被相続人が亡くなった後の遺産の分け方は、まず遺言書がある場合とない場合とで大きく異なりますし、遺言書がない場合は、相続人全員での協議→遺産分割調停→遺産分割審判と進んでいきます。本稿では、遺産分割の流れと手続きについて基礎から解説します。
「相続」を「争族」にしないための遺産分割
被相続人が亡くなった後、その悲しみが十分に癒えないうちにご遺族が直面するのことになるのが、遺産分け、つまり、遺産分割の問題です。
遺産が何もないというケースは稀ですので、誰が何を相続するのか、相続人の皆で話し合って決めていかなければなりません。
でも、そもそも遺産分割とは、どのように進めたらよいものなのでしょうか。
「相続」が「争続」になってしまうという話もよく聞きます。
「うちの家族に限っては、仲が良いから絶対に揉めることなんてない」というご家族であっても、遺産分けにはお金の問題が絡んできますので、話がこじれてしまったり、感情的になったりして、紛争になってしまうことがあるのです。
また、誤った知識や考え方に基づいて遺産分けの話を持ち掛けたばかりに、それが他の相続人の不信感や反感を買うことになって、その後の話し合いが円滑に進まなくなってしまうこともあります。
「相続」を「争続」にしないためにも、正しい遺産分けのやり方を知っておきましょう。
この記事では、遺産分割の流れと手続きについて、基礎から解説していきます。
遺産分割の前に確認すること 遺言書の有無
被相続人が亡くなった後、遺産分割をする前に、まず確認して欲しいことがあります。
それは、遺言書の有無です。
被相続人が遺言書を残していた場合には、原則として、その遺言書に記載されたとおりに遺産分けが行われます。
遺言書で全ての遺産の分け方が漏れなく記載されているのであれば、別途、遺産の分け方について相続人全員で話し合って決めていく遺産分割の手続きは不要となります。
そのため、相続人が最初にやるべきことは、被相続人が遺言書を作成していたかどうか確認することなのです。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言は、生前に大事なものを保管していた場所(鍵のかかる引き出しや金庫など)にしまわれていたり、身近で面倒を看ていた親族が預かっていることがありますので、当たりをつけて探してみましょう。
また、被相続人が遺言書保管制度(令和2年7月10日からスタートした新制度)を利用して、法務局に自筆証書遺言を保管している場合もありますので、最寄の法務局に問い合わせてみるのも一つの方法です。
自筆証書遺言は、家庭裁判所に検認の申立てをして、検認の手続きを行った後で開封します。
自宅などで発見したからといって、その場ですぐに開けたりしないよう注意して下さい。
なお、遺言書保管制度を利用して保管していた場合は、自筆証書遺言であっても検認の手続きは不要です。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言(正本や謄本)も、身近で面倒を看ていた親族が預かっていることがありますが、昭和64年1月1日以降に作られたものであれば、最寄の公証役場に照会をかけることで、公正証書遺言の有無、及びどこの公証役場に原本が保管されているかを調べることができます。
公正証書遺言の場合は、自筆証書遺言の場合のように、検認の手続きをする必要はありません。
遺言書に従って遺産分けをする(遺言執行)
あとは遺言書に従って遺産分けを行います。
遺言書の中で「遺言執行者」が指定されている場合はその人が、指定されていない場合は相続人(及び受遺者)の全員で、遺言書の記載内容に従って、預金の解約・払い戻しや不動産の名義変更などの手続きを行っていきます。
遺言書がない場合の遺産分け
「被相続人が遺言書を残していなかった」
「遺言書は発見できたものの、記載から漏れている遺産がある」
という場合は、相続人全員で遺産分割を行う必要があります。
まずは、相続人全員で親族会議を開いて、遺産分けの話し合い(誰が、どの遺産を、どれだけ取るのか)をしていくことになります。
相続人全員で話し合った結果、遺産の分け方につき皆の合意が得られたら、その内容に沿った遺産分割協議書を作成します。
預金の解約・払い戻しや不動産の名義変更などの手続きは、その遺産分割協議書をもとに行っていきます。
これに対して、相続人全員で話し合っても遺産の分け方につき皆の合意が得られない、話し合いに応じない相続人がいるという場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停(ないし審判)を申し立てて、裁判所を介した解決をしていくことになります。
調停が成立すれば調停調書が、審判が出されれば審判書が発行されますので、それらの書類をもとに、預金の解約・払い戻しや不動産の名義変更などの手続きを行うことになります。
こうした遺産分割の大まかな流れをまとめると、次の図のようになります。
