会社の運営上、やむをえず従業員を解雇しなくてはならないことがあると思います。ですが、法律上、正社員の解雇は簡単には認められず、正当な理由があると思って解雇しても、後に訴えられるという危険があります。
ここでは、従業員を解雇する際に気を付けるべき点を解説致します。

解雇の種類

一口に解雇と言っても、いくつか種類があります。
①普通解雇②整理解雇③懲戒解雇④諭旨解雇の4つに分けることが一般的と思います。

①普通解雇は、主に懲戒解雇と区別するために使われるものですが、従業員の債務不履行を理由とすることが一般的です。たとえば、勤務状況が悪い、業務命令違反を繰り返すなどがあり得ます。

②整理解雇も、普通解雇の1つですが、特に企業の経営上の理由によって生じた人員削減の必要性に基づいて労働者を解雇することを言います。整理解雇をするための条件は、裁判例などで独自の理論が形成されていることから、普通解雇を分けて理解することが一般的です。

③懲戒解雇は、企業の秩序違反に対する制裁たる懲戒処分として行われる解雇を言います。
従業員の落ち度を理由として解雇するという点では、普通解雇と同じですが、懲戒解雇には、制裁という意味合いがあります。この点で、普通解雇とは異なります。
懲戒解雇は、制裁としての意味合いを持つことから、普通解雇よりも限定的に用いられなければなりません。そのため、行使できる条件も厳しいものとなっています。

④諭旨解雇は、従業員に懲戒解雇に相当するような事情がある場合に、それまで従業員の功績などを考慮して、温情的な措置として従業員側からの退職届の提出を求め、退職届を提出させたうえで、労働契約を解約する懲戒処分のことです。
このような意味で懲戒解雇よりやや軽い処分と言えます。

解雇は、企業の側から一方的に雇用契約を打ち切るものですから、限定的に認められなければなりません。そこで、解雇するためにはいくつかの条件があります。
以下、解雇の種類ごとに必要な条件を解説します。

普通解雇

解雇予告義務

企業は、労働者を解雇する場合、少なくとも30日前までにその予告をするか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。
雇用は生活の基盤となります。そのため、いきなり解雇をするのでは、労働者としては不利益が大きいですから、このような予告が義務付けられているのです。

もっとも、この予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合には、その日数を短縮することができます。
つまり、解雇予告期間と解雇予告手当を支払った日数の合計が30日になればよいということです。たとえば、解雇予告手当を10日分支払っている場合、20日前に解雇予告をすれば良いということになります。

これらが原則ですが、例外もあります。
天変事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合や、労働者の帰責性に基づいて解雇する場合には、即時の解雇であっても解雇予告手当を支払う必要はないとされています。

ですが、これらの場合に解雇予告手当を支払わずに即時解雇するためには労基署などの認定を受ける必要がありますし、今回は従業員に帰責性があるだろうと思っても、実は従業員に帰責性が認められないというケースもありますから、安易に従業員に帰責性があるとして即日解雇をするのは危険です。

また、①日々雇い入れられる労働者②2か月以内の期間を定めて使用される労働者③期間4か月以内の季節的業務につく有期労働者④試用期間中の労働者については、解雇予告義務は適用されません。

解雇理由の明示義務

企業は、労働者からの求めがあった場合には、解雇の理由を記載した証明書を交付しなくてはなりません。解雇予告期間に労働者が請求をした場合も同じです。これを解雇理由証明書と言います。

解雇理由証明書には、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、その就業規則の該当する条項の内容とその条項に該当するに至った事実関係を記載しなくてはなりません。

では、解雇理由の追加や変更が認められるのでしょうか。
多くの裁判例では、解雇時に存在した事情は、たとえ企業が認識していなかったとしてもこれを考慮することが許されるという判断をしています。
ですから、解雇時に存在した事情であるならば、解雇理由の追加や変更は認められるということになります。

