近年、夏の暑さの厳しさは増すばかりです。そのため、特に屋外での仕事中においては、熱中症を発症してしまうリスクが存在します。
本コラムでは、熱中症と労災の関係について解説します。
労働災害とは
労働災害とは、労働者が、労働をしている時や通勤の途中に起きた事故によって、ケガをする、病気になる、お亡くなりになることをいいます。
労働者には、正社員のみならず、パートやアルバイト、契約社員などの形態により雇用されている者も対象に含まれます。
具体的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 工場での作業中に、プレス機に足を挟まれて大ケガを負った。
- 高所での現場作業において、足場が滑って転落し、ケガを負った。
- 長時間のデスクワークにより脳出血や脳梗塞を発症した。
- 他の従業員による重機の操作ミスにより、下敷きになり死亡した。
- 会社を退勤した後、車で帰宅していたところ交通事故にあった。
労災事故の発生から労災補償給付を受けるまでの流れ
労災保険への申請
「労働者災害補償保険法」という法律の第1条は、次のように規定しています。
「労働者災害補償保険は、業務上の事由、(中略)又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、(中略)又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。」
労働者災害補償保険法
このように、労災保険は、労働者が仕事中(通勤途中も含みます。)にケガをしたり、病気になった時、お亡くなりになったときに、必要な補償を受けられるようにして、労働者やご遺族の生活を守る制度です。
そのため、企業には、労災保険への加入が義務付けられています。
そこで、労働災害が発生したときには、労働基準監督署に対し、労災保険給付を申請することになります。
労災が認定される要件
業務中に発生した事故が労災として認められるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2点がポイントになります。
「業務遂行性」とは、労働者が事業主の支配ないし管理下にある中で起きた事故である、ということを言います。
例えば、直射日光下での屋外の建設現場での作業中における熱中症ということであれば、業務遂行性は認められることが多いのではないかと思われます。
「業務起因性」とは、業務に伴う危険が現実化したこと、つまり、業務と結果(ケガや病気、死亡)の間に因果関係があることを言います。
現場で作業している最中の事故であれば、一般的には業務起因性は認められやすいと思われます。
一方で、本人の私的行為、業務から逸脱した行為、規律に違反する行為等は、業務起因性を否定する事情になりえます。
労災が発生した場合の給付請求の方法
給付の内容に応じて、労働基準監督署へ給付申請を行うことになります。
申請後、労働基準監督署の判断を経て、支給の決定がなされれば、給付を受けることができます。
例えば、以下のような給付があります。
①療養(補償)給付
労災病院や労災指定病院等を受診・治療する場合には、当該病院に「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を提出し、請求します。
それ以外の医療機関を利用して受診・治療した場合には、費用を立て替えた上で、労働基準監督署に「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を提出し、請求します。
②休業(補償)給付
労働基準監督署に「休業(補償)給付支給請求書」を提出し、請求します。
障害(補償)給付
労働基準監督署に「障害(補償)給付支給請求書」を提出し、請求します。
傷病(補償)年金
労働基準監督署が職権で行うため、請求は必要ありません。
遺族(補償)年金
年金受給者である配偶者その他の遺族が、労働基準監督署に「遺族(補償)年金支給請求書」を提出し、請求します。
書類の様式や記載する内容等に不明な点があれば、労働基準監督署の窓口等で相談しながら申請手続きをすることもできます。
もっとも、手続きが煩雑であると思われる方もいらっしゃると思います。
そのような場合には、弁護士に依頼することも考えられます。
熱中症と労災の関係
熱中症は労災事故として認められるのか
熱中症も、労災事故として認められる可能性があります。
もっとも、職場で熱中症になった場合、すべてが労災事故として認められるというわけではありません。
先に述べたように、労災においては、「業務遂行性」や「業務起因性」といった要件を満たす必要があります。
例えば、温度の高い場所において仕事に従事していた際に、熱中症を発症したというような場合には、「業務遂行性」や「業務起因性」を満たしているとして、労災認定される可能性が高いでしょう。
職場における熱中症はどれくらい発生しているのか
厚生労働省が公表している「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によれば、職場での熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者は、令和4年では827人にのぼります。
うち、30名の方がお亡くなりになっています。
業種としては、建設業、製造業、運送業の順で多くなっています。
月別では、やはり7月と8月が多くなっています。
熱中症による労災事故において、当事務所でお役に立てること
後遺障害が残ってしまった場合
熱中症は、重症度によって3段階に分類されています。
重症度が高い場合には、意識障害などにより入院が必要になり、重大事故となる危険があります。
そのため、熱中症の症状の程度によっては、後遺障害が残ってしまう可能性も否定できません。
後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害分の慰謝料や逸失利益など、損害額が大きくなる可能性があります。
そのため、しかるべき賠償を得るためにも、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
ご家族が亡くなってしまった場合
仕事中の熱中症によって、ご家族を亡くしてしまった場合、葬儀等の手続きや今後の生活の不安を抱えながら、さらに、労災の手続きもすることは、ご遺族に大きな負担となります。
また、死亡事故においても、やはり賠償額が大きくなりますので、専門家により適切に計算、請求する必要があります。
このような場合には、弁護士に労災の件の一切を任せることで、ご遺族の負担を軽減することができます。
会社への損害賠償請求
例えば、慰謝料については労災からは支給されないように、労災給付は十分な補償とは言えません。
そのため、労災から給付されない部分については、会社への損害賠償請求を検討することになります。
会社には、建設現場の管理責任に関し、「安全配慮義務(労働者が安全かつ健康に働くことができるように配慮する義務)」があります。
例えば、熱中症を予防するために十分な休憩や水分・塩分の補給をさせるといった対策を取らない、健康状態を確認しないまま高温の中で作業をさせる、体調不良の疑いがあるのに涼しい場所で休ませない等の場合が挙げられます。
また、事故の態様によっては、「不法行為責任(事故の原因が企業の活動そのものを原因とするような場合や、現場の環境・設備に危険があった場合などに認められる責任)」が認められるケースもあります。
これらを根拠として、勤務先の会社に対して、損害賠償請求をすることが考えられます。
【まとめ】熱中症による労災事故に遭われた際は、ぜひ弁護士へ相談を
これまで述べてきたように、熱中症による労災事故は、重大な事故に発展する可能性があります。
場合によっては、会社に対して多額の損害賠償請求をすることができる可能性もあります。
心当たりのある方は、ぜひ一度弁護士に相談をすることをおすすめします。
グリーンリーフ法律事務所は、地元埼玉で30年以上の実績があり、各分野について専門チームを設けています。ご依頼を受けた場合、労働災害の問題に強い専門チームの弁護士が担当します。
初回30分のご相談は無料です。また、初回10分程度の電話による無料の相談もおこなっています。
まずは、一度お気軽にご相談ください。