ここからは、遺言書がなかった場合の遺産分割の進め方について、詳しく見ていきましょう。
遺産分割の流れと手続き
相続人の確定
遺産分割は、相続人全員で行う必要があります。
せっかく話し合いがまとまったとしても、相続人の一部を除外した遺産分割協議や、逆に相続人ではない人を加えた遺産分割協議は、無効です。
このため、遺産分割の話し合いをする前に、必ず、「今回の相続で、相続人になるのは誰なのか」を、正確に把握しておかなければなりません。
誰が相続人になるのかは民法で決められており、これを「法定相続人」と呼びます。ここでしっかりと確認しておきましょう。
法定相続人の範囲
①配偶者(夫や妻)
②血族
ア 直系血族:①直系尊属:父母、祖父母
②直系卑属:子(胎児や養子、非嫡出子も含まれます)、孫、曾孫
イ 傍系血族:兄弟姉妹、甥、姪
法定相続人間の優先順位
民法は誰が相続人になるのかだけではなく、その範囲内での優先順位も定めています。
①第1順位の相続(被相続人に子がいた場合)
子と配偶者が相続人になります(配偶者が死亡している場合には、子のみが相続人になります)
②第2順位の相続(被相続人に子がいない場合)
父母と配偶者が相続します(配偶者が死亡している場合には、父母のみが相続人になります)
③第3順位の相続(被相続人に子がなく、父母はすでに死亡している場合)
兄弟姉妹と配偶者が相続します(配偶者が死亡している場合には兄弟姉妹のみが相続人になります)
姻族(子の配偶者など)は、たとえ生前どんなに被相続人と親しかったとしても、相続人にはなりません。
また、法律婚を経ていない内縁の配偶者も、現在の法制度のもとでは相続人にはなれません。
その一方で、戸籍関係を調べたところ、家族の誰も存在すら知らなかった人(認知された婚姻外の子など)が相続人になることがあります。
この場合は、どうしたらよいですか?
でも、その親も、今回の遺産分割の相続人にあたるのですが・・・。
そこで、親は、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求します。
選任された特別代理人が、未成年者の代わりに遺産分割の話し合いに参加することになります。
「遺産分割」の意味合いも全く理解できないようで、話し合いができるかどうか不安です。
その方が事理弁識能力を欠く常況にあるのであれば、四親等内の親族などが家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てます。
選任された成年後見人が、判断能力の衰えた方の代わりに遺産分割の話し合いに参加することになります。
大変そうなので、そのまま、遺産分割協議書に何とか本人に署名・押印してもらって済ませてはダメですか?
事理弁識能力を欠く常況にある人に、内容も理解できないまま、形だけ署名・押印してもらっても、そのような遺産分割協議書は無効です。
面倒でも、きちんと後見人を選任してもらって、適正な手続きを踏むようにして下さい。
遺産分割協議を行う
相続人が誰かが確定できたところで、それらの相続人全員で遺産分けについての話し合い、すなわち、遺産分割協議を行います。
誰が、どの遺産を、どれくらい取得するのか、相続人皆で話し合って決めていくということです。
なお、遺産分割協議は必ずしも全員が一堂に集まる必要はなく、各相続人が協議の内容を承諾しているのであれば、持ち回りの方法(書面を順次郵送していく方法)でも問題はありません。
遺産分割の方法
一口に「遺産を分ける」と言っても、その分け方は千差万別です。
対象となる遺産の種類(預金か不動産か)や遺産全体に占める流動資産の割合、相続人の人数や各相続人の希望(例えば、「遠方に住んでいるので、実家不動産は要らない」といった希望)など、ケースごとに適した分け方も異なります。
実際の分け方は、大別して次の4つとなります。
①現物分割=遺産を相続人間で物理的に分割する分け方
②共有分割=遺産を複数の相続人の共有名義にする分け方
③換価分割=不動産などの遺産を売却し、その売却代金を相続人間で分ける分け方
④代償分割=遺産を取得した相続人が、その遺産を取得しなかった他の相続人に代償金を払う分け方
なお、遺産の全てを同じ方法で分割する必要はなく、例えば、「預金については現物分割するが、不動産については換価分割する」ということもよくあります。
それぞれの方法につき、少し詳しく見ていきましょう。
①現物分割
遺産を相続人間で物理的に分割する分け方のことです。
例えば、預金を解約・払い戻ししたうえで、そのお金を相続人間で分けて取得することや、1筆の土地を分筆したうえで、それぞれを別々の相続人が取得することです。
上記の例からも明らかだと思いますが、現物分割ができるのは、物理的に分けることが現実的に可能な遺産についてだけです。
1棟の建物を物理的に分割する(建物をどこかで切断して分ける)ことは、現実的に難しいでしょう。