就業規則の規定

普通解雇は、懲戒解雇をする場合と異なり就業規則等が存在しない場合でも行うことができます。しかし、「常時10人以上の労働者を使用する使用者」は、就業規則を作成する義務を負います。そして就業規則には解雇の事由も含めて退職に関する事項を定めなければなりません。

ですので、このような企業においては、事実上就業規則に書かれた理由に基づいた理由に限定して普通解雇ができるようになります。
そのため、通常、企業はいくつか普通解雇できる事由を定めた後、「そのほか前号に準ずる理由」を普通解雇できる要件として定めています。

逆に、就業規則を作成する義務を負わない企業においては、就業規則にない理由に基づいて普通解雇することができるということになります。

もっとも、仮にこのような企業において就業規則を作成していなかったとしても、それだけをもって必ずしも普通解雇ができなくなるということはないと理解されています。
結局、就業規則を作成する義務を違反している企業でも普通解雇自体は理屈上できると理解されていますが、個々のケースによって結論は異なります。

解雇に合理的な理由があること

解雇をするためには、①解雇に客観的に合理的な理由が備わっており、②解雇という処分をすることが社会通念上相当であることが必要となります。
このような事由の備わっていない解雇は、解雇権を濫用したと判断されます。

①の客観的に合理的な理由といっても一義的に明らかではありません。具体的には、ⅰ)労働契約の履行に支障を及ぼす債務不履行事由が将来にわたって継続するものと予め予測される場合に、ⅱ)その契約を解消するための最終的手段として行使されるべきと考えられています。

たとえば、従業員への注意や配置換えなどで十分に解雇を回避することが可能であるにもかかわらず、こういった手段を経ずに直ちに解雇するというのは解雇の合理的な理由がないと判断されやすくなります。

②の社会通念上相当であるかの判断においては、解雇事由の内容・性質・程度、労働者の情状、他の労働者との均衡、使用者側の対応・落ち度、手続の相当性などの諸事情を考慮すると理解されています。

たとえば、ある従業員に個人的な恨みがあり、不当な目的をもって解雇するなどの場合、社会通念上相当であるとはいえませんから、この場合は解雇が認められないという判断になりやすくなります。

整理解雇

整理解雇も普通解雇の1つですから、解雇予告義務や解雇理由の明示、就業規則に従うことは必要です。

整理解雇で特別なのは、整理解雇は、労働者には帰責性がないにもかかわらず使用者の経営事情により解雇されるものなので、解雇権の濫用にあたるかどうかが裁判実務上、厳格に判断されているという点です。

具体的には、①人員削減の必要性があること②解雇回避努力義務を尽くしていること③合理的な人選基準を立てて適正に運用していること④整理解雇にあたって労働者・労働組合の納得が得られるように誠実に説明・協議を尽くしていることが必要となります。

懲戒解雇

懲戒解雇は、制裁としての意味合いを持つものですから、普通解雇よりも限定的に行われる必要があります。
そこで、以下の条件を満たしていることが求められます。

解雇予告義務

懲戒解雇であっても、「解雇」であることに変わりはありませんから、解雇の予告義務はあります。

懲戒解雇の場合、従業員に帰責性があり、予告が必要ないのではないかという疑問がありえますが、「懲戒解雇であること=従業員に帰責性が認められる」というわけではありません。
ですので、懲戒解雇の場合に従業員に帰責性があると思われる場合には、労基署の認定を受けてから即日解雇をするべきです。

もっとも、普通解雇よりも労基署の認定は受けやすいといえることから、事実上は、懲戒解雇の場合には予告なく解雇されるということが多いのが実情です。

解雇理由明示義務

懲戒解雇の場合でも、解雇には変わりありませんから、普通解雇と同様に解雇理由を明示する義務があります。

懲戒処分の根拠規定の存在と周知

懲戒処分を行うためには、懲戒事由と懲戒の種類が就業規則等に規定されていること、かつ、当該就業規則等が周知されていることが必要です。

小さな企業では就業規則がないということも考えられますが、この場合、懲戒事由やその種類を規定した規則等がない以上、懲戒解雇はできないということになります。
そのため、この場合には懲戒解雇ではなく、普通解雇として手続きを行う必要があります。

