものではありません。法律で「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」と定められています。いつまでも、相続放棄ができるとすると、例えば被相続人にお金を貸していた人は、相続人に払ってもらうよう請求できると考えていたのに、放棄されることで突然請求できなくなるあどの混乱が生じかねないからです。

相続のあったことを知ってから3か月を経過すると、原則として相続しなくてはなりません。たとえ「相続放棄のための期間が3か月であるということ」を知らなかったとしても、裁判所には認めてもらえません。自己責任ということになってしまうのです。

では、3か月の期間を過ぎると絶対に放棄することができないのかというと、そうでもありません。裁判所では、相続人が被相続人の財産について全くないと信じており、そう信じることについて相当の理由がある場合には、相続財産の全部または一部の存在を認識したときから3か月以内であれば、放棄は認められるという運用をとっています。

また、利害関係人や検察官の請求によって裁判所は3か月の期間をのばすことができるとも法律には規定されています。

しかし、こうした3か月の期間がのびたり、3か月の期間の経過後でも放棄が認められたりするのはあくまで例外です。相続を知ってから3か月以内に申立てする必要があろうかと思います。

③について

たとえ相続放棄をしたとしても、財産を隠したりした場合には放棄を認めないという規定になっています。いかに期間内に相続放棄をしたとしても、そのあとに相続財産を消費することができるとすると、マイナスの財産は相続しないとしつつ、相続財産の預貯金はすべて使い果たすなどといった事態になりかねないので、そのような事態を防ぐための規定となっています。

まとめ

ここまで、主に相続放棄の流れについてご案内しました。相続放棄は、ご自身で行うこともできる手続きです。しかし、書類を集めることも容易ではない場合があるほか、その背景には様々な問題があるため、相続放棄をするべきか、どうやってやればいいかなどお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭
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