結婚後、お子さんの誕生等をきっかけとして夫婦間の性交渉等の頻度が減り、やがて長期間にわたり性交渉等がない状態=セックスレスに陥ることがあります。
結婚生活の要素として性交渉を重視する場合には致命的な問題となり得ますが、今回は配偶者とのセックスレスを理由に離婚をすることができるかについて解説をしていきます。
セックスレスとは?
まず、何をもってセックスレスの状態にあると言えるかということを考えてみます。
日本性科学会は、特別な事情がないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上ない場合、当該カップルはセックスレスの状態にあると定義していますが、離婚の原因としてのセックスレスは、より長期にわたって配偶者との性交渉等が断絶していることを意味するという印象です。
セックスレスの期間を定めた法律上の規定は存在しませんが、おおよそ1年以上にわたり配偶者との性交渉等が断絶している場合、当該夫婦はセックスレスの状態にあると言えそうです。
セックスレスは離婚の原因となる?
民法は離婚の原因について以下の5つのケースを掲げています。
①配偶者に不貞行為があったとき
②配偶者から悪意で遺棄されたとき
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④配偶者が重度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他、婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
民法は夫婦がセックスレスの状態にあることを個別の離婚原因として定めていないため、セックスレスを原因に配偶者と離婚しようと考える場合には、セックスレスの状態にあることが上記の⑤に該当することを主張・立証し、裁判所に認めてもらう必要があります。
離婚の種別について
セックスレスを原因として配偶者と離婚をするにはセックスレスの状態が婚姻を継続し難い重大な事由がある場合に該当すると裁判所に判断してもらう必要があるということに触れましたが、これはあくまで裁判離婚の場合です。
離婚には、当事者間で協議を行った上で役所に離婚届を提出して離婚をする協議離婚、家庭裁判所の調停委員に間に入ってもらった上、当事者間で協議を行って離婚をする調停離婚、裁判官に離婚原因の有無を判断してもらって離婚をする裁判離婚の3種類があります。
このうち、厳密な離婚原因の主張・立証が必要となるのは、裁判離婚かつ離婚を求められている配偶者が離婚に応じない場合です。
協議離婚、調停離婚、裁判離婚かつ離婚を求められた配偶者が離婚には応じている場合には厳密な離婚原因の主張・立証は必要となりませんので、それらの場合には、セックスレスの状態が婚姻関係を継続し難い重大な事由がある場合に該当しない軽度なものであっても、その他の離婚条件が折り合えば配偶者と離婚をすることはできます。
セックスレスが婚姻関係を継続し難い重大な事由に該当する場合
配偶者とのセックスレスのみを理由として離婚裁判を争うケースは多くなく、配偶者の不倫、別居、モラハラなど別の離婚原因をあわせて主張していくことがほとんどですので、セックスレス単体の離婚原因該当性の判断は難しいのですが、配偶者が性交渉等を行うことに支障がないにもかかわらず、理由を明らかにせずに性交渉等を一方的に拒絶するという状態が長期化しているという状態にある場合には離婚原因として認められる可能性があります(このような配偶者の行動の裏には不貞行為が絡んでいることも多いのでそれが離婚原因と判断されることもあります)。
他方で、以下のようなセックスレスの場合には裁判所に離婚原因として認めてもらうことは難しくなってきます。
・いずれが意図したわけではなく加齢等により性交渉等の機会が自然消滅した場合
・生活リズムのズレ等により夫婦双方が性交渉を望まない場合
・配偶者の持病等により性交渉等を行うことが難しい場合
セックスレスの立証手段
夫婦の間で性交渉等がないこと自体については争いがないことが多いですが、セックスレスに至る経過については主張が対立することがありますので、セックスレスに至る過程についての証拠を収集しておく必要があります。
客観的かつ明確に確認ができるものとしては、配偶者が性交渉等を拒否する際のやり取りの録音、メール等のメッセージのやり取り等があります。
録音等の機会がないという場合には、日記やメモ、夫婦のスケジュール帳なども証拠として使うことができます。
セックスレスを原因として離婚する場合の慰謝料
セックスレスが離婚原因になるかという点と同様、離婚慰謝料には婚姻生活における他の要素も含まれてくるため、セックスレス単体に対する慰謝料の金額を算定することは難しいところですが、セックスレスのみでは大きな慰謝料は期待できないというのが正直なところです。
配偶者が他に支障がないにもかかわらず一方的に性交渉等を拒絶し続けたという場合でも100万円の慰謝料が認められれば、慰謝料としてはかなり高額の認定になったといえる程度と思われます。
まとめ
今回は配偶者とのセックスレスを理由に離婚をすることができるかについて解説をしてきました。
セックスレスは他の離婚原因とあわせて語られることが多い性質のものですので、離婚原因や慰謝料といった観点において単体のインパクトは大きくないという印象です。
ただ、夫婦がセックスレスの状態にあるという場合には夫婦生活のそれ以外の部分についても綻びが生じていることが多いため、総合的な観点から証拠収集等をしていくことが重要となります。