懲戒解雇をする場合に備えて、就業規則をあらかじめ整えて、手続きに不備がないようにしておく必要があります。

このように就業規則が整備されていたとしても、それが労働者に周知されていることが必要です。周知とは、労働者が就業規則を知ろうと思えば、いつでも知ることができる状態にしておくことを言います。

具体的には、就業規則が見やすい場所に掲示し備え付けられていること、就業規則を交付していることなどが考えられます。

懲戒規定に該当する懲戒事由の存在

労働者が行った具体的な行為が、就業規則等に規定されている懲戒事由に該当することが必要です。

懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も重い処分で労働者に重大な不利益を与えるものですから、懲戒解雇事由にあたるかどうかは厳格に判断されます。
そのため、懲戒事由に該当する事実は、懲戒処分を行う時点で使用者が認識していた事実に限られ、懲戒処分後に新たに判明した事実をすでになされた懲戒処分の理由とすることはできません。

また、注意すべき点として、同一の行為について、すでに他の懲戒処分を行っている場合には、その同一の行為を理由として懲戒解雇をすることはできません。同じ行為に対して二重に懲戒処分をすることはできませんから、すでに同じ行為を理由として懲戒処分を行っていないか確認する必要があります。

当該行為が行われたあとに、当該行為が懲戒事由にあたるとする就業規則を制定して、その就業規則に基づいて懲戒処分をすることもできません。
懲戒事由を後から制定して遡って懲戒することは認められないのです。

懲戒処分に客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であること

懲戒処分は、労働者の不名誉や今後の再就職にも少なからず影響があることから、その有効性の判断は厳格になされる必要があります。
そのため、懲戒解雇が社会通念上相当なものである必要がありますが、その判断は主に以下のような事情を考慮して行われます。

処分の重さの相当性

懲戒処分の重さは、懲戒対象となった行為の内容や態様、行為の結果、事前の指導や注意の有無、使用者の調査への協力状況、過去の処分歴、本人の反省の有無、その他の事情に照らして相当なものでなければなりません。

懲戒対象となった行為が極めて軽微な就業規則違反であるにもかかわらず、懲戒解雇をするなどといったことは認められません。

平等な取り扱い

同じ規定に同じ程度に違反した他の事案があるような場合、処分の重さも同種・同程度である必要があります。

そのため、従業員Aと従業員Bが同じような違反をおこなったにもかかわらず、従業員Aは戒告にとどめ、従業員Bは懲戒解雇にするということは認められません。

適正な手続きをとっていること

就業規則や労働協約に、懲戒処分にあたって労働組合との協議や懲戒委員会での議決を経るなどの手続を定めている場合があります。
このように、手続的な規定が設けられている場合、手続を行わずにされた懲戒処分は無効となりえます。

また、就業規則等に手続的な規定がない場合でも、懲戒処分にあたって事前に労働者に弁明の機会を付与しているかどうかは、懲戒解雇の有効性を判断する重要な事情となります。

そのため、懲戒解雇を判断する場合には、あらかじめ事前の弁解の機会を与えることが必要と考えられます。

諭旨解雇

諭旨解雇は、退職届を提出して労働契約を解消するものですが、懲戒処分です。
そのため、懲戒処分である懲戒解雇をするために必要な上述の要件を満たす必要があります。

なお、諭旨解雇を従業員が拒否した場合には、懲戒解雇へ移行することが一般的です。

まとめ

ここまで解雇の種類ごとに気を付けなければならないことをまとめました。解雇の有効性の判断は、諸般の事情を考慮して行うものでありますから、ケースによって千差万別です。
このケースでは解雇しても問題ないだろうと思っても、のちに訴えられて裁判で負けるといったことも十分に考えられます。
解雇の判断をする際には、一度弁護士に相談するなど、慎重に進めることが安全かと思われます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭
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