不倫事件において調査を進めると不倫相手が配偶者の勤務先の上司であったということは珍しくありません。
上司に対して不倫を原因とする慰謝料請求を行うことは当然として、上司と配偶者の今後の関係性についても何らかの対応をしておきたいとお考えの方は多くいらっしゃいます。
今回は、配偶者が勤務先の上司と不倫をしている場合の対応について解説をしていきます。
勤務先の上司と不貞関係に至る経緯
配偶者が勤務先の上司と不倫に至る経緯は様々ですが、上司に業務上の相談をする中で夫婦間の愚痴に話が逸れ話し込むうちに親密な関係性となった、上司の側から誘いを受け不倫はよくないと考えていたが近く離婚する予定である等の話をされそれを信用してしまったというような言い分をよく聞きます。
不倫慰謝料
経緯はどうあれ、不倫は平穏な夫婦生活を阻害するものであり、不倫をされた側に多大な精神的苦痛を与えるものですので、不倫の当事者は不倫をされた側に生じた精神的苦痛に対する損害賠償義務を負います。これがいわゆる不倫の慰謝料というものです。
不倫は、不倫の当事者が不倫をされた側に共同でダメージを与える行為ですので、不倫をされた側は不倫の当事者双方に対して不倫の慰謝料請求を行うことができます。
ただし、不倫をされた側が不倫により受けたダメージは一つのものとしてカウントされますので、法的には、不倫をされた側は不倫により受けたダメージを金銭評価した金額を超える慰謝料を受け取ることはできないとされています。
不倫により受けたダメージを金銭評価した金額が仮に150万円であったとすると、不倫をされた側は不倫の当事者双方に150万円ずつを請求することができますが、不倫の一方当事者が不倫をされた側に150万円を支払った場合、不倫の他方当事者からはそれ以上の金銭を受け取ることはできないということになります。
不倫慰謝料の相場
不倫をされた側が不倫により受けたダメージの客観的な金銭評価は裁判所が行いますが、裁判における不倫慰謝料額の相場は数十万~300万円程度とされています。
不倫慰謝料の金額は、結婚期間の長短、不貞期間の長短、不貞行為の頻度、不倫当事者間の妊娠の有無、不倫をされた側の夫婦関係の状況、不倫当事者間の主従関係等により上下します。
配偶者が勤務先の上司と不倫をしている場合の特殊性
慰謝料増額の可能性
配偶者が勤務先の上司と不倫をしているという一事をもって不倫慰謝料が増額するという関係性にはありません。
しかし、先に述べた不倫慰謝料額の判断要素である不倫当事者間の主従関係という観点からは、上司の方から積極的に配偶者を不倫関係に誘っていた、上司が自身の配偶者との夫婦関係について虚偽の事実を伝えていた、上司が業務上の立場を利用して不倫関係を維持していた等の事情がある場合には上司に対する慰謝料額が増額される可能性があります。
勤務先における対応
社内で不倫関係が生じていることが勤務先に発覚した場合、不倫当事者である上司や配偶者に対して勤務先が何らかの人事上の措置を講ずる可能性があります。
たとえば、上司と部下が不倫をしていることが社内の秩序維持の観点から好ましくないと判断されれば、当事者間の物理的な距離を離す配置転換や降格等の懲戒処分が行われることがあります。
ただし、不倫が業務時間外に社外で行われ、業務に特段の支障が出ていないというような場合には、勤務先として不倫自体は好ましくないが特段の措置を講ずる必要はないという判断をする場合もあります。
社内で不倫関係が生じていることに関して、勤務先として不倫当事者に対してどのような処分を行うかは、不倫当事者の使用者である勤務先が判断すべき事柄であるため、不倫をされた側が不倫当事者に対して何らかの措置を講ずることを勤務先に強制することはできません。
勤務先に不貞を報告することの是非
勤務先における対応に関連して、不倫をされた側としては勤務先に不倫の事実を報告して何らかの対処を求めたいという気持ちが芽生えます。
不倫をされた側としてそのような思いが生じることは当然のこととして理解でき、居ても立っても居られないというお気持ちを否定することはできませんが、実際の行動に移すべきかという点については弁護士としてお勧めできません。
不特定多数の社員が見聞きできるような形で勤務先に対して不倫の事実を伝えてしまうとすればそれは不倫当事者に対する名誉棄損に該当する可能性がありますし、仕事を辞めなければ勤務先に報告する等と言えばそれは不倫当事者に対する脅迫に該当する可能性があります。
名誉棄損等の行為は不倫をされた側であるということをもって正当化されることはなく、不倫とは別の問題として責任を追及される可能性があります。
不倫について真摯に反省をしている当事者であれば勤務先への報告についても身から出た錆として受け入れるかもしれませんが、不倫はさておき自身に対する権利侵害については主張を行うという場合も多くありますので、不倫当事者のために自身を危険に晒す行為は控えるべきと考えます。
裁判所の慰謝料相場を前提とすると正攻法では感情面まで満足させることは難しいかもしれませんが、勤務先等に対する事実上の行動については、不倫当事者と同じく責任を追及される立場に身を置くべきかという観点から判断すべき事柄と思います。
今後の接触禁止について
勤務先における対応とは離れて不倫当事者が今後接触しないようにするためには、不倫当事者との間で交わす合意の中に今後の接触禁止条項を盛り込むことが考えられます。
不倫の発覚に伴う異動や退職等により上司と配偶者が既に同じ場所で働いていない場合には通常の接触禁止条項を盛り込み、いまだに同じ場所で働いている場合には業務上の接触は避けられない可能性があることから業務上の必要がある場合の最低限の接触を除外した接触禁止条項を盛り込むことになります。
接触禁止条項には先方が違反した場合に備え違約金条項を定める場合もありますが、その場合は違反行為1回につき●円の違約金を支払うといった内容を盛り込みます。
合意書作成後、違反行為を確認した場合には違約金条項を根拠に違約金を請求することになります。
まとめ
今回は配偶者が勤務先の上司と不倫をしている場合の対応について解説をしてきました。
配偶者の不倫相手が勤務先の上司であることから直ちに他の不倫事件との差異が生じるわけではありませんが、上司であれば収入面から支払能力に問題がない、勤務先は配偶者と同一であるため給与の差押えはしやすいといった回収可能性に関する利点は存在します。
正攻法では慰謝料請求以上のことを強制できるわけではありませんが、不倫当事者と同じ請求される立場になることがないよう振る舞うことが法的には適切な対応ということになります。