このような場合は、換価分割や代償分割など、他の方法による分け方を考える必要があります。
②共有分割
遺産を複数の相続人の共有名義にする分け方のことです。
主に不動産を分ける時に使われる方法であり、例えば、思い入れのある実家を複数の相続人で共有する、収益性の高いアパートを複数の相続人で共有して賃料収入も分け合うといったやり方です。
ただし、遺産を共有状態にするということは、その不動産を売却するにも賃貸に出すにも、自分一人の意思だけでは決められず、他の共有者とその都度話し合って決めていかなければならなくなる、ということを意味します。
他の共有者との関係性が良好なうちはよいのですが、ひとたび険悪な仲になってしまうと、これほど厄介なことはありません。
そのため、弁護士としては、よほどの事情がある場合でないと、この共有分割の方法はお勧めしません。
③換価分割
不動産などの遺産を売却し、その売却代金を相続人間で分ける分け方のことです。
売ってしまうので遺産そのものは誰の手元にも残せなくなりますが、売却代金を皆で分けるため、最も公平な分け方であるといえるでしょう。
建物など物理的に分けることが難しい遺産や、それなりの価値があるにもかかわらず相続人の誰も取得することを希望しない不動産などで、使われることの多い方法です。
④代償分割
遺産を取得した相続人が、その遺産を取得しなかった他の相続人に代償金を払う分け方のことです。
例えば、長男が実家不動産を単独で取得する代わりに、実家不動産を取得しなかった次男や三男にはその分の代償金を支払う、といったやり方です。
支払う代償金の金額は、「対象となる遺産の価額×遺産を取得しなかった相続人の法定相続分」という計算をして、決めることが多いです。
なお、実際に代償金が支払えることが前提となりますので、遺産全体に占める流動資産の割合が極端に低い場合や、遺産を取得する相続人に代償金を支払うだけの資力がない場合など、この方法による分割が難しいことがあります。
遺産分割協議書の作成
相続人全員で話し合った結果、皆が納得のいく遺産の分け方が決まったら、遺産分割協議の成立です。
協議が成立した段階で、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書に決まった書式はありません。
ただし、財産の特定の仕方が不十分だと、預金の解約・払い戻しができない、不動産の登記名義が変更できない、といった困った事態になる恐れもあります。
そこで、遺産分割協議書の書き方に不安があれば、専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。
遺産分割協議書は相続人の人数分を作成し、全員が署名・押印をして、完成したものを各人がそれぞれ1通ずつ保管します。
押印する印は実印にして、印鑑登録証明書を添付するのが通例です。
相続人全員が一堂に会して作成する必要はなく、人数分の協議書を順次郵送する方法で作成しても問題ありません。
遺産分割協議書が完成したら、その協議書を使って、預金の解約・払い戻しや不動産の名義変更ができるようになります。
なお、遺産分割協議書は、遺産の分け方について相続人全員で話し合い、合意できた結果をまとめたものです。
そのため、一度成立した遺産分割協議書は原則として撤回できず、各相続人は遺産分割協議書に記載された内容に従わなければなりません。
遺産分割協議書に記載された内容と異なる分け方をする場合には、遺産分割協議に関与した相続人全員の同意が必要となります。
遺産分割調停
遺産分割をする場合、まずは、相続人全員による話し合いによって解決するのが原則です。
しかし、相続人の間で話し合いがまとまらない場合や、協議に応じようとしない相続人がいる場合には、遺産分割協議を成立させることができません。
このような場合は、次のステップとして、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
遺産分割調停の当事者
遺産分割調停は、相続人のうちの1人が申し立ててもよいですし、意見の一致する複数の相続人が一緒に申し立てをしてもよいです。
ただし、遺産分割協議と同様、遺産分割調停でも相続人全員が関与する必要があります。
そのため、調停の「申立人」か「相手方」のどちらかに、相続人全員が入っていなければなりません。
遺産分割調停の必要書類
申立書に添付する書類として、
①被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
②相続人全員の住民票(または戸籍附票)
③遺産目録
④(遺産を示す資料として)預金通帳の写し、不動産登記簿謄本など
が必要です。
事案によっては、上記の他にも必要となる書類がある場合があります。
遺産分割調停の管轄
「管轄」とは、どこの裁判所に申し立てをすればよいのかということです。
遺産分割調停の場合、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。
例えば、申立人が「さいたま市」に住んでいて、相手方が「水戸市」に住んでいる場合は、「水戸家庭裁判所」に申し立てをします。
相手方が複数いる場合には、そのうちの1人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てればよく、地理的な距離の関係から、任意の裁判所を選ぶことも可能です。
例えば、申立人が「さいたま市」に住んでいて、相手方4人が「東京都北区」、「さいたま市」、「水戸市」、「青森市」にそれぞれ住んでいる場合、「東京家庭裁判所」、「さいたま家庭裁判所」、「水戸家庭裁判所」、「青森家庭裁判所」のうち任意の1か所に申し立てることができます。
上記の例では、出頭する場合のアクセスのしやすさから、同じ「さいたま市」にある、「さいたま家庭裁判所」を選択することが多いと思います。
もっとも、現在では電話会議システムの活用により、たとえ遠方の裁判所に申し立てをしたとしても、それほど出頭する苦労はかからなくなってきています。
遺産分割調停の進み方
調停を申し立てた後の手続きの流れは、大まかに次のとおりです。
受付後2~3週間くらいで、第1回目の調停期日(=調停を行う日程のことです)が指定される
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第1回調停期日の実施 & 第2回調停期日の指定
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第2回調停期日の実施 & 第3回調停期日の指定
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(大体1か月~2か月に1回のペースで調停期日が繰り返される)
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合意が整ったら調停成立となり、裁判所で調停調書が作成される
↓
裁判所から送られてくる調停調書をもとに、預金の解約・払い戻しや不動産の名義変更を行う
遺産分割調停は、裁判所に舞台を移すとはいえ、厳密な立証が求められる裁判手続きとは異なり、あくまで“話し合い”の手続きです。
相続人全員の合意が整うか、あるいは合意が整う見込みがないという段階になるまで、話し合いを重ねます。
その際、当事者同士が直接顔を突き合わせて話し合うのではなく、家庭裁判所の調停委員が間に入って、各相続人の意見や主張を聞きながら、相続人全員が納得できるような遺産分けの方法を探っていくのです。
ドラマなどでよく見る、“高い所に裁判官が座っていて、その下の左右に当事者がいて、柵の外に傍聴人がいる”ような感じだと、緊張してしまいます。
遺産分割調停は、公開法廷を使うわけではなく、調停室という比較的小さな部屋で行います。
部屋の中にはテーブルがあって、男女2名の調停委員がそこに座っています。
当事者は同じテーブルの向かいに座って、調停委員と話をするんです。
傍聴人が入ってくることはないですか?
でも、協議の段階で相手方とすごく険悪な仲になってしまって・・・できれば、相手方と顔を合わせたくないのですが、可能ですか?
調停は、原則として入れ替え制で行います。
申立人が調停室に入って話をしたら、申立人の退室後、今度は相手方が調停室に入って話をする。相手方が退室したら、また申立人が呼ばれて、調停室に入って話をする・・・という感じです。
ちなみに、調停はあくまで“話し合い”の手続きなんですよね。
だったら、弁護士に依頼せずに自分でやってもよいでしょうか?
相手方からは、「生前贈与」がどうとか、「寄与分」がどうとか、色々言われているのですが・・・。
適切な法的主張をしないと、ご自身にとって不利益な結果となってしまう恐れもありますので、できれば、相続問題に強い弁護士に依頼することをお勧めします。
遺産分割審判
調停で話し合いを重ねても合意が成立しない場合、すなわち、調停が不成立となった場合は、家庭裁判所での審判に移行します。
自動的に移行しますので、改めての申立ては不要です。
審判は、これまでのような“話し合い”の手続きではありません。
家庭裁判所の裁判官(審判官)が、これまでの調停の経過やその他様々な事情を考慮したうえで、どのように遺産を分けるか判断します。
言わば、家庭裁判所が出す判決、というイメージです。
裁判官(審判官)が下した審判には強制力があり、預金の解約・払い戻しや不動産の名義変更なども審判書によって行うことができます。
なお、審判では、法的に整理された主張書面や証拠の提出、証人尋問など、地方裁判所で行う民事裁判と同じようなことが行われます。
当事者ご本人が独力で行うには限界があると思いますので、専門家である弁護士に依頼した方がよいでしょう。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。